H-60(ブラック・ホーク) シリーズの過去5年間の航空事故発生状況(2014~18年度)
H-60シリーズの2014~18年度の5年間の総飛行時間は175万3723時間であり、その間に発生したクラスA~Cの航空事故は167件であった。そのうち、22件がクラスA(21件の飛行事故および1件の飛行関連事故)、23件がクラスB(22件の飛行事故および1件の飛行関連事故)、122件がクラスC(85件の飛行事故、10件の飛行関連事故および28件の航空地上事故)の事故であった。167件の航空事故のうち、原因が特定または推定されたのは145件であった。残りの22件の航空事故については、報告未了または原因不明であった。事故による被害総額は4億2400万ドルを超え、合計死亡者数は26名に達した。H-60シリーズのクラスA事故の発生率は10万飛行時間あたり1.20件であり、クラスA~Cの発生率は7.30件であった。同じ期間内での陸軍全体の有人機におけるクラスA事故の発生率は1.23であり、クラスA~C事故の発生率は7.74であった。
細部発生状況
クラスA事故の調査結果によれば、すべての事故のうちの77%は、その主因が人的ミスであった。4件の事故(18%)が器材上の不具合によるものであり、1件の事故(5%)が環境要因によるものであった。
悪視程環境(Degraded Visual Environment, DVE)による事故
悪視程環境に関連した事故は、8件発生した。
その発生事例は、次のとおり。
事例1:送電塔への衝突
地面効果外ホバリングからNVG(night-vision goggles, 暗視眼鏡)を使用して離陸中、塵雲の中から前進しつつ上昇しようとしたが、ローター低回転に陥った。急速に高度が失われる中、塵雲の中を前進しながら降下し、送電塔に衝突・墜落した。1名の兵士が死亡し、9名の兵士が重症を負った。機体は、大破した。
事例2:空間識失調
夜間に、ある民間空港から出発するため、VMC(visual meteorological conditions, 有視界気象状態)で離陸中、ランディング・ライトを点灯した状態で霧の層の中を飛行した。視覚的補助目標を見失ったパイロットは、意図しない右旋回降下に入った。機体は、地面に激突し、大破した。搭乗員は、軽症を負った。
事例3:空間識失調
海上において、NVGを使用した夜間のVMC飛行を実施中、霧の層に進入してしまった。パイロットは、機外の視覚的補助目標を見失い、回復不能な飛行姿勢となり、高速度かつ高降下率で海面に墜落した。11名が死亡し、機体は完全に損壊した。
事例4:NVG使用中のダスト・ランディング
砂塵環境下において、NVGを使用しながら、VMCで着陸進入しようとしたところ、機首を20度上に向けた姿勢で、毎分600フィート以上の降下率で接地した。2枚のメイン・ローター・ブレードが機体尾部に接触し、2つのメイン・ローター・ブレード・チップ・キャップ、中間ギアボックス・カバーおよびセクションⅢテール・ローター・ドライブ・シャフトが損傷した。搭乗員が軽症を負った。
事例5:昼間のダスト・ランディング
砂塵環境下において、VMC進入を実施中、機体が右にドリフトし、降着装置が地面に接触して右に横転した。機体は大破し、搭乗員は軽症を負った。
事例6:NVG使用中のダスト・ランディング
患者後送(medical evacuation, MEDEVAC)のため着陸しようとしていたところ、悪視程環境に陥った。機体は、地面に接触し、横転した。
事例7:低コントラスト-月照度が低い状態での海上飛行
夜間、NVGを使用したVMCでの編隊飛行を実施中、回復不能な異常姿勢になり、高速度および高降下率で海面に墜落した。5名が死亡し、機体は完全に損壊した。
事例8:NVG使用中のダスト・ランディング
当該機は、NVGで飛行する4機編隊の4番機であった。
舗装されていない、埃の多い地面に進入したところ、主脚が地面に接する直前に、左に旋回しながら、横滑りした。左の主脚を支点として機体が傾き、限界角度を超過した。1秒足らずで機体の傾きが38度を超え、メイン・ローターが地面に接触した。
1名が死亡し、機体が大破した。
地上滑走中の事故
地上滑走中のAクラスの事故が4件、クラスBの事故が7件発生した。
事例1:地上滑走
ある民間空港で、駐機するために地上滑走を行っていたところ、メイン・ローター・システムが、駐機場から8フィート(約2.4メートル)離れたところにある電灯柱に接触した。2名の民間運行支援業者の従業員が負傷した。機体は大破し、2番機や駐機中の3機の固定翼機にも損傷を与えた。
事例2:NVG使用中の地上滑走
FARP(Forward Arming and Refueling Point, 弾薬燃料再補給点)から地上滑走中、デュラマット社製の地盤強化資材が浮き上がり、コックピットに接触して機体構造、FLIR(forward looking infra red, 近距離暗視装置)などを損傷させた。
事例3:NVG使用中の地上滑走
ある民間飛行場で夜間に給油所まで地上滑走中、メイン・ローター・ブレード、テール・ローター・ブレードおよびスタビレーターが管制塔に接触し、機体が大破した。周辺の建物も損壊し、3名の兵士が負傷した。
器材上の要因による事故
事例1:テール・ローターの不具合
平均海面高度1500フィートを140ノットで水平直進飛行中、激しい振動が発生し、テール・ローター・ギアボックスが機体から分離した。オートローテーションを実施したが、機体は3回旋転し、樹木に接触して地面に墜落した。搭乗員1名が死亡し、2名が重傷を負った。機体は、全損と判定された。
事例2:エンジンの不具合
低速での訓練飛行中にエンジンの不具合が発生し、海中に墜落した。1名が死亡した。
事例3:テール・ローター・ギアボックスの不具合
NVG練成訓練においてVMC進入を実施中、対地高度80フィート(約24メートル)において、テール・ローター・ピッチ・チェンジ・シャフトに不具合が発生した。機体は、制御不能な右旋転に入り、地面に墜落して大破した。1名の搭乗員が死亡し、2名が重症を負った。
事例4:DECU(digital engine control unit, デジタル・エンジン・コントロール・ユニット)の不具合(疑い)
飛行中に何らかの緊急事態が発生し、不時着した際に機体が損傷した。機体の構造部材にクラスAの損傷が発生した(細部未確認)。
環境による事故
事例1:マイクロバースト
駐機場までホバリングで地上移動中、予期せぬウェット・マイクロバーストが発生し、強烈な下降風が生じた。機体は、降下しながら左に旋転し、制御不能となった。機体は大破し、1名の搭乗員が軽症を負った。
戦闘機動飛行中の事故
事例1:戦闘機動飛行
昼間のVMCでの戦闘機動飛行(combat maneuvering flight, CMF)を実施中、AHO(above highest obstacle, 一番高い障害物からの高度)400フィート(約122メートル)において、60度の右バンク、24度の機首下げ姿勢になった。
機体は、森林の中に墜落した。機体は大破し、4名の搭乗員が負傷した。
事例2:超低空飛行
超低空飛行で戦闘機動飛行を実施中、対地高度200フィート(約61メートル)において、強い左バンク状態になった。機体は降下し、樹木に衝突し、2つに破断して大破した。4名の搭乗員全員が死亡した。
その他の事故
事例1:ハード・ランディング
ホバリング状態にした途端に急激な右旋転に入った。機体は、720度(2回転)旋転して地面に激突し、テール・ホィール・アセンブリが機体から分離した。その後、前方左側に転覆し、メイン・ローターがコンクリート製の壁に激突した。
事例2:艦船への着陸
アメリカ海軍の艦船上に昼間のVMCでの着陸を実施中、船首マストに取り付けられた背かご付きのはしご(ladder cage)にメイン・ローター・ブレードが接触した。機体は、前方右下の甲板上に接地した。7名が負傷し、機体が大破した。
事例3:ファスト・ロープ(fast rope insertion/ extraction system, FRIES)訓練
昼間のファスト・ロープによる潜入作戦において、LZ(landing zone, 降着地域)から離脱しようとしたところ、ファスト・ロープが地面に当たって跳ね返り、メイン・ローター・システムに絡まった。4名が負傷し、機体が破壊した。
事例4:NVGを使用したホイスト操作
NVGを用いた実員によるホイスト操作訓練を実施中、ホイスト・ケーブルに過大な揺れが発生した。ホイスト・ケーブルが主降着装置前方の機体に接触して破断した。
救助員が死亡した。
要 約
H-60においては、12件のクラスA事故(M型)、5件のクラスA事故(L型)、および5件のクラスA事故(A型)が発生した。クラスA事故のうち13件(59パーセント)は、夜間のNVG使用中に発生した。17件(77パーセント)は、海外派遣中に発生した。
クラスBの事故としては、7件の地上滑走中の事故、5件のメイン・ローター・ブレードのドライブ・シャフト・カバーへの接触、3件の悪視程環境に起因する事故、1件のハード・ランディング、1件のワイヤー・ストライク、1件の両エンジンのオーバースピード、1件のテール・ローター・ブレードの接触、および1件のエンジン不具合などが発生した。
下表は、H-60のクラスA-C事故件数の一覧表である。
事故防止のためのより詳細な情報については、安全担当将校を通じて、safety.army.mil のウェブサイト上のRMIS(Risk Management Information System, リスク・マネジメント情報システム)から入手されたい。利用には、ユーザー登録が必要である。
訳者注:米国の会計年度の開始は10月、終了は9月であり、終了時の年で呼ばれます。また、米国陸軍の航空事故区分の概要は、次のとおりです(AR 385-10、2017年2月改正)。
クラスA- 200万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスB- 50万ドル以上200万ドル未満の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病、又は3人以上の入院を伴う事故
クラスC- 5万ドル以上50万ドル未満の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスD- 2万ドル以上5万ドル未満の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病等を伴う事故
クラスE- 5千ドル以上2万ドル未満の損害を伴う事故
クラスF- 回避不可能なエンジン内外の異物によるエンジン(APUを除く)の損傷
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年03月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
最も注目されているのは、悪視程環境(Degraded Visual Environment, DVE)による事故のようです。