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陸軍航空の情報センター

2007年度上半期米陸軍航空事故発生状況の概要

チャリシー・ライル
米陸軍戦闘即応センター
アラバマ州フォート・ラッカー

米陸軍の多数の兵士が世界各地の危険地域に展開し、GWOT(Global War on Terrorism,テロリズムに対する世界規模の戦争)を遂行している。航空事故の発生状況にも、このことが少なからず影響を与えている。

本記事は、2007年度上半期のクラスA及びBの事故について、その発生状況等の情報を提供するものである。この期間に米陸軍において発生したクラスA及びBの事故(無人機を除く)は、合計14件であり、昨年度の同時期における発生件数(27件)よりも減少している。しかしながら、これらの事故による死亡者数は、陸軍兵士12名、空軍兵士1名及び軍属1名の合計14名であり、被害総額も4,400万ドルに達している。発生地域別に見ると、4件の事故が中央コマンドの作戦地域(そのうち1件は韓国)で発生したが、過半数(64%、9件)の事故は米国本土で発生している。次のグラフは、各機種の事故発生件数と死亡者数を比較したものである。以下、各事故の詳細について述べる。

AH-64 アパッチ

アパッチについては、2007年度上半期に3件の事故が発生した。そのうちの1件は2名の米陸軍兵士が死亡したクラスAの事故であり、残りの2件はクラスBの事故であった。
 クラスAの事故は、イラクにおいて2機編隊で飛行していたアパッチの2番機において発生した。その編隊は、夜間の偵察・警戒任務を終了し、FARPから基地に帰投中であったが、視程が悪化したため、FARPに引き返そうとしていた。進路を反転するため、長機が左旋回を開始し、2番機がそれに続行した。旋回の途中で、2番機の操縦は、副操縦士から機長に交代した。調査の結果、機長はこの時、既に空間識失調状態にあったと考えられる。一方、副操縦士は、機長の操縦状況の確認や、機長に対する降下速度及び機体姿勢についての助言を実施していなかった。このため、当該機は、左旋回しながら降下を継続し、そのまま地面に激突した。機体は大破し、操縦士は2名とも死亡した。
 クラスBの事故は、2件ともエンジン・オーバースピードによるエンジン損傷であった。そのうちの1件は器材上の要因で発生したものであり、他の1件は整備ミスで発生したものであった。器材上の要因で発生した事故の場合は、着陸進入中に「ローター過回転」の警報が表示され、No.2エンジンのフレームアウトを示す警報音が鳴った。調査の結果、トランスミッション及びメイン・ローター系統に損傷が及んでいることが判明した。もう一方の事故は、エンジンの組み立て時、整備員が誤った手順による作業を実施し、さらに検査員がその欠陥を発見できなかったことが原因であった。なお、地上運転においても、既に過回転が発生していたと考えられるが、操縦士はこれに気付いていなかった。

OH-58D カイオワ・ウォーリア

カイオワ・ウォーリアについては、この期間内に1件のクラスAの事故(死亡者なし)と2件のクラスBの事故が発生した。
 クラスAの事故は、夜間の車列警戒任務を実施中に発生した。長機として飛行していたOH-58D(R)のエンジンがフレームアウトし、急激に高度を失って墜落して、2名の操縦士が重傷を負った。この事故においては、機長のエンジン不具合に対する対応の遅れと、副操縦士の援助の不適切が、機体の損傷及び人員の負傷の程度を増大させたと推定される。
 クラスBの事故のうちの1件は、OH58D(R)が氷の張った水面に予防着陸しようとしたところ、氷が割れて機体が損壊したものであった(負傷者なし)。もう1件は、地面効果外ホバリングにおけるオーバートルク状態(NP指示:140%、3秒間)によるエンジン等の損傷であった。

UH/MH-60 ブラック・ホーク

ブラック・ホークについては、この期間内に2件のクラスAの事故が発生し、4名が死亡した。いずれの事故も米国本土において発生した。
 1件目の事故は、UH-60が山腹に激突し、3名の兵士が死亡したものである。当該機は、単機でのNVG飛行訓練を実施していたところ、雨混じりの強烈なスノー・シャワーに遭遇した。操縦士が1,100フィートまで高度を下げたところ、樹木に覆われた斜度45°の斜面に激突してしまった。本事故は、当該機の操縦士のIIMC(Inadvertent Instrument Meteorological Conditions, 予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)からの回避手順の不適切により発生したものと考えられる。なお、天候悪化にも関わらず飛行を継続した機長の状況判断には、被教育者の操縦士が、あと1日でNVG資格を付与される予定であったことが影響を及ぼした可能性がある。
 もう1件の事故は、基本戦闘能力訓練において、左側席での操縦が始めての操縦士が滑走着陸を実施中に発生した。機速が過大であり、かつ、機首方向が滑走路に一致していなかったため、ハード・ランディング状態となった。このため、メイン・ローターが下方にたわんで、テール・ローター・ドライブシャフトが損傷し、コントロール不能状態となって横転した。機体は大破し、陸軍軍属のインストラクター・パイロット1名が死亡した。

CH/MH-47 チヌーク

チヌークについては、この期間内に1件のクラスAの事故(作戦地域内におけるエンジンのフレームアウト)が発生した。
 夜間の兵員輸送任務を実施中、3機編隊の3番機において、一方のエンジンがフレームアウトした。操縦士は、シングル・エンジン状態において適切な速度にするため、速度を下げ始めたが、2名ともコックピット内の操作に気を取られてしまい、飛行速度がシングル・エンジンの限界速度よりも下回ってしまったことに気づかなかった。このため、ローター速度が低下し、機体はほぼ垂直に地面に墜落した。機体は大破し、8人の搭乗者(陸軍7名、空軍1名)が死亡、14名の搭乗者が負傷した。なお、当該機は、天候状態の悪化に伴い、IIMCからの回避手順を実施している最中であった。

UH-1 ヒューイ

ヒューイについては、1件のクラスAの事故(ワイヤー・ストライク)と1件のクラスBの事故(制限地着陸におけるダイナミック・ロールオーバー)が発生した。
 クラスAの事故は、昼間の山岳地域における人員輸送任務実施中に発生した。当該機は、対地高度約350フィート、対気速度約60ノットで山頂の着陸点に進入中、複数のワイヤーに衝突した。このため、機長は、パワー・オンのまま急降下してから高度約40フィートでコレクティブを引いたところ、機体が右に旋転を始め、山腹に墜落・横転した。この事故により、操縦士1名と搭乗者1名が重傷を負った。当該機の機長がハザード・マップを確認せずに、定められた最低安全飛行高度以下を飛行したことが原因と考えられる。
 クラスBの事故は、昼間の単機訓練任務中、UH-1Hが制限地着陸を実施したところ、ダイナミック・ロールオーバーにより横転したものであった。

TH-67 クリーク

TH-67については、1件のクラスBの事故が発生した。オートローテーション訓練中にターミネーションを実施したところ、機首ぶれが発生し、ハード・ランディングした。

ARH-70 武装偵察ヘリコプター

ARH-70については、1件の事故が発生した。試験飛行中に燃圧警報灯が点灯し、エンジンがフレームアウトしたため、オートローテーションを実施したが、接地の際に機体が横転し、大破した(負傷者なし)。

固定翼機

固定翼機については、RC-12Dの降着装置の不具合に起因するクラスAの事故が1件発生した。当該機は、着陸準備中、降着装置の警報灯が点灯したため、緊急手順に従って着陸を実施した。接地時には特に問題が発生しなかったが、約300メートル滑走した後に、右側主脚が坐屈した(負傷者なし)。

要 約

先に述べたとおり、統計的には今年度の事故発生件数は、昨年度と比較して減少傾向にある。しかしながら、軍人及び軍属の死亡は、それが戦闘によるものであっても、あるいは事故によるものであっても、その防止に最善を尽くさなければならない。
 発生した事故のうち2件は、不適切なクルー・コーディネーションに起因するものであった。2件とも飛行中のエンジン不具合に関連して発生した事故であり、操縦を実施していない操縦士による操縦中の操縦士に対する援助が十分でなかったことがその要因として考えられている。
 飛行中のエンジンのフレームアウトは、合計4件発生しているが、発生した機種はそれぞれ異なっている。また、IIMCに起因する事故で5名が死亡し、2機が大破している。
 「テロに対する戦い」において勝利を得るため、航空職種の果たしている役割は非常に大きい。14名の人命が失われたという事実は、飛行任務が本質的に危険なものであり、今日も多くの軍人及び軍属が自らを危険にさらすことによって米国の自由を守っていることを示すものである。
 航空事故発生件数を減らすためには、「リーダーシップの発揮」、「CRM(Composite Risk Management, 複合リスク・マネジメント))の実施」及び「搭乗員間のクルー・コーディネーションの改善」の更なる徹底が必要である。
 安全確保による陸軍の精強化、それが我々の使命だ!

編集者注:これらの統計資料は、2007年6月5日現在のUSACRCデータベースに基づくものである。発出が遅れた報告や速報に続く詳細な報告を受領することにより、統計資料及び結論に変更が生じる可能性がある。
訳者注: 米国の会計年度の開始は10月、終了は9月である。また、米国陸軍の航空事故は、概ね以下のとおり区分されている。
クラスA- 100万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは疾病を伴う事故
クラスB- 20万ドル以上100万ドル以下の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは疾病、又は5人以上の入院を伴う事故
クラスC- 1万ドル以上20万ドル以下の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは疾病を伴う事故
クラスD- 2,000ドル以上1万ドル以下の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病を伴う事故
クラスE- クラスDに至らない航空インシデント

           

出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness Center 2007年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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