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陸軍航空の情報センター

アメリカ空軍航空機事故調査委員会報告書(CV-22B, 機番:10-0054)所見

訳者注:太字の装飾は、訳者によるものです。

10 USC § 2254(d) に基づき、本事故調査報告書に記載されている事故の原因または要因に関する事故調査官の意見は、もしあるとしても、事故に起因する民事または刑事訴訟において証拠としてみなされることはなく、また、その情報は、米国またはそれらの結論や声明で言及されている人物の責任を承認するものとみなされることもない。

1. 要約

2023年11月29日、現地時間14時40分頃、機体番号10-0054のCV-22Bが、日本の屋久島沖約0.5マイルの海上に墜落した。事故機(ガンダム22)は、日本の横田基地の第353特殊作戦航空団第21特殊作戦飛行隊によって運用されていた。墜落により事故機は破壊され、搭乗員8名全員が致命傷を負った。その後の捜索および回収により、搭乗員7名の遺体が発見された。広範囲にわたる捜索活動にもかかわらず、1名の搭乗員の遺体は発見されなかった。

事故機は、他の米軍部隊との相互運用統合訓練に参加するため、10時43分に横田基地を出発した。この任務には、ガンダム21、ガンダム22、ガンダム23の3機のCV-22B機が参加した。ガンダム21とガンダム22(事故機)は2機編隊で、その航空機と搭乗員が演習の主体となっていた。ガンダム23 は、任務中の緊急整備所要を支援するために準備された専用の予備機であった。

12時31分、ガンダム22(事故機)はホット・リフュエルのため岩国海兵隊航空基地に着陸し、その10分後にガンダム21が着陸した。ガンダム21とガンダム22(事故機)は、13時9分に岩国海兵隊航空基地を出発し、任務の第2段階として、アメリカ海兵隊のKC-130Jによるティルトローター機の空中給油およびガンダム21からの人員の空中投下を行い、日本の嘉手納基地に着陸する。嘉手納基地で地上給油を受けた後は、ガンダム21ともに横田基地に直接帰投する予定であった。

岩国海兵隊航空基地からの離陸から約40分後、事故機のコックピットに左側プロップローター・ギアボックス (PRGB) の最初のチップ・バーン・アドバイザリが表示された。これは事故発生の約49分前のことであった。その約23秒後に2回目の左側「PRGB CHIP BURN」アドバイザリがコックピットに表示され、それから約12分後に3回目の左側「PRGB CHIP BURN」アドバイザリが表示された。空軍の規定では、3回目の「PRGB CHIP BURN」アドバイザが表示されたならば、搭乗員は「努めて速やかに着陸」しなければならない。ただし、その規定はまた、任務の状況および運用の環境に基づき、任務を続行するかどうかの裁量を機長に与えている。搭乗員間でのわずかな議論の後、機長は、嘉手納基地までの約300マイルの公海上を飛行する任務を予定どおり続行することに決定した。この3回目のチップ・バーン・アドバイザリが表示された時点(「努めて速やかに着陸」の対処基準が適用される)では、事故機はまだ日本本土に近い場所を飛行しており、最も近い着陸適地から約10マイルしか離れていなかった。5分後、事故機には4回目のチップ・バーン・アドバイザリが表示され、さらに10分後には5回目のアドバイザリが表示された。事故機の搭乗員は、目的地外着陸の検討や状況の急激な変化について限定的な議論を行いながらも、計画された任務を継続した。注目すべきは、この任務におけるガンダム23の役割は、航空機に整備上の問題が発生した場合に備えて、専用の予備航空機として機能することであった。事故機の搭乗員は、着陸してガンダム23と合流することについて、1度も話し合ったり検討したりしなかった。事故機の搭乗員は、機体を予備機と交換して、整備チームに地上でPRGBの故障探求を行わせることもできたのである。

岩国海兵隊航空基地を出発してから約71分後、5回目のチップ・バーン・アドバイザリから約3分後、コックピットに「L PRGB CHIPS」コーションが表示された。空軍の規定によれば、PRGBチップ・コーションが表示された場合、搭乗員は「速やかに着陸」しなければならない。機長は、コーションの表示および「速やかに着陸」の対処基準が適用される状況になったことから、経路の変更をガンダム21に通報した。機長は、副操縦士に屋久島空港に向かって機首方位111度に旋回するよう指示した。そこは、副操縦士が約60マイル離れた最も近い目的地外着陸地点であると述べた場所であった。

搭乗員間に他の着陸地の選択肢に関するさらなる議論や助言はなく、空軍の規定に従って緊急着陸または着水(必要な場合)を準備するための行動もなかった。事故機の搭乗員は、ヘリポートのある島、着陸適地のある他の島、または約36マイルの距離にある薩摩島の滑走路など、他の着陸場所を検討することがなかった。機長が屋久島空港への目的地外着陸を決心した後は、搭乗員間の会話に、深刻化する状況に見合った緊迫感が見られなくなった。

事故機は、屋久島空港への最終進入中、対地高度約800フィートにおいて左側のPRGBに壊滅的な故障が発生し、揚力が急激に非対称となって左にロールし、その結果、激しく2回転して海面に墜落した。ギアボックスに故障が発生したことが、当該機を回復不能な状態にした。この状態では、もははパイロットがいかなる対応をしたとしても、事故機や搭乗員を救うことはできなかった。ロールを開始した際に、左側ナセルに火災が発生し、何らかの物体が機体から分離して、飛行経路右側の海面に落下した。火災は左側の PRGB 故障後に発生したものであり、事故の要因ではなかった。また落下した物体は、PRGB故障後に分離した機体パネルと考えられ、事故の要因ではなかった。

私は、得られた証拠から、この事故の原因は、左側のPRGBの壊滅的な故障によって、事故機の駆動システムに連鎖的な故障を急速に引き起こされ、搭乗員では回復できない瞬間的な非対称揚力状態がもたらされたこと、そして、機長の決定によって、事故発生要因の連鎖を長引かされ、目的地外着陸地点への早期着陸の検討が排除されたことにあると判断した。

さらに、同じく得られた証拠から、次の2つの要因が事故の発生に大きく影響したと判断した。(1)不適切なリスク管理および(2)効果のないクルー・リソース・マネジメントである。これらの要因は、総合的に、機体墜落の約49分前に最初のPRGBコックピット・アドバイザリが表示されて以降、事故の全過程を通じて、緊迫感が不十分であったことに大きな影響を与えた。

2. 原因

a. 左側PRGBの壊滅的な故障

私は、得られた証拠から、この事故の原因は、左側のPRGBの壊滅的な故障とそれに続く駆動システムの連鎖的な故障の急速な進展であると判断した。左側PRGBのハイスピード・プラネタリー・セクションの故障は、ハイスピード・ピニオン・ギアの1つに生じた亀裂と、関連するピニオン・ギアのベアリング・ケージの疲労亀裂によって発生し、最終的にハイスピード・プラネタリー・キャリア・アセンブリが破損したことが原因で発生したと推定される。破損したハイスピード・プラネタリー・ピニオンの少なくとも1つの破片がハイスピード・キャリア・アセンブリに挟まり、ハイスピード・サン・ギアの歯に擦り付けられたことにより、すべての歯が完全に欠け落ちた。ギアの歯が欠け落ちたことにより、左側マストにトルクが加わらなくなった。ハイスピード・サン・ギアの歯が欠落したことは、すべての歯が欠落した高速サン・ギア・セットの表面に残っていた研磨跡と円周方向の擦り傷から明らかである。左側PRGBの故障により、左側PRGBの油圧の低下および喪失、インターコネクティング・ドライブ・シャフトの故障、右側PRGBのトルク過大などの連鎖的な故障が、故障発生後6秒以内に急速に発生した。

b. パイロットの意思決定

また、私は、得られた証拠から、機長が下した決定にも原因があると判断した。これらの決定は、事故の要因となる事象を長時間にわたって連続させ、別の着陸地点への早期着陸の検討を妨げた。特に、コックピットに3回目のチップ・バーン・アドバイザリが表示され「努めて速やかに着陸」が必要になった後も機長が任務の続行を決定したこと、およびコックピットに「L. PRGB CHIPS」のコーションが表示され「速やかに着陸」が必要になった後も機長がより近い場所ではなく屋久島空港への着陸を決心したことが、本事故の原因であった。機長および搭乗員は、「L PRGB CHIPS」コーションが表示された後も、より近い場所にある適切な着陸地点の選択肢について、計画、検討、または議論さえしなかった。

3. 事故の発生に重大な影響を及ぼした要因

私は、得られた証拠から、次の要因がこの事故の発生に重大な影響を及ぼしたと判断した。(1)不適切なリスク管理および(2)効果のないクルー・リソース・マネジメントである。

a. 不十分なリスク管理

(1) プログラムレベルのリスク管理

PRGBは、複雑かつ極めて重要なシステムであり、これが故障した場合は航空機および搭乗員の損失につながる可能性がある。PRGBの内部コンポーネントの強度および信頼性に関するデータは、V-22の運用に重要であり、航空機の整備要求、飛行中の手順および飛行中のリスク管理に影響を及ぼす可能性がある。そのデータの重要性にもかかわらず、安全性評価とその結果に対するプログラムレベルでの取扱が不適切であり、各軍への伝達も不十分だったため、PRGBのリスクに関する包括的な認識が欠如し、軍または部隊レベルにおけるリスク緩和のための対策を実施する機会が制限された。私は、得られた証拠から、プログラム・レベルでの不適切な対応およびプログラム・オフィスと各軍の間の調整の不適切により、PRGBのリスクに対する包括的な認識が妨げられ、この事故の発生の重大な影響を及ぼしたと判断する。

(2) 指導監督上のリスク管理

空中部隊指揮官が主要な搭乗員を兼務することは認められているものの、搭乗員をこの任務にあたらせる目的は、空中部隊指揮官が航空機の運用ではなく、任務の調整や実行に集中できるようにすることである。事故調査委員会が実施した目撃者へのインタビューにより、機長と空中部隊指揮官の両方の任務を1名の隊員が遂行することについて、任務計画中に議論されていたことが明らかになった。標準的な慣行ではないとされたものの、当該機長 は、任務の複雑さおよび環境条件が許容可能なリスク限度内 (昼間、良好な天候など) であると判断され、機長と空中部隊指揮官を兼務することが許可された。証拠によれば、事故の一連の過程の中で、機長は、事故機の飛行安全の問題に関する搭乗員との内部調整よりも、演習を優先し、他の参加者との調整を続けたことが何度も確認できる。私は、得られた証拠から、機長が空中部隊指揮官を兼務することを許可するという決定が、この事故の発生に重大な影響を及ぼしたと判断する。

(3) リアルタイムのリスク管理

コックピットに3回目の「PRGB CHIP BURN」アドバイザリが表示され、「努めて速やかに着陸」が必要な状況となった時点では、事故機はまだ日本本土やいくつかの目的地外着陸場に近い位置を飛行していた。機長は、搭乗員とほとんど議論することなく、近くに他の目的地外着陸地の選択肢があることを認識しないまま、任務続行が嘉手納基地まで300マイル以上も外洋を飛行することになるという事実を考慮せずに、任務の続行を決定した。また、左側 PRGBには冗長性がなく、飛行継続がリスクを増大させることを考慮することなく、任務の継続を不適切に優先した。

岩国海兵隊航空基地を出発した搭乗員は、空中給油のタイミングを合わせるため、ブリーフィングされていた飛行経路よりも西側に進路を変更した。この計画変更により、当該機の位置が西に移動し、元の飛行経路では候補になかった別の目的地外着陸場が選択できる状態となった。その後、コックピットにPRGBチップのコーションが表示され、「速やかに着陸」することが必要になっても、機長は、最も近い目的地外着陸地を選択しようとしなかった。また、深刻な機械的不具合が発生した状態で海上飛行を長時間行うリスクを適切に評価せず、搭乗員の誰に対しても、事故機をより早く地上に着陸させる他の方法を確認するように指示しなかった。さらに、副操縦士に対し、他の目的地外着陸地を目視できるように雲層の下まで慎重に降下させるのではなく、海上8,000フィートを飛行させ続けた。機体を降下させれば、2次的な不具合の兆候が確認された場合に、直ちに不時着 (または制御された不時着水) を行うことができるようにもなる。

目的地外着陸を決定した後、搭乗員は、上空の強風について議論するだけで地上の風が穏やかであることを考慮しなかったため、空港への直接進入を検討することなく長い飛行経路を選択し続けた。事故機が屋久島空港付近に到着しても、機長は航空管制官に緊急事態を宣言して滑走路に直接進入してリスクを軽減しようとせず、副操縦士に通常のトラフィック・パターン沿いの飛行を行わせたため、飛行時間が数分間増加した。さらに、機長は、民間機が離陸できるようにするため、副操縦士にホールディング・パターンに入るように指示した。最終的には、機長は屋久島空港の管制官に緊急事態の発生を通知したが、それは飛行場側からの問い合わせがあってからのことであり、その時にはPRGBチップのコーションから約14分間が経過しており、その後4分も満たないうちに左側PRGBに壊滅的な故障が発生することとなった。この時点まで、機長は、緊急事態にあることを明言することも、それを検討することをなかった。私は、得られた証拠から、事故発生過程の全体を通じた機長によるリアルタイムのリスク管理の不適切が、 この事故の発生に重大な影響を及ぼしたと判断する。

b. 不適切なクルー・リソース・マネジメント

クルー・リソース・マネジメントは、すべての航空搭乗員にとって基本的な運用手法である。この手法を適切に実行することにより、搭乗員の有効性、相互運用性、飛行の安全性を最大限に高めることができる。各搭乗員は、クルー・リソース・マネジメントを積極的に活用する責任を有する。プロの操縦士であれば誰でも、その勤務を通じて繰り返し訓練を受け、状況把握の不適切や搭乗員の危険行動を把握して対処するため、この手法を身に付けることになっている。

機長のクルー・リソース・マネジメントが不適切であった兆候は、岩国海兵隊航空基地における地上運用から現れ始め、一連の事象の最後まで続いていた。事故機の搭乗員 (直接支援要員1名および医療要員2名を除く)は、訓練を受け資格を付与された空軍の航空搭乗員に期待されるレベルでクルー・リソース・マネジメントを実行することができていなかった。最も注目すべきは、機長が搭乗員の多様な経験を活用しなかったことと、および機内および編隊内の他の搭乗員からの意見を求めなかったことである。そうしていれば、事故機の搭乗員が状況を十分に分析し、PRGBの故障発生の兆候に対応するための選択肢について議論できたはずであった。事故機の搭乗員は、目的地外着陸の選択肢を適切に検討せず、機長はコックピットへのアドバイザリとコーション表示の変化に応じた適切な指示を搭乗員に与えることができなかった。また、状況の複雑化に応じた任務の指示および委任を適切に行うこともできなかった。機長が屋久島空港に向かうことを決定してからも、搭乗員は利用可能な手段を活用して事故機の位置を再評価したり、他の選択肢を検討したりすることがなかった。その手段としては、電子フライト・バッグのForeFlightの設定をより詳細な航空チャートに変更したり、コックピットのマルチファンクション・ディスプレイのチャートのスケールを変更して他の着陸地を検索したりすることがあった。事故機のキャビンには、追加操縦士および後方操作員も搭乗しており、コックピット内における作業を援助したり、「速やかに着陸」するための他の選択肢を検討したりできたはずだが、機長はそのどちらにも支援を指示しなかった。

副操縦士は、機長に対し、「PRGB CHIP BURN」アドバイザリへの対応の再検討を促してはいたものの、事態の悪化に対する懸念について断言することはなかった。機上整備員および後方操作員は、緊急操作手順の実施について機長を援助することなく、不適切なまでに情報放送受信機の故障探求に重点を置き続けた。

この計画外の流動的な一連の事象においては、搭乗員がチームとして協力し、タスクに優先順位を付け、ワークロードを適切に配分し、たとえ機長と異なる意見であっても、専門的見地から積極的な意見具申を行う必要があった。私は、得られた証拠から、事故機の搭乗員の不適切なクルー・リソース・マネジメントが一連の事象の連鎖を長引かせ、この事故の発生に重大な影響を及ぼしたと判断する。

4. 結論

私は、得られた証拠から、この事故の原因は、左側 PRGBの壊滅的な故障、および左側PRGBに関する複数のアドバイザリおよびコーションが表示された後も不必要に飛行を継続した機長の決定であったと判断する。また、得られた証拠から、不適切なリスク管理およびクルー・リソース・マネジメントがこの事故の発生に重大な影響を及ぼしたと判断した。

2024年5月30日

マイケル・E・コンリー
アメリカ空軍准将
事故調査委員会委員長

アメリカ空軍航空機事故調査委員会報告書(CV-22B, 機番:10-0054)

                               

出典:Official United States Air Force Website 2024年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

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1件のコメント

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