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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧-UH-60L NVG飛行中のIIMC(予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)

アメリカ陸軍戦闘即応センター
事故調査および対策部局航空部

UH-60Lが、山岳地帯での年次の練度・即応性試験を兼ねたNVG技量評価を実施中、降雨雪のため、天候が悪化した。視覚的補助目標を失った搭乗員は、IMC(instrument meteorological condition, 計器飛行状態)に陥った。当該機は、IIMC(inadvertent instrument meteorological conditions, 予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)からの回復操作中に山腹に激突し、搭乗員3名が死亡、機体が破壊した。

飛行の経緯

当該UH-60Lの任務は、山岳環境での超低空飛行を含む夜間の有視界飛行を行い、右席に搭乗する副操縦士および左席に搭乗する教官操縦士の年次技量査定を実施することであった。査定を行う技量評価試験官(standardization pilot, SP) は、右側の機付長席に搭乗して、双方の操縦士を評価することになっていた。任務計画は、教官操縦士の指導のもと、副操縦士により作成された。天候は、北西の風15ノット、ガスト25ノット、視程は6陸マイル、レインシャワー(にわか雨)、オーバーキャスト(全雲)3,000フィートと予報されていた。月照度はゼロパーセント(事故発生時には、月出前であり、かつ、上空が雲に覆われていた)、気温は+4℃であった。加えて、高度18,000フィートでの中程度のタービュランスの発生、ならびに降水雪、雲および霧による山岳の視認困難に関するAIRMET(Airmen’s Meteorological Information, 単発機のような小型機に危険を及ぼす可能性のある気象状況を警告するために発令される気象注意報)が発せられていた。任務全般のリスクレベル(risk common operating picture)は、低リスクと評価された。任務担当将校(mission briefing officer, MBO)によるブリーフィングが行われ、最終任務承認権者(final mission approval authority, FMAA)が飛行任務を承認した。事故機は、現地時間1850に飛行場を離陸、飛行場周辺での訓練を実施した後、現地時間1905にNOE(nap of the earth, ほふく飛行)訓練場に向け、評価項目の査定を行いながら飛行した。周辺地域で飛行していた他部隊の航空機からの通報により、NOE訓練場には降雨雪による視程低下地域が生じており、天候が悪化していることを把握した。事故機の搭乗員は、事前に計画された飛行経路を東に向かって飛行し、その後、NOE訓練場のある北方向に旋回すると、降雨雪による視程不良に遭遇した。このとき、西方向からは、吹雪が近づいていた。訓練および技量評価を完了した事故機の搭乗員は、空港に向かうため、西方向に旋回した。現地時間1943、事故機は、積雪地上空を飛行場に向けて飛行中であること、および天候悪化が継続していることを飛行指揮所に報告した。現地時間1949、降水量の増加により視程が低下し、IIMC(inadvertent instrument meteorological conditions、予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)からの回復操作を開始した。当該機は、山腹に激突し、機体が破壊され、3名の搭乗員全員が死亡した。

搭乗員の練度

左側パイロット席に搭乗していた操縦教官/機長の総飛行時間は1,255時間であり、そのうちH-60シリーズでの飛行時間は877時間であった。また、操縦教官としての飛行時間は290時間、NVG飛行時間は202時間であった。副操縦士の総飛行時間は1,147時間、そのうちH-60シリーズでの飛行時間は385時間、NVG飛行時間は163時間であった。右後の機付長席に搭乗していた技量評価試験官の総飛行時間は5,628時間、H-60シリーズでの飛行時間は4,900時間以上、NVG飛行時間は約850時間であった。また、操縦教官および技量評価試験官としての合計飛行時間は、2,738時間であった。

考 察

IIMCへの対応においては、機体の制御を適切に維持しつつ、計器飛行方式に移行して、上昇を開始することが重要である。その回復操作中は、確実に上昇して障害物を回避するため、姿勢、機首方位、トルク、トリム、および対気速度を継続的にクロスチェックすることが必要である。また、操縦中のパイロットの操作をクロスモニターすることも必要である。IIMCからの回復操作に関するシミュレータ訓練においては、山岳地帯、NVG、低対気速度状態など、さまざまな状況での訓練が可能となっている。飛行中は、DVE(degraded visual conditions, 悪視程環境)などの状況の変化に即応し、リアルタイムにリスク評価を行い、遭遇したまたは予期される状況の変化に応じた任務遂行要領の修正を行う必要がある。MBO(mission briefing officer, 任務担当将校)およびFMAA(final mission approval authority, 最終任務承認権者)は、AR 95-1に従って任務要素の評価が適切に実施され、ブリーフィングが実施・理解され、その内容が適切に実行されていること、およびリスクを軽減するための統制が効果的かつきめ細かく実行されていることを確認しなければならない。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年10月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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