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陸軍航空の情報センター

患者後送の改善

2025年度以降の次世代航空機に反映させるべき教訓

大佐 マイケル・F・ブレスリン及びロバート・D・ミッチェル共著

ミシシッピ州ニュー・アルバニーの特技下士官マーク・ジョーダンをホイストで回収するアラスカ州ピーターズバーグの3等軍曹ダニエル・ブザード

陸軍救急航空機の機体及び任務装備品が米陸軍の熟達した搭乗員と共に世界最高の患者後送システムへと進化してきたことに疑問の余地はない。この進化に大きく貢献したのは、陸軍航空部と陸軍衛生部の調整と協力であり、この進化をさらに促進させたのは、14年以上に及ぶイラク及びアフガニスタン戦域における教訓であった。アラバマ州フォート・ラッカーの患者後送検討グループ(Medical Evacuation Proponency Directorate , MEPD)は、米陸軍航空センター(U.S. Army Aviation Center of Excellence, USAACE)、衛生即応センター(Health Readiness Center of Excellence, HRCoE)及び航空医療後送チームと連携しつつ、DOTMLPF(doctrine, organization, training, materiel, leadership and education, personnel, and facilities, 教義・組織・訓練・資材・統率力及び教育・要員並びに施設)のすべてに渡る多様な取り組みを行っている。本記事は、患者後送に関し、これまでに得られた教訓事項及び次世代航空機が導入される2025年以降の方向性について記述するものである。

教訓事項

過去14年間の戦闘行動を通じて得られた最も重要な教訓事項は、戦場における重傷者の治療に関する「航空救護員の訓練の改善」が必要だということであった。戦場における重度の負傷には、複数個所の切断、大量出血、脳損傷等がある。陸軍衛生部(Army Medical Department, AMEDD)は、これらの重度の負傷に的確に対応できるようにするため、従来の「航空救護員訓練」を「救急救命医療隊員(Critical Care Nationally Registered Paramedic, CC-NRP)訓練」へと変更する決定を下した。従来、4週間で実施されていた訓練プログラムは、8週間の救命救急訓練を含み、国家基準に適合した厳しくかつ広範囲に渡る9ヶ月間の訓練プログラムへと変更されることとなった。
 戦場における重傷患者の治療から得られたもうひとつの重要な教訓は、「患者後送中の血液製剤輸血」の必要性であった。2012年以降、陸軍の患者後送機は、戦場における重傷患者に対するパック入り赤血球(packaged red blood cells, PRBC)及び解凍血漿(しょう)を用いた治療に対応してきた。これらの血液製剤を用いた治療について規定した「重傷者治療に関する作戦規定(Standing Operating Procedures, SOP)」は、患者後送検討グループ(Medical Evacuation Proponency Directorate , MEPD)により作成され、負傷者の生存性向上に貢献した。

もうひとつの重要な教訓としては、アフガニスタン作戦で使用された最新式量産型患者後送航空機であるHH-60M(訳者注:HHは、捜索・救難及び患者後送用ヘリを意味する。)の衛生機内装備品の改良がある。HH-60Mの装備が開始された2009年以降、指揮官達は、任務を遂行しつつ、迅速な緊急患者及び緊急外科患者の後送を行い、(国防長官から示された)1時間以内の外科治療の実施を追求しなければならなかった。このため、機内搭載衛生機器(患者搭載システム(Patient Handling System, PHS)、空調システム(Environmental Control System, ECS)、改良型医療用酸素生成システム(Advanced Medical Oxygen Generating System, AMOGS)等)の一部(又は全部)を取り外し、その代わりに、代替品が機内に持ち込まれ、使用された。現行のシステムは、運用効果の点で再評価される必要があったのである。
 医学の進歩により、戦場での生存率が改善した一方で、航空機搭載用衛生器材は、1990年代の半ばにUH-60Qが生産されて以来、暫定的な改良が行われただけでほとんど進歩していなかった。救急救命医療隊員(Critical Care Nationally Registered Paramedic, CC-NRP)及び移動間救急救命看護師(Enroute Critical Care Nurses, ECCN)の同時運用によりもたらされた病院搬送前の治療能力は、航空機搭載用衛生器材に新たな課題をもたらしたのである。従来の患者後送機から新型のHH-60Mでも引き続き使用されていた患者搭載システム(Patient Handling System, PHS)の問題点のひとつは、移動間の救命救急活動を行う際に必要な担架の間の垂直方向の空間の不足であった。機内における担架の垂直及び水平方向のクリアランスに関する公式な検討が最後に行われたのは、29年以上前のことであり、当時は、現在の特技番号68W(救急救命レベル)ではなく、ベトナム戦争当時の特技番号91W(基本的応急処置レベル)により実施される基本的な衛生任務に基づいて行われていた。

機内における担架のクリアランスに関する問題に取り組むため、米国陸軍航空医学研究所(U.S. Army Aeromedical Research Laboratory, USAARL)は、2013年に「機内空間に関する研究」を開始し、2015年2月に最終報告を発表した。その報告書である「航空患者後送機内緊急治療に関する検証研究」よれば、機内の担架の横方向の間隔は、21インチであることを再確認したが、20インチとされていた垂直方向の間隔は28インチへと大幅に増加した。この8インチの追加により、救急救命医療隊員の行う業務の93%が標準的な要領で実施できる。さらに、垂直方向の間隔を37インチまで増大すれば、100%の業務を標準的な要領で実施できるようになる。現在使用されている4種類の救急航空機(UH-60A/L、HH-60L/M)のいずれも、2段以上に担架を搭載した状態では、この要求を満たすことはできない。これらの問題についての研究により、すべての患者後送任務システム(MEDEVAC Mission Systems, MMS)をDOTMLPFの各分野に渡って詳細かつ入念に調査する機会が与えられ、将来の航空機が世界最高の救急航空機であり続けることが確実なものとなった。

7月11日、患者輸送飛行中にアフガニスタンで火傷を負った患者を治療する任務部隊「ファルコン」第3大隊第10航空連隊C中隊「マウンテン・ダストオフ」飛行衛生兵特技下士官クリスチャン・ヒンリッチセン(ニューメキシコ州クロビス出身)

2014年4月、患者後送検討グループ(Medical Evacuation Proponency Directorate , MEPD)は、陸軍航空及び統合衛生のエキスパートで構成される統合プロセス・アクション・チーム(Integrated Process Action Team, IPAT)を設立し、国防省患者後送任務システムの能力ベース評価(Capabilities Based Assessment, CBA)を開始した。この取り組みは、数十年ぶりに文書化される「統合能力統合及び開発システム(Joint Capabilities Integration and Development System, JCIDS)」の提出に必要なベースラインの再設定に役に立つであろう。患者後送検討グループの最終目標は、現行システムの能力を把握し、その問題点に取り組むことであり、いかなる気象や環境状況であっても患者の治療を可能とし、その効果を増大し、最終的にはより多くの命を救うことであった。患者後送検討グループは、10種類の運用想定を用い、最も緊要な3つの分野を明確にして、その目標の完遂を図っている。その分野とは、(1) 厳しい環境条件(高標高)における航空機の性能、(2)視程制約状況下における任務の遂行能力、及び(3)搭載衛生器材の改善による軽量化及びモジュラー化(治療実施者のスキル・レベルに相応なものにすること)である。患者後送機は、モジュラー化、軽量化を推進し、将来のいかなる運用支援要求にも迅速に適合できる必要がある。また、地上部隊指揮官が任務を完遂するために必要な柔軟性を最大限に確保するため、いかなる気象状態においても患者後送を支援できなければならない。

今後の方向性

2014年1月2日、UH-60ブラック・ホーク・ヘリコプターの機内で、アフガニスタンのザブール郡で負傷したアフガニスタン国陸軍兵士の患者後送任務を準備中の第1航空連隊第2全般支援航空大隊C中隊の衛生兵特技下士官イスラエル・フィゲロア(右)及び特技下士官クリストファ・ジェーン

患者後送の今後の方向性は、(1)患者搭載システム、(2)航空機の性能及び(3)全天候性の3つの要素で定義される。改良型患者搭載システムの能力ベース評価の結果、患者搭載システムは、モジュラー化・軽量化され、迅速に再構成できなければならないことが確認された。そのためには、患者後送航空機が迅速かつ緊要な治療行為がスムーズに実施できる十分な空間を確保していなければならない。今後は、能力開発文書(Capability Development Document(s) , CDD)の作成、代替案分析(Analysis of Alternatives , AoA)の計画、及び企業に対する情報資料提供要求(Requestor Information, RFI)等が実施される予定である。さらに、患者搭載システム及びキャビン・スペースに関する検討の成果は、2025年以降の従来のブラック・ホーク系列機だけではなく、将来垂直離着陸機のIPT(統合プロダクト・チーム)の要求事項にも反映されるであろう。
 新たな陸軍運用構想によれば、航続距離、速度、ペイロード、性能及び全天候能力の最大化等の垂直離着陸技術の進展が期待される。患者後送検討チームは、改善型タービン・エンジン・プログラム(Improved Turbine Engine Program , ITEP)、次世代FLIR(Forward Looking Infra-red)、ブラウン・アウト対処強化システム(Brown Out Rotorcraft Enhancement System , BORES)及び悪視程環境(Degraded Visual Environment, DVE)対応機器に関し、米陸軍航空センターの航空機の性能及び全天候能力への取り組みを支援している。これらの技術は、患者後送機にも有益であり、さらには、患者にとっても有益な技術となるであろう。
 この重要な研究への支援に関し、能力ベース評価チーム及び多用途ヘリ担当プロジェクト・マネージャの皆様に対し感謝を申し上げる。このチームが作り上げたすばらしい装備品は、モジュラー型の患者後送任務システム(MEDEVAC Mission Systems, MMS)として現状のシステムを改善するのみではなく、2025年に装備化が予定されている将来の航空機に適合可能であり、我々の将来の機体が世界最高の救急救命航空機となることを確実にしている。

陸軍大佐マイケル・F・ブレスリンはアラバマ州フォート・ラッカー所在の患者後送検討グループ長であり、ロバート・D・ミッシェルは同グループ上級アナリストである。

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2015年06月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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