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航空事故回顧:UH-60M FRIES(ファスト・ロープ潜入・離脱システム)を用いた訓練中の事故

UH-60Mによる昼間のファスト・ロープによる潜入訓練を実施中、地上戦闘員卸下後のファスト・ロープの切り離しが適切に行われなかった。このため、ファスト・ロープが地上の障害物に接触して跳ね返り、メイン・ローター・システムと絡み合った。この事故により、4名が負傷し、機体が破壊した。

飛行の経過

当該機の搭乗員たちは、0730に飛行場に到着し、任務を開始した。当該支援任務は、FRIES(fast rope insertion/ extraction system, ファスト・ロープ潜入・離脱システム)を用いた陸軍地上部隊との協同訓練であった。所属部隊のSOP(standing operating procedure, 作戦規定)に従い、飛行前点検およびブリーフィングが行われた。

当該機は、2番機として、当該FRIES訓練を支援していた。潜入行動の反復訓練の1回目を実施中、機付長が、飛行部隊のSOPに定められていない手順でFRIESのロープを切り離した。セーフティー・ロープを取り外す前に、FRIESのロープを切り離してしまったのである。しかも、当該機付長は、その後の地上部隊の監視を怠ってしまった。このため、地上のFRIESマスター(降下長)がFRIESのロープが機体からぶら下がったままであることを手信号で伝えようとしていたにもかかわらず、それに気づかなかった。

機体がFRIES潜入地点から離脱を開始した時、ロープが地上の障害物から跳ね返り、メイン・ローター・システムに接触した。当該機は、森林地帯に墜落し、搭乗者全員が負傷した。墜落後に発生した火災により、機体は破壊した。

搭乗員の練度

機長の総飛行時間は3,171時間であり、そのうち部隊での飛行時間は3,123時間であった。副操縦士の総飛行時間は159時間であり、そのうち部隊での飛行時間は73時間であった。整備員Aは、146時間の経験を有していた。整備員Bは、585時間の経験を有していた。

考 察

飛行安全に影響を及ぼすシステムを用いた支援任務(機外への搭載、ドアからのロープの投下、自動索を用いたパラシュートの運用、水のうによる空中消火など)の実施に際しては、当該任務に関するブリーフィングを詳細に行い、クリティカル・ポイント(危険が予想される部分)に関する認識の統一を図らなければならない。FRIESを用いる訓練においては、潜入・離脱地点で安定したホバリング状態に入った時点(ドアからのロープの投下)から、当該地点からの離脱する時点までの間が、そのクリティカル・ポイントに該当すると考えられる。

メインローターが損傷し、本事故が発生した原因は、整備員が、機体が卸下地点への進入を完了した際に、セーフティー・ロープの切り離しを定められた手順に従って行わなかったことにある。重要なのは、整備員たちに、飛行隊における各種任務の遂行に必要な練度を維持させるということである。訓練で習得した技術上的手順を正しく履行できない搭乗員が存在することは、人的ミスの発生に直結する。

段階的な訓練や予行の実施という米陸軍の伝統的訓練法は、これまで極めて有効に機能してきた。しかしながら、本件のように訓練の最終段階を実施する際には、すでに習得した技量を向上させ、搭乗員の練度を確認し、当該任務の遂行に必要な最新情報を把握させるとともに、必要に応じ、技量回復訓練を実施することが部隊の訓練担当者に求められるのである。このため、部隊および上級部隊指揮官は、航空部隊METL(Mission Essential Task List, 練度段階区分表)に示された各課目の実施要領を遵守するとともに、その要領を部隊SOPに正しく反映し、または、代替要領について承認を得たうえで訓練を実施しなければならない。定められた手順(セーフティー・ロープを切り離してからFRIESロープを切り離す)に従わないという単純な人的ミスが、貴重な航空機を失い、4名の重傷者を発生させるという結果をもたらしたのである。

指揮官および訓練担当者は、自分たちが安全の最前線に立っていることを常に忘れてはならない。最終段階の訓練を行う兵士たちが、練度段階区分に示された課目の実施に必要な練度を維持していることを確認するとともに、そのために必要な技量回復訓練の定期的な実施に着意しなければならないのである。

出典:FLIGHTFAX, No.70 October 2018, U.S. Army Combat Readiness Center

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    これが陸上自衛隊で発生した事故であれば、ファスト・ロープの切り離しを確認しないまま、機体を前進させた機長の責任が一番に問われるところでしょう。整備員とその練度を維持すべき部隊長や訓練担当者の責任を問う米陸軍のスタンスには、参考にすべき点があると思います。