AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

航空事故調査の進め方

上級准尉5 マシュー・フィッター
米国戦闘即応センター matthew.v.fitter.mil@mail.mil

もし、今、CW3(上級准尉3)に昇任したばかりの飛行隊のASO(aviation safety officer, 航空安全将校)であった頃の私に話しかけることができたら、私はどんなことを話すであろうか? 2004年に師団騎兵連隊で発生したクラスBの事故に直面していた若い頃の自分に対して、何を言いたいであろうか? 私は最初にこう言うであろう。「中隊レベルのASOであるお前は、航空事故調査委員長でも法務官でもないことを自覚しろ!」陸軍においては、人材が不足する中、自分の階級以上の指導的地位に置かれ、その身の丈を超えた業務や任務を与えられがちでだからである。

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この記事は、航空事故調査に関するASOの不安を軽減するため、航空事故調査の進め方について簡潔に説明しようとするものである。さらには、何が起き、なぜ起き、そしてどうすべきなのかという、指揮官の質問に答えるための手助けを提供できればと思っている。これらの質問に回答できなければ、指揮官や部隊は、人命および戦闘力に影響を及ぼす人、物、指揮、標準化、訓練および支援に関する問題点を把握できないからである。

一般的に、航空事故調査は、編組および事前準備、データの収集、分析および検討、および部隊報告の実施4つの段階に区分される。なお、この記事は、クラスAおよびBの航空事故調査の進め方のみを対象としている。

第1段階ー編組及び事前準備

AR 385-10は、最低3名の委員で委員会を編組することを要求しているが、佐官級の委員長、ASO記録員、IP(instructor pilot , 教官パイロット)、MTP(maintenance test pilot, 試験飛行パイロット)およびFS(flight surgeon, 航空医官)が指名・招集されるのが通常である。これらの委員には、事故発生部隊以外の部隊等の隊員が指名される。その指名に関する命令は、GCMCA(General Court Martial Convening Authority, 高等軍法会議管轄者)(通常は、師団長が該当する)により作成・署名される。この命令に関して重要なのは、委員会にすべての調査対象に対する調査権を付与することである。例えば、状況により、警察の報告書、民間医療機関の報告書および検視結果報告書の入手に関する事項を含める必要がある。

委員会が招集されたならば、記録員が担任して、委員会の組織を編成する。委員会には、FSおよびIPで構成されるHF(human factors, 人的要因)チームとMTPおよびその他の特定の機種および器材に関する専門家で構成されるMF(materiel factors, 器材上の要因)チームを編成する。記録員の任務は、これらのチームの努力をデータ収集に適切に指向させ、DA FORM 2397に記載する文章を起案させることである。場合によっては、厳格な時間管理が必要となる場合もある。業務の進行およびその品質を管理し、適時かつ適切にそれを完了させなければ、最終報告をまとめることが極めて困難になる。さらに、各委員の進捗状況を把握し、それに任務を割り当て、その見解を聴取するため、毎朝、ミーティングを実施できるように準備することが必要である。このミーティングは、委員会が何をすべきか、および何を提供すべきかを明確にするための重要な時間である。

また、ALSE(aviation life support equipment, 航空救命機器)、訓練記録、 航空機飛行記録及び整備記録簿、およびULLS-A(unit level logistics system – aviation, 部隊レベル兵站システム-航空)などの物品および情報の収集について、部隊のPOC(point of contact, 連絡担当者)との調整を図ることも重要である。加えて、POCに対しては、CAFERS(Centralized Aviation Flight Records System, 集中航空飛行記録システム)がシャットダウンされ、操作できないように処置されていることと、委員会が必要とする事務用品が準備されていることを確認しなければならない。上記事務用品には、模造紙、ホワイトボード、マーカーペンなどが含まれる。

最後に、委員会には、委員のみが出入りできる隔離された部屋が準備されなければならない。

第2段階ーデータの収集

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調査活動を簡明にするため、第2段階は純粋なデータ収集に集中する必要がある。委員会のメンバーは、すべての調査対象そのもの、またはそのコピーを収集する。特に、航空機および搭乗員に関連するすべての写真、事情聴取、文書、記録、SOP(standard operating procedures, 作戦規定)、計画、装備品などをそのままの形で収集することが必要である。委員会は、可能な限り速やかに事故現場に進出し、墜落の状況を把握する。ASO記録員として、貴官がそれを記録する。その際、メタデータ(撮影した場所や諸元などの情報)を記録するように設定したカメラを使用することが望ましい。墜落現場および機体から分離した主要な機体構成品は、そのすべてを撮影する。メタデータを記録しておけば、KMLファイル(地理情報を記録したデータ)を作成し、グーグル・アースのサイトで地図上に自動的に配置することができる。そのことにより、墜落地点から構成品までの距離とその方向を把握が容易となる。このテクニックを用いれば、残骸散布の広さによっては、2日から4日間の時間を節約できる。さらに、有料の測量アプリをスマートフォンにダウンロードすれば、方角データを取得して写真上に重ねて表示させることもできる。このデータは、DA FORM2397-5およびー6を完成させるために、非常に有用である。器材上の不具合が推測され、または発見された場合は、当該構成品の不具合部位の写真を撮影する必要がある。コックピットの写真を撮影することも忘れてはならない。それにより、墜落時のすべてのスイッチ、レバー、座席の位置が分かり、搭乗員の操作を把握することができる。写真の撮影は非常に重要であり、いくら撮影しても撮影しすぎということはない。

データの収集および分析が完了したならば、各委員は異常を探さなければならない。異常とは、標準、正常、または予想から逸脱したもののことを言う。これが、委員たちがもっとも重点を置くべき部分である。委員たちは、異常を発見するために必要な戦術的および技術的教義に関する知識を有していなければならない。記録員である貴官は、「異常一覧表」を作成し、すべての委員がデータ収集の結果発見したすべての異常を書き込めるようにしなければならない。この異常一覧表は、委員会が審議を開始した時に、認定した事実を根拠づけるための非常に重要な資料となる。貴官は、記録員として、このすべてのデータの保管係であり、まとめ役であることを認識することが重要である。収集されたデータは、そのすべてが重要な意味を有している。分析の間にその完全性を維持し、異常を発見できるようにするため、体系的に整備され、全委員に対し可視化され、かつ、保全に着意されなければならない。

目撃者の証言に関しては、注意すべき事項がいくつかある。第一に、貴官が、事故を目撃した可能性のある兵士から話を聞く部隊ASOである場合、彼らにDA FORM 2823を渡して書かせるべきではない。この様式は、法的担保をとる必要がある場合に使用するものである。私の場合、ただの白紙を渡すようにしている。ただし、彼らの供述によっては、正式な事情聴取が必要となる可能性があるので、連絡先だけは確実に記載させる必要がある。

事情聴取を行う場合、記録員である貴官は、それぞれの事情聴取に先立って、何が行われようとしているのかを説明し、必要に応じ、機密保持を約束する必要がある。この記事が対象としているクラスAおよびBの航空事故に関しては、AR 385-10の規定に従い、事情聴取の内容は自動的に秘密として扱われる。これが意味するところは、FOIA(Freedom of Information Act, 情報公開法)の定めるところに従い、陸軍はその情報を公開しないし、陸軍以外のいかなる機関や個人からの公開要求にも法定で争うことを辞さない、ということである。ただし、その情報を指揮官に提供しない、ということを意味するものではない。実際の事情聴取においては、当初、供述者に自分自身の見解を自由に述べさせることが適切である。記録者である貴官は、話の発端(通常は、任務の計画段階となる)のみを与え、その後は事故に至るまでの各瞬間にできるだけ実際の時間に則して話させるようにすべきである。質問したいことは、供述者が自分に関わる出来事を話し終わるまで、書き留めておくのみとする。質問は、自由な回答を引きだるようなものにし、特定の回答に目撃者を誘導しないようにしなければならない。正式の事情聴取の内容は、録音を行う。この際、DA FORM 2397-4に記載する個人特定のためのデータを合わせて記録する。すべての事情聴取が完了したならば、記録者は、それぞれの聴取結果を要約し、その様式に沿って、第3者の立場で引用符なしで記載する。要約が終了したならば、録音を消去し、供述を書き留めた書類を破棄すべきである。DA FORM 2397-4がなぜこのように書かれるようになっているのか、疑問に思うかも知れない。その理由は、この書類の内容を記録者の言葉とし、供述者の言葉そのものにしないことで、それが法律上の証拠物件となることを回避するためである。記録に関して重要なことは、要約の作成が完了したならば、その録音、メモおよび調書を破棄することである。録音や調書が破棄される前に、訴訟において、FOIAに基づく要求または召喚があった場合には、その要求に応じなければならなくなる。録音などを破棄することにより、情報提供者の安全と調査過程の信頼を確保できるのである。

最後に、データの収集は、必要に応じ、分析および審議の段階に入っても継続することが可能であるが、第2段階が終了するまでは、委員会は何が起こったのかということと、関連する要因が何であるのかについて、十分に理解できていないことを認識しておくことが重要である。

第3段階ー分析および検討

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分析の段階においては、委員会は異常を分析・統合し、それを適切な基準と比較・対比し、環境上の要因、器材の不具合および人的エラーの観点から実際に起こった事象を推察する。人的エラーに関しては、さらに、支援、基準、訓練、指揮および個人に類別を行う。委員会の本質的目標は、事故の発生原因を探求することである。DA Pam 385-40は、認定した事実を4つのカテゴリーにグループ分けしている。存在し影響を及ぼしたもの、存在しているが影響を及ぼしていないもの、存在し負傷または損傷の程度に影響を与えたもの、および存在し影響を及ぼした疑いがあるものである。事故調査報告書において最も多く発生する問題点は、P&C(present and contributing, 存在し影響を及ぼしたもの)に該当する認定した事実の不適切な記述である。P&Cは、事故報告プロセスに不可欠な部分であり、行為/違反(何が起こったか)および前提条件(なぜ起こったか)を特定するために必須の事項である。委員会が事故の原因を明確に特定できない場合、事故の根本的原因に対処するための安全勧告(何を行うか)を適切に示すことができない。近い将来にAR 385-10およびDA PAM 385-40が改訂され、HFACS(Human Factors Analysis and Classification System, 人的要因の分析および区分システム)が大幅に変更され、事故調査報告書の記述体系が修正されて事故調査のプロセスがより一貫性のある簡潔なものになる予定である。

P&Cに該当する認定した事実を記述する際には、その記載を適切に行うため、必要な構成要素を含めなければならない。人的エラーに関するP&Cの認定した事実には、7つの要素があり、器材上の不具合に関するP&Cには6つ、環境上の要因に関するP&Cには5つの要素がある。これらの要素については、DA PAM 385-40の表3-1A、BおよびCに詳細に説明されている。なお、これらの要素は、存在しているが影響をおよぼして認定した事実には適用されないことに注意しなければならない。それぞれの認定した事実をこれらの特定の要素に当てはめて精査することは、結果的に委員長を的確に補佐することにつながる。

第4段階ー部隊報告の実施

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事実の認定が完了したならば、委員会の仕事の主要部分である安全勧告の起案に取り掛かることになる。これは、報告書および口頭報告の重要な部分であり、妥当かつ教義に則したものであるとともに、可能であれば、適切なレベルの指揮官、人員または機関に向けたものでなければならない。安全勧告は、当面の状況に対処するだけではなく、さらに重要な将来の事故を防止し、人命と財産を守るための取り組みを示すものでなければならない。特に器材上の不具合や教義上の問題である場合、誰が、あるいはどの機関が当該安全勧告を実現する義務を有するのかが不明確な場合が多い。安全勧告には、部隊レベル、上級部隊レベルおよび陸軍レベルのものがある。部隊レベルには、中隊、大隊および旅団が含まれる。上級部隊レベルは、師団および軍団を表す。陸軍レベルの安全勧告は、MACOM(major Army command, 主要陸軍コマンド)、ASCC(Army Service Component Command, 陸軍管理構成部隊コマンド)およびDRU(direct reporting unit, 直轄部隊)に対して示される。貴官が所属する部隊以上の組織において、誰が、あるいはどの機関がその安全勧告に責任を負うべきなのかを判断できない場合は、米陸軍戦闘即応センター(Combat Readiness Center, CRC)に電話し、航空調査官に確認する必要がある。遠慮なく、援助を依頼して貰いたい。

最後に、口頭報告について述べなければならない。調査が完了したならば、委員長は、委員会が得た認定した事実および安全勧告について指定された責任者に情報を提供するため、口頭報告を準備・実施する。それは、最終報告書が指揮系統を通じて配布されるよりも60日以上前に実施されなければならない。ほとんどの場合、口頭報告は、指定された責任者に対し是正処置の実施を促すものとなる。このため、口頭報告は、完全なものであり、かつ可能な限り明確なものでなければならない。ただし、この報告は、その時点で委員会が入手できた情報に基づく、仮のものであることを理解しておく必要がある。口頭報告に先立ち、委員会において予行を行い、予想される質問に対する回答を準備する必要がある。報告は、指定された責任者に向かって、準備されたスライドを読み上げるようなものであってはならない。スライドには、十分な量の情報を記載するとともに、主要なポイントを強調して記載しなければならない。さらに、招集された責任者たちのいかなる質問にも、完全に答えられるように準備しなければならない。認定した事実および安全勧告に関するスライドについては、招集された責任者にすべての認定した事実等を熟読させ、その承認を受けなければならない。CRCのポータルサイトには、CRCが用いている口頭報告のフォーマットが保管されている。

質問があればCRCに遠慮なく問い合わせてもらいたい。CRCのヘルプ・デスクを通じて、調査官に連絡を取り、その支援を受けることができる。作成した文書を送付してもらえれば、最も適切な方法で調査を完了できるように修文し、返送することも可能である。また、航空事故調査に必要なツールは、次のアドレスで入手可能である。https://safety.army.mil/REPORTINGINVESTIGATION/Tools.aspxn

           

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2018年02月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    陸自における航空事故調査と比べて、似ているところもありますが、違うところもあるなというのが自分の印象です。また、CW5(上級准尉5)という階級の隊員がこういった記事を投稿できる地位と役割を与えられていることに強く感銘を受けました。