AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

ある機付長の遺言

上級准尉3 アラン E.リードオーティス空軍州兵基地
マサチューセッツ陸軍州兵
マサチューセッツ州ファルマウス

ずいぶん昔のことになりますが、私はドイツのナリゲン・バラックスにあった第48航空中隊に特技兵4(スペシャリスト4)として勤務していました。「タンゴ」と呼ばれるブラック・ホークの整備特技(67T)を取得したばかりの新米整備員だった私は、機付長として飛行小隊に配属され、英国のナセラヴォンで実施されていた実動演習に参加していました。私の中隊は、在ヨーロッパ米陸軍で初めてUH-60を運用した部隊でした。当時の私は、まだ経験は少ないものの、機付長としての技量に自信を持っていたのですが、これからお話しする事案の発生でその自信が吹き飛んでしまったのでした。
 ブラック・ホークの機付長であれば誰でも知っているとおり、ギアボックス等は、オイル・サンプルを定期的に採取して整備部隊に送付し、その中に含まれる粒子の状態を分析しなければなりません。APU(補助動力装置)も、そのサンプル採取の対象になっています。
 ある夜、私が搭乗したブラック・ホークは、NVG訓練を終了して草地の着陸場に異常なく着陸すると、オイル・サンプルの採取時間に到達しました。私は、疲れていたし、頭痛もあったのですが、次の日は休務の予定だったので、パイロット達が飲みに行った後、懐中電灯を使いながらオイル・サンプルの採取に取りかかりました。
 オイル・サンプルの採取は、通常、20分から30分程度で終了します。しかしながら、「マーフィーの法則」が示すとおり、こういう時に限って、APUのオイル量が若干少ないことに気が付いてしまいました。私は、直ちにオイルの補充を行うことにし、「じょうご」を他の機付長から借りて準備しました。その赤いプラスチック製の「じょうご」には、長さ10インチ位のチューブが取り付けられ、そのチューブの「じょうご」と反対側の3インチ位は円錐状の形をしていました。その円錐状の部分をオイルに満たされた暗いサンプの中に沈めると、私は何も考えることなく「じょうご」にオイルを注いでから、それを引き出しました。その時、チューブ先端の円錐状の部分がチューブと一緒に出て来なかったことに気付きました。
 「くそ!」私は、懐中電灯を取り出し、必死になってサンプの中を照らしました。疲れ切った眼を見開いて探すと、チューブから外れた円錐状の部品がオイルの表面に浮いているのを発見しました。この「じょうご」は、2つの部品で構成されていると思っていたのですが、実際には3つの部品で構成されていたのです。
 それから一時間位、指でその部品を取り出そうと、苛立ち、やきもちしながら、無駄な努力を続けました。しかしながら、とうとう挫折し、翌日の朝に改めてこの芸当にトライすることにしました。
 翌朝眼が覚めると、直ちに航空機のところに向かい、「魚釣りの練習」を再開しました。幸運なことに、その日は飛行予定がなかったので、外れたプラスチック部品を回収するため、いろいろな方法を試すことができました。その頃の私は、飛行小隊の正規メンバーになることを希望していて、この事態が機付長としての自分の将来に影響を及ぼすことを恐れていました。数時間の間、円錐状の部品を取り出せる可能性のあるあらゆる要領と特別工具を試しました。しかしながら、ついに私は降参し、困り果て、途方に暮れてしまい、分隊長に窮地に立たされていることを打ち明けることにしました。
 分隊長や小隊陸曹もそのプラスチック部品を釣り上げようと努力してくれましたが、それも徒労に終わり、中隊先任下士官が「英国陸軍にレッカ支援を要請することが必要である」と判断するに至りました。そのプラスチック部品を取り出すためには、APUを機体から取り外し、オイルをドレンする必要がありました。英国陸軍がAPUを機体から吊り上げられるレッカを準備し、その支援を受けながらAPUを吊り上げ、さかさまにしてオイルとプラスチック部品をドレンするのに、それから2日間を要しました。
 私のブラック・ホークは、私のミスのせいで合計3日間も非可動となったのです。しかしながら、中隊先任下士官は、「こういう失敗は誰にでもあることだ。報告してくれたことを嬉しく思う」と私を慰めてくれました。
 我々は、この事案からAPU及びその整備用工具について、多くの事を学びました。野外でブラック・ホークのAPUを取り外したのは、我々にとって初めてのことだったのです。さらに重要なのは、この事案を通じて米国陸軍と英国陸軍の間に、逆境からしか得られない強固な絆を形成できたことでした。

           

出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2009年04月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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