航空事故発生状況 – AH-64Dのホワイトアウト
当該AH-64Dの機長は、民間飛行場を出発しようとした際にホワイトアウト状態に陥ったため、離陸を一旦中止した。雪煙が収まった後、再度、離陸しようとしたところ、再びホワイトアウト状態に陥った。右にドリフトして横方向に加速したため、右降着装置が傾斜した地形に接触し、そこを軸心点としてダイナミック・ロールオーバーが発生した。機体は大破し、搭乗員1名が負傷した。
飛行の経過
当該機を含む4機のAH-64Dで構成された編隊は、歩兵旅団戦闘チームの支援およびそれに続く諸兵科連合実弾射撃演習に参加するための移動を行っていた。気象は、北の風、風速5ノット、視界10法定マイル、シーリング地上9,000フィートと予報されていた。気温はマイナス5℃で、特異な気象現象はなかった。搭乗員は、0600に勤務を開始した。飛行前点検および電子ログブックの確認を行ったのち、搭乗員ブリーフィングおよび編隊ブリーフィングを行った。4機のAH-64Dは、所属駐屯地を離陸し、給油を行う民間飛行場へと向かい、指定された給油区域に無事に到着した。食事の後、搭乗員たちは、徹底的な飛行点検を行い、最新の天気を入手し、通常どおりに地上試運転を開始した。給油区域での駐機順序の関係から、空中部隊指揮官は、事故機を最初に飛行場から離陸させることにした。当該機の機長は、副操縦士席に着座し、操縦を行っていた。最初に、3~4フィート上昇し、右に約80フィート移動したところで、ホワイトアウト状態となった。このため、機首を東に向けて着陸した。その後、雪煙が消えるのを待ってから、再度、離陸を開始した。3~5フィート上昇すると、機体が右にドリフトし始めた。副操縦士が右にドリフトしていることを通報した。機長は、それを了解したが、ドリフトを停止させようとしなかった。コレクティブを増加させると、右方向へのドリフトが増速し、傾斜した地形に右側の降着装置が接触した。機体がダイナミック・ロールオーバーの臨界角を超過して傾き、メイン・ローター・ブレードが地面に接触して破損し、機体は右側面を下に横転した。
搭乗員の練度
事故機の機長の飛行時間は882時間で、AH-64D/Eの飛行時間が799時間、教官パイロットとしての飛行時間が32.9時間であった。副操縦士の飛行時間は175時間で、AH-64Eが78.4時間、AH-64Dが14.9時間であった。
考 察
事故機の機長は、AH-64シリーズATM(Aircrew Training Manual, 搭乗員訓練マニュアル)第7章に記載されている適切な搭乗員間の連携を確立できていなかった。機長は、2回目の離陸の際に副操縦士にトルク監視を指示していたが、副操縦士に自分の企図を明示していなかった。離陸要領を把握していなかった副機長は、困難な状況に直面した際に機長を十分に支援できなかった。
操縦士は、自分の機体について、雪/砂/ほこりに関する考慮事項をATMで確認し、それを実行しなければならない。AH-64D/EのATMには、有視界気象条件での離陸にける雪/砂/ほこりに関する考慮事項について、利用可能な最大出力を使用するとともに、ドリフト、上昇率、姿勢、高度、および対気速度を把握するためヘルメット・ディスプレイ・ユニットのシンボルを監視することが記載されている。
各種環境への対応を訓練する際には、ATMに示された各技法について訓練・評価を行うだけではなく、それぞれの技法をいつ使用するのか(つまり、利用馬力範囲内のOGEなのか、利用馬力限界点でのOGEなのか、 利用馬力超過状態でのOGEなのか) を訓練・評価し、部隊の運用環境に見合った練度を有しているかどうかを確認することが必要である。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2023年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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