懸吊物リリース時のカーゴ・フックの跳ね返り
それは、私がまだ操縦課程に入校する前の、2000年の夏のことだった。当時、私は、CH-47DチヌークでFE(Flight Engineer, 機上整備員)として勤務していた。我々の任務は、NVG(Night Vision Goggle, 暗視眼鏡)を用いたごく通常の飛行であり、2名の経験豊富なパイロットが操縦することになっていた。ブリーフィングにおいて、PC(pilot in command, 機長)からスリング訓練を実施することが示され、私は、カーゴ・フックの操作を行うように命ぜられた。
飛行前点検において、カーゴ・フックのすべての機能を点検し、スリングのために必要な準備を整えた。飛行間は、すべてが計画通り順調に進んでいると思われた。スリングの反復訓練を実施するに先立ち、PCが貨物の横に機体を着陸させると、私は、センター・カーゴ・フックが取り付けられているレスキュー・ハッチに位置した。もうひとりのFEは、別な位置で貨物を監視できる態勢を取った。スリング中に問題が生じないように準備状況を再確認した私は、PCからスリング開始の指示を受けた。
ホバリングが開始されると、私はレスキュー・ハッチから、機体を貨物の上に誘導した。2人の経験豊富なパイロットの操縦により、懸吊は順調に行われた。我々は、複数回の反復訓練を実施した。貨物を懸吊し、ホバリングに移行し、懸吊物を卸下し、機体を離脱させてから再進入するという操作を何回も繰り返した(別名「エレベーター」)。すべてが計画どおりに進んでいた。これほど単純なことが、上手くいかないことがあるだろうか?
最後のスリングにおいて、PCは貨物の上にホバリングし、その夜の他のスリングと同じように、スムーズに懸吊を完了した。その時、何か違うことが起こった。貨物を懸吊したままホバリングしている間に、技術上の議論を始めたパイロットたちは、機体が高度を下げ、懸吊物が地面に接地したことに気づかなかった。私は、パイロットに報告したが、応答がなかった。
チヌークは、横滑り(ドリフト)し、懸吊物を引きずり始めた。1分ほどの間、懸吊物は、上下に揺れながら、地面の上を引きずられていた。私は、パイロットに、貨物がまだ懸吊されている、それを引きずっている、と報告した。PCは、フックにまだ荷重がかかっている状態で、いきなり懸吊物をリリースした。何が起こったのか理解する間もなく、大きな音が響き、センター・カーゴ・フックがレスキュー・ハッチからキャビン内に飛び込んで来て、床面で跳ね返り、外へと飛び出してゆくのが見えた。幸運なことに、私は、何らかの理由でレスキュー・ハッチから顔を離していたので、顔面を殴られずに済んだ。デブリーフィングにおいて、PCが懸吊物を地面に接地させた後にリリースしたと思っていたことが分かった。私は、PCが30フィート後方で何が起こっているかを分かっていると思い込んでいた。
その夜、私の自信過剰とクルー・コーディネーションの不足が、私の判断を誤らせた。私は、経験豊富なPCが自分で何をしているのか分かっていると思い込んでいた。その私の思い込みがクルー・コーディネーションを阻害したのであった。私は、懸吊物が引きずられていることに気づいたならば、直ちにPCに報告し、その状態が続かないようにすべきであった。それさえやっておけば、あの夜の恐ろしい結末を避けることができたはずであった。
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1件のコメント
CH-47のセンター・カーゴ・フックは、レスキュー・ハッチの内側に前後方向にスイングできるように取り付けられています。フックを使用しない時は、ハッチ内にスイングさせて、ハッチ側面のストラップで固定できるようになっていますので、かなり上方まで動くようになっています。(TM1-1520-240-10の4-3-17ページをご覧ください)スリング時、FEは、ハッチから下に顔を出すようにして機体を誘導するので、この状態でフックが飛び上がってくることは、大変危険な状態になると思われます。