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陸軍航空の情報センター

疲労管理を軽視するな!

上級准尉4 ロブ・モラン
調査官
アメリカ陸軍戦闘即応センター事故調査および対策部局航空部

安全担当将校である私は、中隊や大隊の疲労管理プログラムを確立し、その監視を怠らないように幾度となく指導されてきました。にもかかわらず、余計な仕事をしたくなかった私は、先輩の安全担当将校から疲労管理ファイルをコピーさせてもらい、パイロットや搭乗員の名前を差し替えるだけで済ませてきました。そのファイルは、通常、エクセルのスプレッドシートで作られていて、部隊のSOP(standard operation procedure, 作戦規定)に基づいた限界値が自動的に計算されるようになっています。そして、指揮官が任務に割り当てられたパイロットや搭乗員の休息および飛行時間を評価するためや、小隊長などが搭乗員たちの休息および飛行時間に基づき、最適な任務の搭乗員の割り当てを決定したり、その危険度を見積ったりするために使用されています。

しかしながら、この疲労管理プログラムは、書類作成ばかりに時間を取られ、効果的なツールとして活用できていない場合が多いようです。むしろ、このプログラムを維持するための書類作業が、帰宅時間を遅くする原因になってさえいるのです。兵士というものは、自分の勤務時間や飛行時間の管理に厳格に行おうとするものだからです。また、疲労管理が必要なのは、飛行要員だけではありません。地上要員も、同じように休息を妨げられ、負担を強いられていると考えられます。陸軍航空においては、業務の標準化が進められていますが、この疲労管理プログラムには、改善の余地がまだあるように思えます。急性、慢性、燃え尽きのいずれのレベルの疲労であっても、兵士たちが適切な判断を下す能力に大きな影響を与えます。兵士たちの命を救うためには、このプログラムを効果的かつ適切に管理するが必要なのです。もちろん、そのためには疲労管理に関する部隊SOPを遵守することも大事ですが、その規定に従った措置を実行し、管理する方法を知らなければ何にもなりません。

疲労管理プログラムを効果的に管理するためには、各担当者が、自分の役割を理解していなければなりません。部隊レベルにおける担当者は、運用将校と航空安全将校です。疲労管理プログラムは、運用将校により管理されて航空運用に活用され、航空安全将校により監視されることにより、十分な休養を取った搭乗員を任務に割り当て、現場におけるリアル・タイムの危険見積および危険軽減を実現するものなのです。このプログラムの管理や監視が十分でないと、簡単なはずの任務も、あっという間に生死にかかわるものになってしまうのです。以下は、搭乗員の疲労管理に関する陸軍における規定の抜粋です。

陸軍省パンフレット385-90「陸軍航空事故防止プログラム」(2007年8月28日)第1-4章

1-4. 任務
l. 運用将校(3ページ)
(5)搭乗員の疲労管理プログラムを監視し、任務要求に達成するため、必要に応じ修正する。
p. 航空医官(4~5ページ)
(7)搭乗員の疲労管理に関し、指揮官に助言する。

セクションⅡ 用語
兵士の疲労管理(28ページ)
搭乗員の休養、搭乗員の疲労管理と呼ばれることもある。疲労が航空運用における危険因子となることを防止するため、部隊の任務に適合するように部隊指揮官により計画されたプログラムをいう。

陸軍規則95-1「陸軍航空規則」(2018年3月22日)第3-16章 搭乗員の疲労管理

a. 指揮官は、部隊の任務に適合するように搭乗員疲労管理プログラムを計画し、それをSOPに規定するものとする(DA Pam 385-90参照)。搭乗員の疲労管理に関する細部資料については、https:// safety.army.mil/を参照。
b. 搭乗員の疲労管理は、安全管理プログラム全体の中でも特に重要な項目であり、睡眠不足や疲労がもたらす危険性を管理し、または、指揮官がその危険性を容認するかどうかを決心する際に必要な「しきい値」を規定するために用いられる。
c. 指揮官は、このプログラムの計画に際し、航空医官および航空安全担当将校の助言を受けるものとする。

 

これらの抜粋から分かるとおり、指揮官および運用将校は、航空安全将校の助言を受けつつ、疲労管理プログラムを監視しなければなりません。また、用語の定義から明らかなとおり、このプログラムを計画する責任は、部隊長にあります。簡単に言えば、このプログラムは、指揮官により計画・実行され、航空安全将校の安全上の監督のもと、運用将校により監視されることになるのです。私の経験から言うと、このプログラムは、基本的に航空安全将校が担任しているのが実態です。このプログラムを所有しているのは指揮官ですが、それを実行しているのはRAW(risk assessment worksheet, リスク評価シート)やR-COP(Risk-Common Operating Picture, リスクに関する状況認識の統一)などの危険管理手段を活用した運用手順なのです。航空安全将校には、書類を確認するだけではなく、搭乗員が疲労管理プログラムに従っているかどうかを確認し、このプログラムが効果的に活用されているかどうかを指揮官に報告する義務があります。

疲労管理プログラムの有効活用に必要なことは、指揮官により定義・実行されたプログラムが効果を発揮できるように、各兵士がそれぞれの役割を果たすことなのです。このプログラムが、搭乗員だけのためのものでないことを忘れてはなりません。それは、部隊のすべての兵士たちのためのものであり、日々の運用のための状況把握に必要な情報を指揮官に提供するものなのです。すべての兵士が、自分の部隊の疲労管理プログラムに関わりを持ち、同僚たちに気を配るべきなのです。誰かが十分な休養を取っていなかったり、最高の能力を発揮できていないことに気づいたならば、指揮官に何らかの報告をすべきなのです。「戦友」が最高の能力を発揮できていないことに気づいているにもかかわらず、何も声を発しないことが、正しいことであるはずがないのです。

参考文献:

Army Publishing Directorate (APD) https://armypubs. army.mil/
AR 95-1, Aviation Flight Regulations
DA Pam 385-90, Army Aviation Accident Prevention Program

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年07月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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