航空事故発生状況 – HH-60M パワー・マネジメント
ハリケーン・ヘレーン作戦を支援するため、月齢ゼロの環境でNVG(夜間暗視ゴーグル)を使用した急降下進入を実施していたところ、TGT(タービン・ガス温度)制限によりメイン・ローターがドループした。ローター回転数の低下により、機体は右に約10回旋転した。
発生状況
事故機の任務は、ノースカロライナ州東部での要請による災害支援であった。搭乗員は、機長、副操縦士およびう2名のクルー・チーフで構成され、全員がレディネス・レベル 1であった(訳者注:レディネス・レベルは、米陸軍におけるパイロットの訓練練度の段階。3段階に区分されており、レディネス・レベル3は操縦技術は修得しているが戦術的訓練は実施していないレベル、その上のレディネス・レベル2は特定の機種について操縦技術及び戦術を修得しているレベル、最上位のレディネス・レベル1は派遣を予定している地域の環境に適合した訓練を終了しているレベルである)。加えて、搭乗員たちの州から派遣されたヘリコプター水上救助チーム(HART)の隊員4名が搭乗していた。事故機の任務は任務担当士官(MBO)によって中程度のリスクとしてブリーフィングされ、最終任務承認権者(FMAA)によって承認された。
事故発生時の気象条件は、天候晴れ、風速8ノットで風向100度、気温摂氏18度、高度計規制値は29.99インチであった。
事故機は搭載地域に東から進入し、風上に向かって着陸するためにレフト・ダウン・ウインド(滑走路を左に見る状態でそれと平行に飛行)に入った。ファイナル・アプローチにおいて、支援要請で指定された着陸地点を探していたところ、降下率が大きい状態で対気速度がほぼゼロになった。機長の指示によりトルクを読み上げていた副操縦士は、降下率が過剰であることを機長に知らせるとともに、「復行」をコールした。 機長が出力を上げたところ、TGT制限状態に入り、メイン・ローターの回転数が91%まで低下した。メイン・ローターおよびテール・ローターの回転数が減少したことにより、機体が旋転を始めた。機長は直ちに方向の制御を取り戻し、機体を安定させた。その後、近傍の民間飛行場まで飛行し、着陸した。IVHMS(Integrated Vehicle Management System, 統合機体管理システム)からダウンロードしたデータから、双方のエンジンにオーバーテンプおよびオーバートルク状態が確認された。搭乗員および搭乗者に負傷はなかったものの、航空機にクラスC(訳者注:6万ドル以上60万ドル未満)の損害が生じた。
搭乗員の練度
機長は、教官操縦士を兼務しており、左席に搭乗していた。総飛行時間は2,258時間で、そのうちHH-60Mでの飛行時間は77時間であった。教官操縦士としての飛行時間は352時間であり、それ以外の機長としての飛行時間は614時間であった。
副操縦士の総飛行時間は561時間で、そのうち343時間はHH-60Mでの飛行であった。
考察
事故機の機長は、H-60の4つの派生型機の飛行資格を有していた。HH-60Mはかなり重量のある機種であり、救助チームの搭乗により利用可能出力がさらに減少していた。長年にわたるUH-60Lの操縦で身についていた操縦感覚が、降下を止めようとした際のコレクティブの操作量に影響を及ぼした可能性がある。
人工的な照明がなく、月齢がゼロまたはほぼゼロであり、地形に不慣れな場合には、あらかじめ十分なコントラストを得られる高度まで降下してから、着陸地点の偵察を行うべきである。進入時には、空域監視に搭乗整備員を活用すべきである。着陸前チェックにおいては、パワー・マネジメントに関する事項の確認を欠かさず行うとともに、急降下進入を行う場合には、地面効果外出力が必要になる可能性があることに着意しなければならない。
最後に、何か問題が発生した場合には、いかなる困難な状況になろうとも、決して航空機を飛ばし続けることをあきらめてはならない。この事故は2025年度の幕開けに悲劇をもたらすところだった(訳者注:アメリカの会計年度の開始は10月、終了は9月であり、終了時の年で呼ばれる。)が、単なるオーバーテンプ/オーバートルク事故に留まったことで、我々全員に貴重な教訓を与えてくれたのである。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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いかなる場合においても、最初に行わなければならないことは航空機を飛ばし続けることなのです。
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