航空医官に聞く:PTSDからの飛行復帰
質問:私は、PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder, 心的外傷後ストレス障害)と診断され、飛行不適格となりました。その後、SSRI(selective serotonin reuptake inhibitors, 選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と心理士によるCPT(cognitive processing therapy, 認知処理療法)により、症状が劇的に軽減しました。どうすれば、飛行への復帰が許可される可能性が高まりますか?
航空医官:まずは、必要な治療を受けてください。PTSDの治療には時間がかかり、治療が完了するまでは症状が悪化する可能性が残ります。治療には3か月以上かかることがあり、投薬を始めた場合はさらに長くなることもあります。航空医官と航空医療心理士は相互に協力し合い、症状が安定し次第、できるだけ早く飛行に復帰できるように支援します。
PTSDについて簡単に復習しましょう。PTSDと診断されるには、航空乗務員が死の危険にさらされた、死の脅威にさらされた、または実際に重傷を負ったことが条件となります。PTSD の症状は、トラウマとなった出来事の再体験の持続、トラウマやトラウマに関連する事項を想起することの回避、トラウマ後に始まったまたは悪化した否定的な思考の継続などのトラウマに関連する反応として現れます。PTSDの診断基準を満たすには、その症状が1か月以上続き、著しい苦痛または機能障害を引き起こしている必要があります。
一般的に、PTSD診断を受けても飛行に復帰することは可能です。飛行への復帰をより有利にする要因は次のとおりです。
適切な治療
退役軍人省および国防総省 の臨床実践ガイドラインでは、PTSD に対するトラウマに焦点を当てた 3 種類の治療法として、PE (Prolonged Exposure, 長期暴露療法)、CPT (Cognitive Processing Therapy, 認知処理療法)、EMDR (Eye Movement Desensitization and Reprocessing Therapy, 眼球運動による脱感作および再処理療法) が推奨されています。これら3つの療法のうちどれを受けるかは、患者と医療提供者との話し合いに基づいて決定されます。
適切な薬物療法
すべての患者が SSRIを服用しなければならないわけではありませんが、投薬を行った場合は、投薬開始後から飛行に復帰するまで少なくとも 4 か月間の休止期間を設けることが推奨されています。SSRIは、通常、薬の効果と副作用のバランスを取るため、数週間の試用および調整期間が必要です。
適切な航空医学的心理評価
航空医官は、治療が完了し症状が安定した後、航空医療心理士にに対し飛行制限解除の勧告を得るための紹介状を送付します。航空医療心理士との面談では、発症時の症状、治療、現在の治癒状況、症状管理の方法などについて質問されることがあります。診察においては、紙と鉛筆、またはコンピューターによるテストが行われる場合もあります。このテストは、症状や治療後の機能状態を判断するために行われます。
航空医官: PTSDは搭乗員の能力低下をもたらす可能性のある医学的問題であり、航空事故の多くが人為的ミスによるものであることを考慮したうえで、確実に対処することが求められます。PTSDは、適切に治療を行えば、生活の質が劇的に向上し、飛行復帰が認められる可能性があります。PTSDに伴う飛行制限を解除する場合の基本的な基準は以下のとおりです:
- 搭乗員としての能力を損なうような症状がないこと
- 薬を服用している場合、航空医学的に重大な副作用がなく、少なくとも 4 か月間安定した用量を服用していること
- 航空医療心理士によって飛行任務への復帰が認められたこと
航空医療提供者の判断によっては、搭乗配置、機種、部隊および任務を考慮し、実飛行による評価 が行われる場合があります。
これらの要件が満たされたならば、航空医官は飛行制限解除の勧告をアメリカ陸軍航空医療機関(The U.S. Army Aeromedical Activity, AAMA)に提出することになります。その処理の間は、航空医官から一時的な飛行許可が与えられる可能性もあります。
飛行復帰は個別に判断され、復帰までの時間にも長短があります。治療や制限解除の進捗状況について知りたい場合は、航空医官や航空医療心理士に相談してください。航空医官と航空医療心理士は、あなたの治療と安全な飛行への復帰に全力を尽くしています。この件について質問や懸念事項がある場合は、tracy.l.durham6.mil@army.milまでご連絡ください。
本記事に示された見解や意見は、著者または研究者の個人的なものであり、特に明記されていない限り、陸軍省の公式な見解ではない。
トレイシー・ダーラム大佐(医学博士)は、フォート・ノボセル(アラバマ州)のアメリカ陸軍医療教育研究センター航空医学部門の航空医学心理学主任であり、アメリカ陸軍航空医学心理学課程の課程主任である。 ジョン・ソラク大尉(公衆衛生学修士)は、コロラド州フォート・カーソンの第4戦闘航空旅団第2-4総合支援航空大隊の航空医官であり、産業・航空医学の専門家でもある。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2024年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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