航空整備訓練プログラムの完全施行について
航空整備は、航空科部隊の飛行任務遂行能力および地上部隊に対する戦闘および戦務支援能力を直接左右する重要な要素である。航空整備の瑕疵は、航空機等の性能および信頼性に重大な影響を及ぼし、任務の遂行を困難にするからである。また、航空機等による攻撃、輸送、偵察および監視機能なくして、作戦の適切な計画および実行はありえないからである。訓練および戦闘運用を同時に遂行するためには、航空機の数を十分に確保できていなければならない。そのためには、部隊の(計画および非計画)整備の遂行能力を適切に評価することが極めて重要である。
2020年12月発行のTC(TrainingCircular,訓練資料)3-04.71「航空整備部隊訓練プログラム(Commander’s Aviation Maintenance Training Program)」は、航空整備訓練プログラム(aviation maintenance training program, AMTP)に関係する航空部隊指揮官、整備部隊指揮官、士官、下士官、および専門官向けの参考資料である。航空整備訓練プログラムは、2018年10月以降、段階的に施行されており、2021年10月に完全に施行される予定である。このプログラムを実施することにより、航空整備訓練の標準化、整備能力の適切な評価、および可動率維持能力の正確な把握が可能となる。加えて、見習整備員(apprentice level, ML0)から指導整備員(master repairer, ML4)までの整備練度段階区分を明確に定義することができる(図1を参照)。その実施要領はTC 3-04.71に規定されており、適用範囲は1から3までのすべての構成品(COMPO 1、2、3)にわたっている。
整備、手入、改修などに従事するすべての航空整備員は、ICTL(individual critical task list, 整備員主要タスクリスト)への記録が義務付けられている。ICTLには、Central Army Registryのサイトからアクセスできるようになっている。サイトへのアクセス要領およびICTLの作成手順は、TC 3-04.71の付録A「訓練記録の管理」に記載されている。航空整備訓練プログラムの結果を保存するため、ICTLに加えて、DAフォーム(米国陸軍省の書式)3513「個別飛行記録」への記録も行わなければならない。DAフォーム3513の在庫がない場合には、TC 3-04.71に記載されているナショナル・ストック・ナンバー(NSN)を用いて、丈夫な紙でできた3つ折り式の記録簿(図2を参照)を請求することができる。
TC 3-04.71には、DAフォーム7817「航空整備員訓練記録」(各整備員の主要整備実績および訓練記録を永続的に記録するもの。2020年10月制定)などの個別飛行記録への保存が必要な記録が規定されている。(記録が必要な整備項目については、TC 3-04.71を参照されたい。)航空整備訓練プログラムの記録には、それ以外にも、DAフォーム4856「育成指導記録」(育成期間中の指導・検定記録)がある。個別飛行記録は、各整備員のICTL項目を記録・評価するためのDAフォーム5164-R「実績評価」、整備員グループのICTL項目を記録するためのDAフォーム5165-R「分隊整備記録」なども追加することができる。
個別飛行記録および航空整備訓練プログラムを確立し、維持することにより、ある整備員または整備指導員が適切に訓練され資格が付与されているのかどうかを適切に判断することができるようになる。さらに、整備員に対し、整備練度段階区分に基づいた訓練および実務を割り当てることが可能になる。加えて、整備訓練を適切な整備練度段階区分に集中させ、訓練内容の標準化を図ることにより、すべての整備業務の進捗度および習熟度を同一の要領で評価・判定できるようになる。結果的に、指揮官が部隊の整備員の資格および能力を把握し、部隊の即応性および各整備員の技能向上に資する訓練を計画することが可能になるのである。適切に運用・維持された航空整備訓練プログラムの元では、ある初級整備員(journeyman, ML1)が、他の初級整備員と同等の能力を有し、同程度の業務に精通していることが保証されるからである。
航空整備部隊は、TC 3-04.71に従い、各航空整備員の航空整備訓練プログラムおよび個別飛行記録が適切に管理されていることを確認しなければならない。それを怠ることは、部隊の能力に悪影響を及ぼし、航空事故の原因となる可能性すらある。TC 3-04.71をよく理解し、整備員が適切に任務を遂行できる基盤を確立することが重要である。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
現役の頃、航空整備の特技管理には随分と時間をかけたものですが、あまり成果は得られなかったような気がしています。この記事によれば、アメリカ陸軍も、いろいろと試行錯誤しているようです。アメリカ陸軍の現在の特技管理は、自分が現役の頃のものと比べると、すべての部隊で共通の管理が行われていることやウェブサイトを用いた一括した管理が行われていることなどの点で、より進んだものになっているようです。陸自では、現在、どのような特技管理が行われているのでしょうか...