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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧-アパッチの空域監視中断による事故

事故発生部隊の任務は、暗視装置(night vision devices , NVD)を使用した地域警戒任務であった。事故機であるAH-64Eの搭乗員は、見張りが不十分だったため、急斜面への接近に気づかず、山岳地形に機体を衝突させてしまった。機体は、約325フィート(約99メートル)落下して山岳地帯の峡谷に墜落し、炎に包まれた。2名の搭乗員が死亡し、機体は完全に破壊された。

飛行の経過

事故機の搭乗員の任務は、ヘリコプター強襲部隊(helicopter assault force, HAF)に一時的に配属され、地形警戒を実施するとともに、地上部隊と緊密に連携した攻撃を「準備」することであった。1900に集合した搭乗員たちは、飛行前点検および任務計画作成を行い、2000に地上部隊との電話による飛行任務ブリーフィング(air mission brief, AMB)を完了した。その後、搭乗員および編隊ブリーフィングを実施し、2230頃に地上試運転を開始した。前方運用基地を出発したのは、2309であった。

出発後、武器システムの試射を実施し、ヘリコプター強襲部隊と合流要領を調整した。計画どおりにヘリコプター強襲部隊と合流して、地上部隊投入間の空中警戒を実施し、その後、左旋回で周回飛行を行いながら地域警戒を開始した。その周回飛行は、地上部隊が西に移動するにつれて経路を変更しながら、1時間以上にわたって続いた。14周目を飛行中、事故機(西側への飛行経路の変更にともない、山岳地帯に進入していた)は、平均海面高度8,900フィート(約2713メートル)の急斜面に衝突・炎上し、その西側の渓谷に向かって約325フィート(約99メートル)落下した。2名の搭乗員は死亡し、機体は火災によって破壊された。

搭乗員

機長の総飛行時間は1,338時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は683時間であった。副操縦士の総飛行時間は809時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は265時間であった。

考 察

前方展開地での暗視装置を用いた地域警戒任務を実施していた当該AH-64Eの搭乗員は、十分な見張りを行っていなかったため、操縦中のパイロットもそれ以外のパイロットも急斜面に接近していることに気づかなかった。AH-64型機搭乗員訓練規定(2019年1月31日)に記載されているタスク1026「空域監視の継続」がおろそかになった当該機は、山の斜面に衝突し、炎上しながら約325フィート(約99メートル)落下して損壊し、2名の搭乗員が死亡した。

操縦中のパイロットにとって何よりも重要なことは、機体を制御することである。緊急操作手順の最初の行動が「飛行」であることからも分かるとおり、機体の制御は、緊急時だけではなく、航空機のスタータースイッチがONになっている間は常に、リスク軽減のための最優先事項なのである。模擬および実際の戦闘運用においては、状況に気を取られ、機体を安全に制御することに集中できなくなりがちである。機体の制御には、空域の監視を継続することも含まれる。搭乗員が射撃目標への照準、偵察目標の監視などに集中しすぎて空域監視を中断してしまうと、機体を完全に制御することが、そもそも不可能になってしまうのである。

第4四半期(7月~9月)においては、戦場に派遣され、あるいはナショナル・トレーニング・センターで訓練を受けている間に、高高度、高温、および重荷重状態での運用が常態となる。このような環境においては、機体の応答が通常よりも遅れることが多い。また、パワーマージンが小さいため、障害物や地形を回避する際の急激な操作によって別な問題が生じる可能性もある。戦闘または模擬戦闘状況下で操縦する場合は、任務の把握および予行を徹底し、空域監視の継続について十分に議論すべきであることを深く認識しなければならない。空域監視がおろそかになりがちな場合にこそ、このタスクの重要性を認識し、任務遂行の重要なポイント(目標の取得、交戦中の山岳地帯での操作、目標付近での複数機での運用、戦闘の引継ぎ)について議論を深めておく必要がある。何よりも忘れてならないことは機体の制御であり、そのためには、空域監視の継続が欠かせない。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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