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陸軍航空の情報センター

標準手順の不履行

上級准尉3 レイモンド・アンドレル
第212航空連隊第1大隊F中隊
フォート・ノボセル、アラバマ州

私たちの飛行部隊は数か月間現地に駐留し、全般支援、空中機動およびVIP輸送任務を遂行していました。ある日、担当地域内の下級部隊を視察する任務部隊司令官を空輸する任務を命ぜられました。当該任務を実施する編隊は2機のUH-60で構成されていました。1番機(長機)には、当該司令官が搭乗していました。2番機には空中部隊指揮官と任務部隊司令官の警護要員および支援要員が搭乗していました。

航空搭乗員は、いつもと同じように任務ブリーフィングのために集合しました。任務を受領して作戦室を出ると、搭乗員ブリーフィングを行って詳細を確認しました。標準的な情報がすべて確認され、続いて各航空機の状況が確認されました。

1番機のクルー・チーフは、航空機が当該任務の途中で、トルク・チェックのための整備点検が必要となる飛行時間に到達することを報告しました。このため、任務部隊司令官を最初の視察先まで輸送した後、一旦基地に戻ってから再出発するまでの間に、別の航空機に乗り換えることが決定されました。予定どおりの時間に到着するためには、その行動は迅速かつ確実に実施する必要がありました。

搭乗員ブリーフィングを完了した1番機と2番機の搭乗員は、それぞれの機体に向かいました。その後、各機の搭乗員ブリーフィングを実施し、交戦規則や武器の状態、緊急時の手順など、より具体的かつ詳細な手順を確認しました。しかし、航空機の交換に関しては、機体番号、機体点検の実施および装備品の移動を指示しただけで、具体的な手順を話し合うことはありませんでした。

機長は、搭乗員全員が各人の責任を理解していると判断しました。ブリーフィングを完了した搭乗員たちは、飛行前点検を実施し、エンジンを始動しました。編隊は、小移動して任務部隊司令官とその支援要員を搭乗させると、ブリーフィングされたとおりに任務を開始しました。

任務の途中で基地に帰投すると、1番機はブリーフィングされたとおりに駐機エリアに戻り、航空機の交換を開始しました。2番機は別の位置で給油を行いました。この時点まで、任務は完璧に遂行できていました。1番機のクルー・チーフが航空機から降り、チェックリストに従ってシャットダウンを行いました。

その間、ガナーは全ての装備品を携行し、予備機への移動を開始しました。シャットダウンが完了し、機長と副操縦士がシート・ベルトを外して航空機から降りる準備をしていると、クルー・チーフとドアガナーが、機長に報告することなく、240H機関銃を機体から取り外しました。副操縦士は残りの装備を把握し、機長は最終確認を行いました。標準手順では、すべての武器の安全点検が行われたことを機長が確認することになっていました。武器が取り外されていることに気づいた機長は、ガナーの後を追いかけ、武器の安全点検を確認させなかったことを軽く叱責しましたが、離陸時間が迫っていたことから、そのまま武器の移動を続けさせました。

予備機を急いで始動させようとしていた機長は、ガナーが運んでいた武器の前を通り過ぎ、それが地面に置かれる直前に機体に乗り込みました。不安全事案が発生したのは、その時でした。240Hを地面に置いた際に、弾丸が発射されてしまったのです。幸いにも銃身が下方を向いていたので、弾丸は駐機場のコンクリートに当たっただけでした。負傷者はなく、航空機にも損傷はありませんでした。

機長は、不時発射の後、直ちに武器から離れるようにガナーに命じました。そして、自ら武器を安全な方向に向け、安全点検を確実に行い、不安全の発生状況を把握しました。その後、搭乗員を集めると、実施された手順に不備があったことと、その原因が自身および搭乗員全員の判断の甘さにあったことを指摘しました。当該不安全は中隊長に通報され、適切な懲戒処分が下されました。

当該ガナーは、最近になって部隊に異動してきたばかりの兵士でした。私たちの部隊での経験が少なかったにもかかわらず、その運用を理解しているものと思い込まれていました。私たちの部隊では、展開から8か月が経過したその時点まで、不時発射事故が1件も発生していませんでした。武器の安全点検手順に関する継続的な訓練に、指揮官の監督が加わることで、事故の発生を防いでいました。

部隊に配属されてからわずか2週間だった当該ガナーは、他の兵士のようには十分な訓練を受けていませんでした。また、前の部隊でも評価が低く、私たちの部隊でもそうなりつつあった隊員でした。中隊長、先任曹長および中隊標準化パイロットは、以前の任務における武器操作に関して、その兵士が判断力を欠いていることを把握していました。さらなる調査により、その兵士の仲間の多くが、彼が重大な事故に巻き込まれるだろうと予測しており、不時発射事案を起こしたことに驚いていなかったことが分かりました。

言うまでもなく、この任務は失敗に終わりました。航空機への搭乗を急いだことが不安全を引き起こし、離陸時間と目標到着時間に遅れをもたらしました。任務部隊指揮官の帰投は遅れてしまいました。

教訓

整備
航空搭乗員のブリーフィングで、1番機が任務の途中で整備点検を必要とする時間に到達することが確認されました。航空搭乗員は、この問題を早期から把握していたにもかかわらず、最初から予備機を使用する代わりに、任務途中で別の航空機に乗り換えるという、はるかに複雑な解決策を選択しました。

訓練
配属されたばかりのガナーは、詳細な訓練や指導を受けていませんでした。そのうち部隊の運用に適応するだろうと安易に考えられ、部隊の飛行教官から適切な指導や評価を受けていませんでした。適切な段階的訓練プログラムが遵守され、厳格に実施されていたならば、問題点が指摘され、是正訓練が行われていたはずです。

リーダーシップ
当該ガナーの性格、判断力および訓練成果の問題点は、中隊に着隊後まもない時期から確認されていました。指揮官が即座に行動を起こし、再評価を要求していれば、これらの要因が検証され、リスクが排除されていたでしょう。また、機長の慢心と、全ての手順が適切に行われるだろうという思い込みが、標準手順の不履行と安全性の低下を引き起こしました。ブリーフィング・チェックリストに従い、バック・ブリーフ(質問)の時間を設けていれば、未解決の問題があることを把握できていたかもしれません。

クルー・コーディネーション
機長が、ガナーとクルー・チーフが航空機との通信を切り離す前に、自分自身が安全点検を完了するまで、武器に触れないよう指示していれば、この事故は起きなかったかもしれません。クルー・コーディネーションの失敗は、任務遂行前に、機長が航空機交換中に行われるすべての行動を詳細にブリーフィングしなかったことから始まっていました。機長は、全ての搭乗員が標準的な手順を知っているものと思い込んでいました。副操縦士は、他の搭乗員たちが武器を取り外していることを通報せず、その搭乗員たちも武器を取り外していることを報告しませんでした。搭乗員がわずかな時間を惜しまずに詳細な打ち合わせを行い、相互に支援を申し出て、自分たちの行動を報告していれば、この任務は完遂できていたことでしょう。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年04月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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