航空事故発生状況:AH-64Dテール・ローター推力喪失

当該AH-64Dは、交戦中の部隊を支援中、No.5テール・ローター・シャフトのアフト・ハンガー・ベアリング・カップラーが剪断され、テール・ローターの推力を喪失した。搭乗員は不整地に不時着した。接地後、機体は左側に横転した。
発生状況
事故機は、旅団隷下で交戦中の部隊に対する支援等に任ずる空中火力戦闘チーム(Aerial Weapons Team, AWT)に配属されたAH-64Dであった。事故機の搭乗員は1400に集合完了し、任務ブリーフィングおよび搭乗員ブリーフィングを実施した後、航空機の飛行前点検および地上試運転を実施した。当該戦闘チームは1600に離陸し、1.6時間の偵察任務を開始した。飛行中、当該機の搭乗員は30ミリ機関砲に関連していると思われる断続的な異常振動に気付いた。帰投後、機長は整備要員と振動について協議した。整備員は、夜間シフトの人員が最小限であるため、その日の任務終了後に修理を行うと述べた。
2000、当該戦闘チームは交戦中の部隊を支援するため離陸した。FARP(forward arming and refuelling point, 燃料弾薬再補給点)への移動中、事故機にギアボックス振動のコーション・メッセージが表示された。当該機の搭乗員はFARPでシャット・ダウンし、故障探求を実施することを決心した。機長は指揮所および整備統制から地上試運転を実施するように指示された。地上試運転中、コーション・メッセージは点灯しなかった。展開地への一回限りの飛行許可の申請が戦闘指揮官によって承認され、当該機は2300頃に離陸した。
FARPを離陸してから1分後、ギアボックス振動のコーション・メッセージが断続的に再点灯した。搭乗員は、それをセンサーの不良によるものと推定し、展開地への一回限りの飛行を継続した。飛行開始から約25分後、断続的だった振動が継続的になり、大きな破裂音とともに右への25度の機首振れが生じ、ペダル操作に反応しなくなった。後部座席でPNVS(Pilot Night Vision System, 操縦用暗視装置)を使用して操縦していたパイロットは、対気速度を132ノットまで増加させ、サイクリックとコレクティブを調整することで、機首振れを抑制しようとした。
しかし、機首振れが止まらなかったため、(着陸点の状況が不明なので)前進速度を最小限に抑えつつ、パワー・コントロール・レバーを絞ることで機首振れを制御しながら開けた地に着陸することを決心した。出力減少と着陸時の衝撃を緩和するためのコレクティブ増加の影響により、ローターの回転数が低下し、メイン・ジェネレーターが機能を停止し、PNVSへの電力供給が遮断された。PNVSが使用できない状態で、搭乗員は機体を水平にし、3つの着陸装置を地面に接地させた。対地速度は0であったが、機首は右方向に振れた。機体は、右方向への横滑りと機首振れにより、左側に横転した。航空機は大破したが、搭乗員に負傷はなかった。
搭乗員の練度
前席に搭乗していた機長は、総飛行時間が4,000時間以上、そのうちAH-64Dでの飛行時間が1,700時間(機長として1,300時間)、夜間暗視装置での飛行時間が750時間、および戦闘飛行時間が1,300時間の経験を有していた。後席に搭乗し操縦していたパイロットは、総飛行時間が525時間、AH-64Dでの飛行時間が440時間、そのうちNVS使用時間が130時間、戦闘飛行時間248時間を有していた。
考察
航空事故調査委員会は、整備作業の不適切によりNo.5テール・ローター・ドライブシャフトに振動が発生し、後部ハンガー・ベアリング・カップリングが剪断されたものと判断した。当該事故の1週間前、中間ギアボックスとNo.5テール・ロータ・ドライブシャフトが他の整備作業を実施するために取り外されていた。当該ドライブ・シャフトを再取付する際、ハンガー・ベアリング・ボルトが適切なトルクで締め付けられなかった。当該整備作業は2日間にわたって行われ、デイ・シフトとナイト・シフトの間で2回の整備作業の引き継ぎを必要としていた。当該ハンガー・ボルトはデイ・シフトによって取り付けられたが、トルクの締め付けはナイト・シフトに引き継がれた。トルクの締付けが行われないまま、整備作業は完了したと記録され、技術検査員の検査でも見逃されてしまった。
当該機は、その後、事故当日までの間に、動力伝達系統整備後の試運転および悪天候のため中止された短時間の飛行を実施していた。当該機にはMSPU(modernized signal processing unit, 改善型シグナル・プロセシング・ユニット)が搭載されており、当該試運転および飛行間に後部ハンガー・ベアリングおよびドライブシャフト領域の異常振動を記録していた。MSPUデータのダウンロードは14日ごと、または25飛行時間ごとにのみ要求されていた。航空事故調査委員会は、動力伝達系統整備後の試運転終了時にMSPUデータを確認するように勧告した。加えて、戦闘指揮官が適切な手順に従わず、司令官への通知を行うことなく一回限りの飛行を承認したこと、および当該機の搭乗員がギアボックス振動コーション・メッセージが点灯した際の緊急状態の把握および適切な対応(速やかに着陸)を怠ったことは不適切であったと判断した。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2012年05月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2012年の記事です。