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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧-UH-60Lの機動飛行中の事故

状況把握および計画見直の必要性

RL(Readiness Level, 即応レベル)向上のためのCMF(Combat Manuevering Flight, 戦場機動飛行)訓練を実施していたUH-60Lが高度を低下させ、樹木に接触した。機体は2つに分断して「破壊」され、4名の搭乗員全員が死亡した。

飛行の経過

当該機の飛行目的は、PI(パイロット)およびCE(Crew chief, 機付長)のRL訓練および部隊配置されたばかりのCE(左席に搭乗)のLAO(local area orientation, 地域慣熟訓練)の実施であった。搭乗員たちは、1500(現地時間)に集合を完了した。IP(Instructor Pilot, 教官操縦士)とPIは、MBO(Mission briefing officer,任務担当将校)とFMAA(final mission approval authority, 任務最終承認権者)の実施する飛行前ブリーフィングを受けた。FMAAは、RLの向上を目的とした、昼間、夜間、NVD(night visiotn device, 暗視装置)および地形に関する状況、ならびにAPART(Annual Proficiency And Readiness test, 年度技量および即応性試験)および補足教育の内容を承認した。戦闘機動は、非常に危険な訓練と認識され、航空機の性能、訓練の手順、および安全高度に関する考慮事項について、議論が行われた。MBOとIPは上記ブリーフィング内容および事故防止対策を把握し、FMAAは本任務をリスクの高くないとものとして承認した。気象:晴天、視程10マイル以上、風向140度、風速4ノット、気温12℃以上。

搭乗員たちは、飛行前ブリーフィング終了後、飛行前点検及び地上試運転を完了し、1700(現地時間)に飛行場を離陸した。訓練地域までの飛行経路間に、IPは、著明な地形地物、報告ポイントならびに隘路の飛行高度および速度について、CEにLAOのための説明を行った。IPは、訓練地域上空で低空飛行に移行するため降下しながら、高高度偵察を実施し、昼間訓練を実施する地域を把握した。1720~1725にかけて、搭乗員たちは、RCM(rated crewmember, 搭乗員格付)レベル2の機動飛行を5回続けて実施した。6回目の機動飛行中に、機体は木に接触し、墜落した。航空機の損壊の程度は「破壊」であり、4名の搭乗員が死亡した。

搭乗員の練度

左席に搭乗していたIPの総飛行時間は1600時間で、そのうち1400時間がUH-60L、120時間がIP、340時間がPC(Pilot in Command, 機長)であった。右席で操縦していたPIの総飛行時間は1160時間で、そのうち1000時間がUH-60で、530時間がPCであった。FI(Flight Engineer Instructor, 教官機付長)の飛行時間は、1800時間で、そのうち145時間がFIであった。CEの飛行時間は、2300時間で、そのうち500時間がSI(Standadization Instructor, 訓練担当者)、120時間がFIであった。

考察

CMFにおいては、周囲の環境及び航空機の状況に応じたヘリコプターの飛行性能を考慮したうえで、機動実施後の姿勢回復に十分な余裕を確保した高度を選定しなければならない。搭乗員は、機動を行う前に、マッシング(mushing)、トランジェント・トルク(transient torque)およびブレード・ストール(blade stall)などのヘリコプターの空力的特性に精通していなければならない。過度のバンク角は、パワーの増加による高度維持を困難にする可能性がある。対気速度や高度も、揚力の確保に貢献しない場合もある。これらの要因は、機動実施前および実施間において、継続的に評価されなければならない。姿勢回復に必要な高度や出力が得られない場合には、急激な降下を行ってはならない。これらの条件は、ヘリコプターの全備重量と気圧高度が増大するに従って更に悪化することを認識しなければならない。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2016年06月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    マッシング(mushing)という言葉は、今回、初めて知りました。もともとは「犬ぞり」という意味です(何となくイメージがわきます)。細部は、「REFERENCE」のFM 3-04.203 Fundamentals of flightをご参照ください。

  2. 管理人 より:

    「CE(Crew chief, 機付長) 」と「CE(Crew/Enlisted, 機付整備員)」の両方の記述がありました。後から出てくる「CE(Crew/Enlisted, 機付整備員)」は単にCEに修正しました。