ホワイトアウト状況下での着陸における事故
事故発生状況
当該機の機長は、0625にエンジンを始動し、じ後は予備機として待機する予定であった。副操縦士が誰かも聞いていなかったし、LZ(landing zone, 降着地域)に関するブリーフィングも受けていなかった。
0545に副操縦士と合流し、UH-1Hの飛行前点検を行い、0625にエンジンを始動した。無線チェックを完了すると、10機編隊で実施する戦術訓練飛行の9番機として飛行するように指示を受けた。天候不良のため、中継基地を1機ずつ離陸し、PZ(pickup zone, 搭載地域)に向かう途中で編隊を形成した。PZに到着すると、歩兵部隊の搭乗準備が完了していなかった。編隊は、一旦中継基地に戻り、燃料を補給して、PZに再び前進した。歩兵部隊は、装備品の搭載を完了した。編隊は、LZの天候が回復し飛行可能になるまでの間、PZで待機した。搭乗員は、マイナス37℃のPZに2時間半も待機しなければならなかかった。
編隊は、PZを1130に離陸した。LZまでの所要時間は、50分であった。LZに到着すると、敵地上空の飛行を避けるため、着陸方向の変更が必要になった。編隊長は、LZの面積および形状を踏まえ、編隊を4機と6機の2つの編隊に分割した。4機編隊は、雪を巻き上げながらも、問題なく着陸した。巻き上げられた雪は、ホワイトアウト状態を発生した。その影響は、6機編隊が着陸を開始しても残っていた。このため、4機編隊との時間差を設けるためにゴーアラウンド(着陸復行)を行わなければならなかった。ゴーアラウンドを行っている最中に、編隊長は、6機編隊をさらに2つの3機編隊に分割し、最初の3機編隊をLZの右側、次の3機編隊を左側に着陸させることにした。2番めの3機編隊の長機は8番機であった。
8番機は、9番機および10番機と縦列編隊で進入を開始した。ショート・ファイナル(進入の最終段階)で8番機が巻き上げた雪により、9番機がホワイトアウト状態となった。9番機の機長は、予定していた着陸点への進入を継続したが、舞い上がる雪で視界が遮られた。対地高度20~30フィートで、機長は地上の視覚的補助目標を完全に失い、機体は林に接触し、機首が下に向いた状態で左に傾いた。9番機の搭乗員および搭乗者は、激しい衝撃を受けたものの、全員が無傷で機体から脱出できた。
調査結果
本事故の直接的な原因は、機長の操縦ミスであった。機長は、無線機で通話を行いながら、雪の舞い上がるLZに編隊で着陸しようとしていた。しかしながら、本事故の主因は、指揮・監督の不備であると言わざるを得ない。9番機の機長は、編隊飛行・着陸の経験に乏しかった。副操縦士も、この種の環境下における経験が極めて少なかった。機長は、搭乗する機体の機番とエンジン始動時刻以外、何もブリーフィングを受けていなかった。任務の開始が2時間半も遅れ、搭乗員は、その間、マイナス37℃の過酷な環境の中で待機しなければならなかった。LZは、10機編隊が着陸するのに十分な地積を有していなかった。このため、編隊長は、LZ進入の直前になって、編隊を分割しなければならなかった。
副因として、通信の不適切もあった。送信頻度が異常に多かった。事故機の機長は、ショート・ファイナルの間に3件の無線通話を受信しており、これらの無線に対応しながら着陸しなければならなかった。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 1974年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
40年以上前の記事ですが、2019年5月号に「過去の記事」として掲載されていたので、翻訳・掲載しました。(内容が季節外れですが...)
事故の原因などよりも、次のことに驚きました。
(1)米陸軍も冬季用偽装(塗装)を実施していた。
(2)エンジン始動後に無線チェックをしたら、いきなり空中機動訓練に参加を命ぜられる。
(3)-37℃の極寒のPZで2時間半も待機する。
(4)LZ進入直前に現地の状況に応じ編隊を分割する。
米軍の強さを感じます。