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陸軍航空の情報センター

H-60シリーズの過去5年間の航空事故発生状況(2016~20年度)

ジョン・ディキンソン
事故調査および対策部局(Directorate of Assessments and Prevention)航空部
アメリカ陸軍戦闘即応センター

H-60シリーズにおいて、2016年度から2020年度までの約5年間(総飛行時間1.7万時間以上)で発生したクラスA~Cの航空事故は、160件であった。そのうち、18件はクラスA(15件の飛行事故および3件の飛行関連事故)、16件はクラスB(14件の飛行事故および2件の地上事故)、126件はクラスC(83件の飛行事故、30件の地上事故および13件の飛行関連事故)の事故であり、総額3億6800万ドルの損害と、18名の死者をもたらした。18件のクラスA事故のうち、12件はNVG(暗視眼鏡)を用いた飛行中に発生した。また、7件はナショナル・トレーニング・センター (National Training Center, NTC) で、1件は統合即応訓練センター(Joint Readiness Training Center, JRTC)で発生した。112件のクラスA~C飛行事故のうち、54件はNVG飛行中に発生した。

H-60シリーズのクラスA事故の発生率は10万飛行時間あたり0.87件であり、クラスA~Cの発生率6.56件であった。比較のために、陸軍の回転翼機(rotary-wing, RW)全体のクラスAの発生率は1.03であり、クラスA~Cの発生率は6.78であった。回転翼機の約54%を占めるブラックホークが、回転翼機全体の飛行時間の47.9%、クラスA事故の41.9%、クラスA~C事故の48.5%を占めている。過去のH-60シリーズの5年間 (2011年度から2015年度、201万飛行時間) のクラスA事故発生率は1.04であり、クラスA~C事故発生率は6.81、死亡者数は24名であった。

H-60シリーズの43%を占めるH-60Mは、H-60総飛行時間のほぼ半分(49%)を占め、クラスA事故の61%、クラスA~C事故の49.4%を発生させた。H-60MのクラスA事故発生率は0.95、クラスA~Cの事故発生率は6.87であった。

調査結果によれば、クラスA事故の主因83%が人的ミスであり、残りの17%は器材の不具合であった。クラスA~C事故では、74%が人的ミス、12%が器材の不具合、9%が環境(鳥との衝突、落雷、風など)、5%が報告未了または不明であった。

160件のクラスA~Cの事故のうち30件は、ブレード、樹木、地形、および物体の衝突によるものであり、そのうち5件はクラスAの損傷をもたらした。3件のクラスA事故 (11件のクラスA~Cの事故) は、地上滑走に関連するものであった。合計19件のブラウンアウトやダスト・ランディング関連事故が発生し、その内訳は、クラスA事故が3件、クラスB事故が5件、クラスC事故が11件であった。

 この5年間に発生した主要な事故は次のとおり。

CFIT(controlled flight into terrain, 操縦可能状態での地表への墜落)

1 地上滑走中/H-60M/NVG

FARP(forward arming and refueling point, 燃料弾薬再補給点)からの移動中、UH-60Mのメイン ローターが隣接するAH-64Dのテール・ローターおよび垂直安定装置に接触し、テール・ ローター・アセンブリを脱落させた。FOD( foreign object debris, FOD)により駐機中のCH-47Fにも損傷を与えた。(クラスA)

2 エンジン停止/H-60L/NVG

低空飛行中、エンジンに故障が発生して高度が低下し、樹木に接触、墜落した。(クラスA、1名死亡)

3 地上滑走中/H-60L/NVG

民間空港において駐機場に地上滑走中、メインローターを管制塔の建物に接触させた。(クラスA)

4 ダスト・ランディング/H-60M/NVG

ダスト・ランディングを実施中、メイン・ローター・ブレードが地面に接触し、油圧セクション及び操縦室が大きく損傷した。(クラスA、1名死亡)

5 地上滑走中/H-60M/NVG

滑走路を地上走行中、誘導路のマットがアンカー・ポイントから外れ、コックピット上に吹き上がり、コックピットに覆いかぶさった。機体構造、FLIR(Forward-Looking Infrared, 近距離監視装置) およびレーダーに損傷が生じた。(クラスA)

6 FIIES(fast rope insertion/ extraction system, ファスト・ロープ潜入・離脱システム)H-60M/昼間

4名の兵士を降下させた後、訓練場から離陸する際に、FRIESのロープがテール・ローター・システムに接触した。機体は、制御不能に陥り、墜落した。(クラスA)

7 ダスト・ランディング/H-60L/NVG

MEDEVAC(medical evacuation, 患者後送)任務のため着陸中、ブラウンアウト状態に陥った。接地した際に機体が横転した。(クラスA)

8 空間識失調/H-60M/NVG

2機編隊の2番機として海上を飛行中、空間識失調に陥り、海上に墜落した。The aircraft crashed into the water. (クラスA、5名死亡)

9 ダスト・ランディング/H-60M/昼間

大量の砂塵が舞い上がる中で摂氏仕様としたところ、右に横転し、メイン・ローター・ブレードを地面に接触させた。(クラスA)

10 ブレード・ストライク/H-60A/NVG

滑走着陸後の空力的ブレーキングを行った際に、メイン・ローター・システムがドライブシャフト・カバー、中間ギアボックス・カバー、ドライブシャフト・フレキシブル・カップリングおよび地上部隊指揮官用アンテナに接触した。(クラスCの損傷と見積られている)

パワー・マネジメント/戦闘機動飛行

1 CMF(combat maneuvering flight, 戦闘機動飛行)H-60L/昼間

CMF訓練を実施中、高度を下げすぎたため樹木を2つに切断し、機体を大破させた。搭乗員4名全員が死亡した。(クラスA、4名死亡)

2 射撃/H-60M/昼間

ダイブ射撃を実施中、高度を下げすぎて地面に衝突した。(クラスA、2名死亡)

整備

1 整備/H-60L/昼間

HMU(hydro-mechanical unit, ハイドロメカニカル・ユニット)交換後の整備確認試験飛行を実施中、最大出力点検を行った際にNo.1エンジンが停止し、墜落した。(クラスA、死者3名)

2 整備/H-60A/夜間

ブレード折り畳みを実施中、メイン・ローター・ハブにメイン・ローター・ハブ・ブラケットを取り付けなかったため、ブレードの移動範囲が制限されず、クラスCの損傷が発生した。(クラスC)

3 エンジンFOD(foreign object damage, 異物損傷)/H-60M/昼間

定期点検中、機体のNo.1エンジン・インレットに0.020インチの安全線のワイヤのスプールが残置されているのを発見した。エンジンに損傷が生じていた。(クラスC)

4 整備/H-60L/昼間

エンジンのインレット・プラグを取り付けたままだったため、整備員が地上運転を開始した際にエンジンのTGT(turbine gas temperature, タービン・ガス温度)が許容値を超過した。(クラスC)

器材の不具合

1 器材の不具合/H-60L/NVG

飛行中に何らかの緊急事態が発生し、不時着した際に機体が損傷した。(クラスA)

2 器材の不具合/H-60L/昼間

3機編隊の3番機として訓練飛行を実施中、テール・ローター及びギアボックスを喪失して墜落した。(クラスA、1名死亡)

3 器材の不具合/H-60M/NVG

海上での訓練飛行中にエンジンが故障し、海上に墜落した。(クラスA、1名死亡)

4 器材の不具合/H-60L/昼間

エンジン停止中、No.2エンジンのTGTが9秒間にわたり999℃まで急上昇し、エンジンが損傷した。(クラスC)

5 ホイスト/H-60L/昼間

ホイストのケーブルまたはモーターが故障したため、ホイストのリセットを行っていたところ、ケーブルがホイストから外れた。600ポンド(約272キログラム)のコンクリートの懸吊物が地面に落下したが、地上要員および建造物への被害はなかった。ホイスト・ケーブルに損傷が発見された。(クラスC)

その他

1 人員の負傷/H-60M/NVG

潜入訓練中、1名の外国人兵士が降機する際に地面に落下した。(クラスA、1名死亡)

2 人員の負傷/H-60M/NVG

潜入中にゴー・アラウンドを実施したところ、1名の米軍兵士がまだ飛行中の機体から降機した。(クラスA、1名死亡)

3 ホイスト/H-60M/NVG

患者後送訓練を実施中、救難員が高度約20~30フィート(約6~9メートル)から森林内に落下した。(クラスA、1名死亡)

4 環境/H-60L/昼間

飛行場内に駐機中、強風によりメイン・ローター・システムが損傷した。事故発生時、機体は係留・固定されていた。(クラスC)

5 射撃/H-60L/NVG

射撃を実施中、跳弾がメイン・ローター・ブレードを貫通し、損傷させた。(クラスC)

要約

上記以外にも、件数は少ないが広範な事故が発生している。エンジン始動時にインレット・カバーなどが取り付けられたままだったという事故が6件報告されている。機体損傷を伴うハード・ランディングが7件、TGTオーバーテンプ (多くはシャットダウン中に発生)が11件発生している。エンジン・オイル・キャップの閉め忘れが3件発生している。さらに、エンジンのFOD事故(クラスF)は16件であった。この5年間では重大なワイヤー・ストライク事故は報告されていない。金銭的な損害は比較的小さいものの、クラスD事故が60件、クラスE事故79件が発生しており、その発生にはクラスA~C事故と同様の傾向が見られる。

事故発生件数を減らすために重要なのは、人的ミスの発生を防止することである。指揮官、パイロット、下士官、および兵士である諸官は、この記事を活用し、チェックリストを活用していない(飛行前にエンジン・インレット・カバーが取り外されていない、エンジン・インレットにFOD(foreign object debris, 異物)を残置する、オイル・キャップを締め忘れる)などの単純な人的ミスを減らすようにしてもらいたい。これらの単純なミスは、壊滅的な結果につながる可能性がある。積極的な対策を講じることで、航空チームの誰もが、大惨事を未然に防いだ隊員になれるのである。人的ミスを排除する上での自分自身の役割を理解できているだろうか? 危険見積を適切に行い、確立された手順に従い、任務承認の手順を確行し、航空業務の実施に必要な基準および規律を維持することが、任務遂行能力の大幅な向上につながるのである。

訳者注:米国の会計年度の開始は10月、終了は9月であり、終了時の年で呼ばれます。また、米国陸軍の航空事故区分の概要は、次のとおりです(AR 385-10、2017年2月改正)。
クラスA- 200万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスB- 50万ドル以上200万ドル未満の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病、又は3人以上の入院を伴う事故
クラスC- 5万ドル以上50万ドル未満の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスD- 2万ドル以上5万ドル未満の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病等を伴う事故
クラスE- 5千ドル以上2万ドル未満の損害を伴う事故 クラスF- 回避不可能なエンジン内外の異物によるエンジン(APUを除く)の損傷

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年01月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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