航空事故回願:UH-60油圧カップリングの外れによる離陸時の旋転
UH-60Aが駐機場から離陸すると、右方向に旋回が始まった。PC(pilot in command, 機長)が機体を駐機場に着陸させるまでの間に、機体は、2回転した。機体は大破し、搭乗員も軽症を負った。
飛行の経過
その任務は、派遣隊の所在地から空港までの2機編隊のNVG飛行であった。空港で人員とその携行物品をピックアップして、戻ることになっていた。搭乗員たちは、1930(現地時間)に予定されていた離陸に備え、1500頃から準備を開始した。飛行前点検は、1530に実施された。飛行前ブリーフィングが完了すると、任務部隊指揮官から任務実施の承認を得た。報告されていた気象状況は、8,000フィート(2,400メートル)および15,000フィート(4500メートル)に僅かに雲があるものの、7マイル(11キロメートル)以上の視程があった。風向は230度、風速は8ノットt(4メートル毎秒)であった。気温は68℉(20℃)、露点温度は48℉(8℃)であった。高度計の設定は29.90インチ、気圧高度は131フィート(40メートル)であった。月の照度は、0パーセントであった。
2007(現地時間)、PCは、エンジンを始動すると、着陸場から機体を離陸させ、12フィート(4メートル)の高さのコンクリート製のTウォール(下側がT字型に広がったコンクリート製の仮設壁)を飛び越えて後方にタクシーするため、高いホバリングに移行しようとした。テール・ホイールが地面を離れた途端、機体は、時計方向に右旋回を始めた。PCは、コレクティブを引いてTウォールからのクリアランスを確保しようとした。機体は、PCが着陸場に機体を着陸させようとして、ハード・ランディングするまでの間に、右方向にほぼ2回転した。エンジンを緊急シャットダウンしている間に、メイン・ローター・ブレードが仮設壁に接触した。機体は大破し、搭乗員は軽傷を負った。
搭乗員の練度
左席に搭乗していたPC(pilot in command, 機長)の総飛行時間は1,200時間、UH-60AおよびLの飛行時間は950時間、NVGを用いた飛行は325時間、戦闘中の飛行は525時間であった。PI(copilot,副操縦士)の総飛行時間は約400時間、NVGを用いた飛行は100時間、戦闘中の飛行は6時間であった。
考 察
調査の結果、No.1油圧ポンプのリターン・ラインのクイック・ディスコネクト・カップリングがポンプ・モジュールに接続されておらず、テール・サーボが作動しなかったため、テール・ローターが不適切なピッチ角に固定されたことが明らかになった。いつ、どのようにしてリターン・ラインが外されたのかは、明らかにならなかったが、整備記録に記載されていない行為が行われた疑いがある。また、搭乗員は、飛行前点検でラインが外れていることを発見できなかった。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2015年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
少し古い記事ですが、興味深いものでしたので、翻訳してみました。
UH-60A/Lの場合、テールローターは、通常時、No.1油圧系統から油圧を供給されるNo.1テールローター・サーボのみで作動しています。No.1油圧系統に作動油漏れが発生した場合は、バックアップ・ポンプが自動的に起動し、No.2テールローター・サーボが作動します。しかしながら、この事故の場合、No.1油圧系統のクイック・ディスコネクト・カップリングが外れてNo.1油圧系統に閉塞が生じたものの、作動油漏れは発生しなかったため、バックアップが行われなかったものと思われます。細部は、「TM 1-1520-237-10 Operator’s Manual for UH-60A, UH-60L, EH-60A HELICOPTERS」の2-53ページの図をご覧ください。
また、エンジンをシャットダウンした時にメイン・ローター・ブレードが仮設壁に接触したのは、仮設壁のギリギリのところで回っていたローターが、エンジン停止により、回転が遅くなり、ブレードがドループしたことで接触したのではないかと思われます。