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陸軍航空の情報センター

計画における風の考慮

添付のポスターはアメリカ陸軍戦闘即応センター(U.S. Army combat readiness center, USRCRC)が少なくとも今世紀に入ってから発行および再発行したものです。ほぼすべてのパイロットが見たことがあるでしょう。「こんなことをやるヤツなんていない!」とよく笑われます。

しかし、追い風状態での着陸またはホバリングによるLTE(Loss of Tail Rotor Effectiveness, テールローターの効果喪失)の発生または利用可能馬力の超過が原因のクラスA事故が、過去2年間に少なくとも3件発生しています。

これらの事故においては、追い風または斜め追い風の条件下での地面効果外(OGE)ホバリングまたはアプローチを必要とする位置での射撃が計画されていました。戦闘即応センターがオンライン出版しているFlightfax第128号には、風の把握とLTEの問題に関する記事が掲載されています。ぜひお読みください。その記事は主に搭乗員を対象に、LTEの原因、LTEの発生を抑制するための状況判断および回復要領に関する議論を促すことを目的としたものです。忘れがちな基本を復習する良い機会になると思います。

この記事は、風の状態が運用に及ぼす影響、特に射撃およびFARP(forward arming and refueling point, 弾薬燃料再補給点)での運用に関する部隊レベルでの作戦計画およびリスク管理のあり方について説明するものです。前述の3件のクラスA事故では、射場の方向やFARPへの進入方向により、風の状態への対処が制約されていました。部隊は、そのような場合において、風が航空機や搭乗員に及ぼす影響を考慮する必要があります。追い風または斜め追い風がある状態でのホバリングまたは低速飛行を計画しなければならない場合は、リスク・マネジメントに特別な配慮を払う必要があります。

高温、高重量および高密度高度において、特定の方向に機首を向けたホバリング射撃を計画する場合は、AH-64のAWR(Airworthiness Release, 安全性改善通報) 2020E-A34-R2に示されたテールローター・コントロール・マージン用OGE(out of ground effect, 地面効果外)チャートを使用して、風がテールローター・コントロール・マージンに影響を及ぼしやすい射撃地点を把握しなければなりません。また、射撃実施間は、気象チームと射撃統制官の間の調整を密にし、計画と運用との統合を図らなければなりません。最も効果的な事故防止対策は、風向が最も有利な射撃地点を使用し、テールローター・コントロール・マージンを増大させることです。これが不可能な場合は、OGEホバリングへのアプローチを射撃高度で終了するのではなく、一旦接地またはホバリングしてから射撃高度まで上昇するようにして、テールローター・コントロール・マージンが減少するのを回避すべきです。やむを得ずOGEホバリングでアプローチを終了する場合は、風を有効に利用し、アプローチ中の低速機動を最小限にしながら機首を射撃方向に向けるようにします。

同様にFARPにおける運用を計画する場合には、同じくAWRに示されているテールローター・コントロール・マージン・チャートを使用して、IGE(in ground effect, 地上効果内)における風の潜在的リスクを把握しなければなりません。FARPのレイアウトの都合上、風上方向への進入が困難な場合は、そのリスクを搭乗員および任務担当士官が十分に把握していることを確認しなければなりません。

計画立案者によって制御可能な2つ目の領域は、航空機の重量です。テールローター・コントロール・マージンの確保が難しい状態でOGEホバリング射撃を実施しなければならない場合は、燃料および弾薬の搭載量を最小限にしなければなりません。戦闘行動に不要な機外搭載機器が搭載されている場合は、その取り外しにより重量の軽減を図るべきです。

最後に、任務を計画する際は、回転翼機リスク共通運用構想(Risk Common Operating Picture, R-COP)に基づき、当該任務のリスク分析に適した尺度を把握する必要があります。この計画ツールには、任務、地形、気象、出力制限、訓練、状況の特質、機体固有の制限などのリスク考慮事項の特定・把握に役立つ情報が含まれています。リスク考慮事項は、搭乗員、任務ならびに環境および気象という3つの主要なセクションに分けて記載されています。リスク軽減プロセスに関わる者には、この共通運用構想をあらゆる側面から検討し、任務を包括的に分析することが求められています。また、搭乗員、任務担当士官、および最終任務承認権者には、飛行における最大のリスクは何なのか、そのリスクが発生する可能性のある場所はどこなのか、およびリスクを軽減するために何が行われてきたかなど、リスク分析の焦点を総合的に検討することが求められます。そして誰もが、不必要なリスクの排除が目標であることを理解しておかなければならないのです。

この記事の執筆にあたっては、アラバマ州フォート・ノボセルのアメリカ陸軍戦闘即応センターの事故調査および対策本部航空部の協力を得ました。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2024年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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