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陸軍航空の情報センター

ベルV-280ティルトローターの開発

V-22の教訓と陸軍の要求を反映

リチャード・ウィッテル

エンジンが水平に固定されたV-280バローは、サイドドアから迅速に兵員を卸下できる。(図:ベル・ヘリコプター社)

ベル・ヘリコプターの新型ティルトローターであるV-280バロー兵員輸送機は、多くの子供がそうであるように、その親(この場合は、V-22オスプレイ)と非常によく似ている。V-280は、アメリカ陸軍が主体となって進めているJMR-TD(Joint Multi-Role Technology Demonstration, 統合多機能技術実証)のために製造されている機体である。11名から14名の兵員を輸送できるこの機体は、最大24名の兵員を輸送できるV-22よりもかなり小型である。ただし、その目標巡航速度は、280ノット(時速520キロメートル)以上であり、巡航速度が250ノット(時速460キロメートル)のV-22よりも高速で飛行できる。

テキサス州アマリロのV-22オスプレイ組立工場で製造中のV-280の機体(写真:ベル・ヘリコプター社)

V-280とV-22の外観には、いくつかの重大な相違点がある。最初に、V-22のエンジンは、翼端のナセル内に格納され、ローターと一緒に水平から垂直まで傾けられるようになっているが、V-280のエンジンは、翼端に水平に固定されている。このため、V-280は、V-22のように後部ランプドアからではなく、サイドドアから兵員を搭乗、卸下させることが可能となっている。次に、V-280のプロップローターの直径は、35フィート(10.7メートル)であり、V-22の38フィート(11.6メートル)と同じくらいの大きさがある。一方、JMR実証機であるV-280の最大全備重量は、滑走離陸時で38,000ポンド(17.2トン)であり、V-22の最大全備重量である52,600ポンド(23.6トン)よりもはるかに軽い。このため、V-280のディスク・ローディング(ローター・ディスクの単位面積当たりの推力)は、V-22の3分の2程度となっている。さらに、V-280の主翼は、直線かつ水平であり、前進翼で上反角がつけられているV-22よりもアスペクト比が大きい。

そして、V-280には、V-22のような前輪式ではなく、尾輪式の降着装置(前方に2組の車輪があり、尾部に小さい1組の車輪がある)を採用している。また、V-22に用いられているH字型ではなく、上方に向けてV字型をした尾翼を採用している。

先進ティルトローター・システム担当副社長兼V-280設計チーム長のビンス・トービンは、V-22と比較した場合のV-280の主要な設計上の変更点は「2つのカテゴリーに分類される」と述べた。それは、「V-22から学んだこと(ここ十年来の技術革新)」によるものと、「陸軍のJMR要求性能」によるものである。1980年代の初期に設計され、ボーイング社との50対50のパートナーシップの下で製造されたV-22は、2007年に運用を開始した航空機である。ベル社は、1950年代には、巨大な単発エンジンを胴体の中に装備したXV-3コンバーチプレーンを開発した。また、1970年代には、V-22のように翼端のナセルの中に2機のエンジンを備えたXV-15技術実証機を開発した。しかし、量産化に成功した最初のティルトローターは、V-22であった。それ以来、海兵隊は8年間、空軍特殊作戦コマンドは6年間にわたりV-22を運用し続け、豊富な教訓事項を残してくれた。

「V-22を開発したのは、はるか昔のことです」と1960年代からティルトローターに携わってきた主任技術者のトム・ウッドは言った。「我々が今日知っていることのすべてを知っていたわけではないのです」

固定されたエンジン

V-280のナセル(モックアップ)(写真:AHSインターナショナル)

それらの教訓事項の中のひとつに、2基のロールスロイスAE1107Cリバティー(T406)エンジンを傾けるようにしたことで生じた欠点がある。V-22のパイロットは、ヘリコプター・モードで着陸したならば、ナセルの角度を中間位置に変更するのを忘れないようにしなければならない。高温のエンジン排気が艦船の甲板を焦がしたり、芝生を燃やしたりするのを避けるためである。V-22を運用し始めたばかりの頃には、このために発生した火災によって、少なくとも3機の機体が焼失した。また、EAPS(Engine Air Particle Separators, エンジン空気・砂塵分離機)から漏れた作動油が、ナセルを上方に傾けた際にエンジン内に流れ込み、火災が発生するという事例も発生している。これらの問題は、訓練の実施や構造の変更により、ほぼ解決されているものの、エンジンが上方に傾けられることにより、離着陸時に大量の砂塵を吸い込みやすくなるという別の問題も発生している。

ただし、ベル社がV-280のエンジンを固定した最大の理由は、これらの問題があったからではなかった、とトービンは語った。それは、兵員を陸軍が慣れ親しんでいる方法でV-280に搭乗させ、それから降機させたかったからであった。

「1965年以来、陸軍の中型輸送機においては、兵員の乗り降りをサイドドアを使って行ってきました。陸軍の兵士たちは、その習慣を変えたがらないだろうと考えたのです。」とトービンは言った。「エンジンが地面から5,60センチくらいのところまでぶら下がっていたのでは、サイドドアから外に出られないことが明らかです。このため、エンジンを固定し、ローターだけを傾ける方法を考え出す必要がありました」JMR実証用V-280は、ゼネラル・エレクトリック社のT64-GE-419エンジンを使用する予定である。このエンジンは、シコルスキー社のCH-53Eヘリコプターで使用されているエンジンの派生型である。ただし、ナセル全体を傾けるのではなく、エンジンを翼端に固定してローターのみを傾けた場合には、ナセルの前方下側に大きな隙間が開いてしまうことが問題であった。
ウッドは、彼が「クレドル」と呼ぶナセルの前側にできるこの隙間について、それが生じさせる抵抗は、それほど大きな問題とはならない、と語った。ローターが上方に傾けられたヘリコプター・モードでは、前進速度が小さいためである。それでも、ベル社の技術者たちは、そこから砂塵がナセル内部に入ることを防止するために、その隙間を塞ぐ方法を検討しようとしたが、最終的には、その隙間により生じるリスクとの共存を許容することに決定した、とウッドとトービンは述べた。

「隙間があることは、けっして好ましいことではありませんが、解決が困難な、回避できない問題なのです」とトービンは言った。「このように大きな構造物を回転させた場合、それによって生じる隙間を塞ぐのは無理なのです」トービンは、その隙間の周囲を流れる空気が、そこから砂塵が大量に侵入することを防いでくれるはずだ、と言った。ウッドは、「認識すべきことは、ナセルの部分では、ローターの後流が弱いということです。ナセルの周囲における空気流の速度は、ローター自体が発生する空気流の大部分の速度よりも、はるかに遅くなります。空気流の速度は、ローターの半径に応じて変化するものであり、ナセルの部分では、ずっと遅くなるのです。XV-15においても、その種の隙間を塞ごうとして数々の方法を試しましたが、実際のところ、そのために必要な手間に値する効果を発揮したことはありませんでした」と言った。そして、V-280のローターを上方に傾けた場合に生じる隙間についても、同じことが言える、と付け加えた。

V-280のエンジンを固定することは、ベル社の技術者たちにとって、設計上の大きな課題となった、とトービンは語った。「ローターだけを傾ける方法を考え出さなければなりませんでした」当初、技術者の中には、それに抵抗する者もいた。その設計は、V-22のプロップローター・ギアボックスおよびティルト軸・ギアボックスを「完全に異なる部品」に置き換えることを意味するからである。また、ウッドは、V-280の主翼下部にサイドドアを設けることは、「主翼下部の胴体の強度低下をいかにして防ぐかという設計上の課題を克服しなければならない」ことを意味する、と述べた。

トービンは、この結果、V-280に搭乗する兵員たちは、「主翼下方に高さ8フィート(2.4メートル)の射界を確保することができたし、エンジンに邪魔されることなくサイドドアから降機して分散し、戦闘隊形に移行することも可能になったのです」と言った。加えて、結果的には、V-22のエンジンの傾きによって潜在的に存在していた危険を排除できたことは、「素晴らしい利点です」とトービンは言った。ただし、「そのきっかけとなったのは、サイドドアから機外に出ることだったのです」

大型プロップローターおよび直線翼がもたらした変化

機体重量に比してプロップロータの直径が大きいV-280のディスク・ローディングは、V-22の3分の2しかない。(図:ベル・ヘリコプター社)

V-22とほぼ同じ大きさのプロップローターをその半分ちょっとの重さの機体に用いたことも、V-280に大きな利益をもたらすはずである。しかしながら、トービンとウッドは、その違いを生み出したきっかけも、V-22の教訓というよりは、顧客である陸軍から示された要求事項だった、と語った。

1980年代にV-22が設計された時、その主要な顧客は海兵隊であった。海兵隊は、V-22に対し、CH-46シーナイト兵員輸送ヘリコプターと同じ大きさのキャビン(24名の武装兵員の搭載が可能)を求めたが、その一方で、タラワ級強襲揚陸艦での運用も求めていた。そして、その艦船の上部構造物の側方を、そこから12フィート8インチ(3.9メートル)以上ローターを離し、甲板の端から5フィート以上内側に外側のタイヤが入った状態でタクシーすることを要求したのである。このため、V-22のプロップローターは、直径38フィート(12メートル)以上の大きさにすることができなかった。それは、その当時、V-22プロジェクトに参加していた技術者が、この大きさの機体にとって理想的だと考えていたプロップローターの大きさよりも5フィート(約1.5メートル)も小さかった。このことは、V-22のディスク・ローディングを非常に大きくし、文字どおり、ハリケーン並みのダウンウォッシュを生み出すこととなった。これに対し、V-22とほぼ同じ大きさのプロップローターを装備し、かつ機体重量が軽いV-280のディスク・ローディングは、約15~16ポンド毎平方フィートとなる。これは、V-22の約3分の2に相当し、ダウンウォッシュの速度を少なくとも20%低減させるはずである。

V-280のもう一つの見た目の変化は、直線で上反角のない主翼である。ウッドは、この主翼には、V-22の上反角のある前進翼に比べて、多くの利点がある、と言った。第一に、ウッドは直線翼について「高アスペクト比の翼とすることができ、揚力対抗力比と空力的効率性を向上させることができました」と言った。また、直線翼にすることによって、ローター同士を連結し、その回転を同調させ、一方のエンジンが停止しても両方のローターを回転させるために必要な機構を大幅に単純化することができた。特に、V-22において292ポンド(132キログラム)の重量増加をもたらし、価格の上昇を招いていたミッドウィング・ギアボックスを不要にできたことは、大きな収穫であった。

V-22の主翼に前進翼が採用されていたのは、V-22が設計された当時、複雑な空力特性として知られていた、ある現象が発生した場合の危険性を回避するためであった、とトービンは語った。「当時は、前進飛行時にローターがどの様にフラッピングするかを正確に把握できていなかったのです」とトービンは説明してくれた。「このため、翼を前進させて、内側のブレードが後方にフラッピングしても、翼に接触しないようにする必要があったのです。現在では、前進飛行中のティルトローターは、それほどまでに大きくフラッピングすることはないということが分かっています。V-22の前進翼は、必要以上のマージンを確保していたのです」
主翼を真っ直ぐにしたことは、V-22の批評家たちと支持者たちをあれほどまでに争わせたコストや複雑性という問題を、ベル社の技術者がいかにして解決したのかを示す非常に良い一例です。「上反角と前進角を持たせるためには、左右のローターをつなぐドライブシャフトを複雑な角度で通す必要がありました。翼がまっすぐであれば、製造工程を大幅に簡素化できるのです」とウッドは言った。「そのレベルは、皆さんの想像を遥かに超えるものです」

尾輪式降着装置およびV字尾翼がもたらす利点

V-280のV字尾翼(モックアップ)(写真:AHSインターナショナル)

顧客の文化およびV-22の教訓がもたらした、もうひとつの設計変更は、尾輪式降着装置の採用であった。尾輪式とは、V-22の前輪式とは反対に、2組の大きな車輪を機首に、1組の車輪を尾部に配置する降着装置の方式である。陸軍のUH-60ブラック・ホークおよびAH-64アパッチは、尾輪式降着装置を採用している、とトービンは述べた。後方にランプドアがないV-280には、前輪式でなければならない理由がないため、陸軍が慣れ親しんだ方式を採用することにしたのである。ただし、尾輪式の採用は、V-22の教訓を反映したものでもあった。海兵隊は、不整地への着陸時に前輪が損傷する事例が発生したため、V-22が不整地に着陸する際の前進速度を5ノット(時速9キロメートル)以下に制限せざるを得なかった。尾輪式降着装置の採用は、V-280の不整地への着陸時の前進速度の限界を高めることになるであろう。
さらに、もうひとつの設計上の変更点は、V-22のH字尾翼に代えてV字尾翼を採用したことである。これには、複数の理由がある。ウッドは、V-22の設計者がH字尾翼を採用したのは、V字尾翼では高さが高くなりすぎ、強襲揚陸艦の甲板の下に入れるために、折り畳みヒンジを追加する必要があったからである、と述べた。V-280に対する陸軍の要求事項には艦船での保管に関する事項がなかったこともあるが、それ以上に、機影を小さくすることができるV字尾翼は、被発見率を低下させ、軍用機としての能力を向上できるという利点があった。また、H字尾翼に比べて、機体へのアンテナの配置に関する自由度も増大した。加えて、大きな動翼を持つV字尾翼は、先進的なフライ・バイ・ワイヤ方式の操縦系統と相まって、操縦特性の向上および重量の軽減にも貢献したのである。

すばらしい将来を目指して

スプリット・エアロシステムズ社は、10月上旬、2機のV-280実証機のうち初号機用の胴体をテキサス州にあるベル・ヘリコプター社のアマリロ工場に搬入した。現在は、その胴体への艤装作業が行われている。12月初旬の時点では、ベル社のJMRチームは、ウイング・ボックスに複合材製の上面および下面外板を取り付け、その閉鎖を完了している。特筆すべきことは、この翼は、リベット類をほとんど使用せず、接着により製造されていることである。翼の外板は、圧力釜を使用せず、常温で加圧するだけの「樹脂ボンディング」により接着されている。ベル社は、エンジンナセルの組み立ても完了しつつある。
ベル社のシステム統合ラボは、飛行制御装置のクロスチャンネル・データ・リンクの統合を行い、3つのコンピューターの相互通信に成功した。これは、3重の操縦制御系統を持つこのティルトローターにとって、非常に重要な能力のひとつである。V-280の主要ソフトウェアは、2016年初頭にリリースされる予定である。
V-280実証機が完成したならば、風洞実験装置を用いた試験などが行われる。そして、操縦装置にソフトウェアがインストールされ、2017年9月には初飛行が予定されている。トービンとそのチームは、JMR技術実証以降の段階におけるV-280の将来についても自信を持っている。ベル社は、すでに海軍および海兵隊用の派生機の設計を始めている。これらは、折り畳み可能なプロップローター・ブレードや主翼の収納機構を備えている。これらの機能は、重量とコストの増加をもたらすものの、V-280を陸上だけではなく、DDGデストロイヤーのような小型の艦船でも運用可能な機体にする。
「設計には、自信があります」とウッドは言った。「完璧な分析に基づいた製造を行い、いかなる問題が生じても、必ずや飛行を成功させます」

著者

リチャード・ウィッテルは、ペンタゴンなどアメリカ合衆国政府に関する記事を22年間にわたってダラス・モーニング・ニュースに掲載してきた。また、ドリーム・マシーン、悪名高きV-22オスプレイの知られざる歴史(鳥影社, 2018, 影本賢治訳)および無人暗殺機ドローンの誕生、プレデター(文藝春秋, 2015,赤根洋子訳)の著者でもある。

                               

出典:VERTIFLITE January/February 2016, Vertical Flight Society 2016年02月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    4年も前の記事ですが、V-280の設計について、かなり詳しい情報が記載された記事を見つけたので、翻訳してみました。