AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

テクニカルトーク:落雷の痕跡を探せ

被雷後の点検について

軍属 トラビス・マッサ

アメリカ海洋大気庁(National Oceanic & Atmospheric Administration, NOAA)の暴風雨研究所(National Severe Storms Laboratory)の予測によれば、全世界では常に2,000件の雷雨が発生しており、毎年の発生回数は1600万回に達している。また、アメリカだけでも毎年10万回の雷雨が発生している。

lightning strike damage
被雷により損傷したH-60Mのテール・ローター・ブレード

アメリカ合衆国本土においては、1989年に落雷検知ネットワークが整備されて以降、雲から地面への落雷が毎年平均2000万回も観測されている。地球規模で運用される陸軍航空部隊にとって、落雷に遭遇する可能性はかなり高いものとなっている。雷雨の中やその付近への飛行は、適切な任務計画により回避できることが多いが、エプロンに駐機している航空機が雷雨の被害を受けないようにすることは容易なことではない。

それでは、駐機中の航空機が被雷した場合には、どのように対応すればよいのであろうか?それは、端的に言えば、「落雷の強度および機体上の経路による」ということになる。強度の大きな落雷は、大きな損傷をもたらし、視覚による確認が容易であるのに対し、強度の小さな落雷は、わずかな擦り傷程度の損傷しかもたらさず、搭乗員や整備員が見逃す可能性もある。整備実施規定には、航空機が被雷した、またはその疑いがある場合に行うべき特別点検について記述されている。その特別点検は、通常、アーク、ピット、焼け焦げ、浸食などの損傷について、目視による点検を行うことから始まる。その後、影響を受けた部品について、より詳細な点検、修理または交換を実施し、アビオニクスや操縦系統などの緊要なシステムについて、機能点検を実施する。

Magnetic field indicator
被雷したH-60Mのテール・ローター・ドライブ・シャフトに異常に高い磁気が生じていることを示すマグネチック・フィールド・インジケーター

整備実施規定に基づく特別点検は、基準として適切なものではあるが、その点検の主体は、落雷がその経路に残した何らかの痕跡または目視可能な損傷をたよりに、搭乗員や整備員が損傷の疑いのある部品を識別することである。落雷の経路が不明の場合には、ガウス・メーターまたはマグネットメーターと呼ばれるマグネチック・フィールド・インジケーターを用いることにより、機体上の落雷経路を追跡するのに役立つ場合がある。マグネットメーターとは何であろうか?それは、一言でいえば、磁場の強さを測る計測機器である。磁場の強さを計測する際に一般的に用いられる単位は、ガウスである。これがガウス・メーターと呼ばれるゆえんである。落雷により、航空機の強磁性体(ボルト、ピン、ベアリングなど)に大きな電流が流れると、それらの部品は磁化される。この残留磁気は、マグネットメーターを鉄製部品に近づけて、その指示値を読み取るだけで検知することができる。指示値が2ガウス以下であれば、正常であると判断できる。落雷により磁化された部品は、通常、8ガウス以上の値を示す。ガウスの値が3~7の場合は、その原因を検討する必要があるが、回転部品については、落雷とは無関係に、製造後もこの程度の残留磁気が残っていることが多い。鉄製部品を順次確認することにより、機体を通って地面に至るまで、途中で分岐する場合もある落雷の経路をたどることができる。落雷が通った経路を知ることにより、より詳細な点検が必要な区域や部品を特定することができる。それらの構成部品は、部隊での整備段階区分で完全な点検を実施できない場合には、交換が必要となる。

この被雷経路の探求要領は、昨年、あるH-60Mブラック・ホークのテール・ローター・ブレードに原因不明の損傷が発見された際に検証されたものである。当該機の保有部隊は、AMCOM(航空およびミサイル・コマンド)の技術支援要員(Logistics Assistance Representative, LAR)およびAED(航空設計部局)の技術派遣要員の支援を受け、マグネチック・フィールド・インジケーターを用いることによって、機体全体の落雷の経路を確認することができた。残留磁気を確認した結果、落雷は、テール・ローター・ブレードから入り、最終的には主脚および尾脚のタイ・ダウンから地面に流れていたことが分かった。その結果、当該部隊は、機体のさらなる点検を行い、当初から判明していた以外の損傷も発見することができたのである。さらに、エプロンに設置されていた監視カメラの映像から、落雷は、マグネットメーターの示度から判断していたとおりに機体に入って、出て行ったことが確認され、この要領による判断が正しいことが裏付けられたのである。

なお、この被雷経路の探求要領は、あくまで補助的なものであり、あくまでも整備実施規定に定められた点検や要求事項が優先することに注意しなければならない。整備実施規定の落雷後の点検に関する記述や落雷の経路に関する疑問がある場合は、支援担当のAMCOMの技術支援要員に問い合わせてもらいたい。

トラビス・マッサ氏は、ケンタッキー州フォート・キャンプベルの第160特殊作戦航空連隊(空挺)を支援する航空技術部局の技術派遣要員である。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2018年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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