航空事故回願:HH-60Mにおけるホイスト・ケーブルの切断
NVGを使用したホイスト訓練を実施中、格付けを有しないホイスト操作員が、ホイスト・ケーブルに大きな揺れが生じているにも関わらず、ホイスト・ケーブルを巻き上げながら、高度の上昇を要求してしまった。
ケーブルが機体の主降着装置前方部分に接触して切断され、懸吊されていたフライト・メディック(救助員)が死亡した。
飛行の経過
当該機の搭乗員は、1300に勤務を開始し、TOC(tactical operations center, 作戦本部)のO&J(operations and intelligence, 運用および情報)アップデート・ブリーフィングに参加した。1400~1530の間に搭乗員ブリーフィング、搭乗前ブリーフィング、飛行前点検およびHIT(health indicator tests, エンジン性能確認試験)を実施した。この間にホイストの作動点検も行われている。HITチェックが完了した後、エンジンをシャット・ダウンし、訓練上の救助要請に対する待機態勢をとった。
1710に離陸し、実員によるホイストの反復訓練を4回実施した。1840に帰投して、エンジンをシャット・ダウンすると、被支援部隊からの「訓練上の」救助要請が来るまで、再び待機態勢をとった。この間に昼間の飛行訓練に関する検討会を実施し、夕食をとった後、夜間飛行に備えてNVGを準備した。
2043に「訓練上の」救助要請を受けて離陸し、2206に帰投した。燃料補給は行わず、さらに45分間の訓練を実施するため、2218に離陸した。2232、事故機の機長からタワーに、ホイスト・ケーブルが破断し、搭乗員のうちの1名が落下したという通報があった。付近で訓練を実施していた随伴機が支隊作戦本部に状況を報告した。初動対処要員が、その随伴機により事故現場に空輸された。落下した搭乗員は、死亡していることが確認された。
搭乗員の練度
機長の総飛行時間は1392時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は644時間であった。副操縦士の総飛行時間は184時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は70時間であった。クルー・チーフ(機付長)の総飛行時間は298時間であり、フライト・メディック(救助員)の総飛行時間は441時間であった。
考 察
ホイストの運用は、パイロットの誘導振動、ホイスト操作員の誘導振動および強風やガストなどの環境などによる危険を伴うものである。機体の対地高度が高く、繰り出されたケーブルが長くなるほど、その危険性は増大する。安定したホバリングの実施は、スリングにおいても重要であるが、ホイストにおいてはそれを持続できる能力がさらに重要である。
格付けを有する搭乗員であれば、ホイスト運用中のフライト・ディレクターの使用について、搭乗員訓練マニュアルおよび機種別の取扱書に基づく訓練を完了していなければならない。格付けを有していない搭乗員であっても、ホイスト・ケーブルの機体への接触を防止するために必要な操作や過大な揺れが生じた場合に必要な操作について、完全に理解できていなければならない。
ホイストを行う訓練担当者および機長は、その危険性を認識し、訓練または任務の計画を周到に行わなければならない。ホイストおよびケーブルは、完全に整備されていなければならない。また、搭乗員全員が参加して、ホイスト操作の確認および予行を実施しなければならない。これらの手順は、必要に応じてではなく、常に行わなければならないのである。これらを行うことにより、新人または格付けを有しない搭乗員との連携が容易になり、予行中に判明した問題点に対する対策を講ずることができるようになる。
搭乗員がホイストを安全に操作できる能力を有することを最終的に確認することは、機長の責任である。ACTS(effective crew Actions, Coaching by instructors and senior crewmembers, Thinking through the task, and See the error and make corrections on the spot, 実行、指導、熟考、観察および是正)を忘れてはならない。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年01月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
現役の頃、実員によるホイスト訓練を何回も行ってきましたが、こんなことが起こり得るというということをしっかりと認識できていたかは疑問です。くれぐれも気を付けて頂きたいと思います。