自信を失墜させた飛行
その当時の私は、HH-60Mで500時間以上を飛行した上級パイロットの1人であり、機長への昇格を目前にしていました。機長として十分な技量をもっていると確信する私のことを、自信過剰だという人もいました。今にして思うと、まさにそのとおりでした。
隊長および技量評価操縦士との面接も何回かありました。隊長たちは、私が、他の教官パイロットや機長たちと同じ位に自分の技量に自信を持っていることが分かったようでした。その頃は、飛行後に機長から「お前だったらいつでも機長になれるな。十分な技量があるじゃないか。」と言われたものでした。その時には気づきませんでしたが、それを聞いてますます自分の能力を確信するようになっていました。しかし、ある飛行によって、私の自信は失墜してしまったのです。
ある技量評価操縦士が、私とのNVG訓練飛行を計画してくれました。それは、私を機長に認定するための飛行であるのが明らかでした。問題なく飛行して着陸したならば、機長に昇格できるに違いありませんでした。その飛行は、それまでに何度も経験した、ごく通常の2時間のNVG訓練飛行でした。飛行ブリーフィング時に、気象ブリーフィングがありました。飛行中は常にVFR(有視界飛行方式)であるものの、着陸から1時間後には天候の悪化が予想されていました。
私たちは離陸し、訓練飛行を開始しました。飛行時間が終わりに近づき、駐屯地に戻り始めるまでは、すべてが順調でした。天気の悪化が予報されていたので、シーリングおよび視程が悪化する兆候に注意していました。前線が進入し始めているのが分かっていましたが、それはまだ、ずっと西にありました。飛行場の自動地上気象観測システムからの情報を確認すると、視程は16マイル、シーリングなしでした。心の中でこう思いました。「心配ない。悪天候はまだ先だ。」
私は、平均海面高度4,500フィートまで上昇しました。それはNVG飛行用の進入高度です。飛行場から約10マイルの地点に達した時、突然、技量評価操縦士が「降下、降下、降下!」と叫びました。直ちにコレクティブを下げ、高度4,500フィートから降下を開始しました。水平飛行に戻った後、なぜ降下するように命じたのかを技量評価操縦士に尋ねました。技量評価操縦士は、冷静な声で、あと数秒で雲に入り、IIMC( inadvertent instrument meteorological conditions、予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)に陥るところだった、と答えました。
「どの雲ですか?」と私は尋ねました。NVGを通して見ても、天候の悪化は前方の方にしか確認できませんでした。技量評価操縦士は、進入しそうになった雲層に、近くの街の明かりが反射しているのが見えた、と説明してくれました。技量評価操縦士が指さす方向を見ると、私にもそれが確認できました。言うまでもなく、私は大きく動揺しました。
管制タワーからは、なぜ地上300フィートまで高度を下げているのかという質問がありました。私たちは、先ほど見逃すところだった雲層について説明しました。管制タワーからは、飛行場はVFRであり問題となるような雲はない、という答えが返ってきました。その後、管制タワーも間違っていなかったことが分かりました。滑走路の進入端を通過するとすぐに上空の雲は消え、飛行場自体はまさにVFRでした。
この飛行は、私の経験の中でも最も屈辱的なものとなりました。私は、自分の能力を過信していたのです。技量評価操縦士が一緒に搭乗していなければ、間違いなくIIMCに陥っていたことでしょう。それから後のことは、あまり覚えていません。飛行の最後の15分間は、自信が失墜しただけではなく、自信過剰だったことを悔やむことで集中力がそがれていました。飛行場が見えてくると、飛行の重要な部分は終わりました。あとは着陸するだけでした。ただし、IIMCに入りそうになったにも関わらず、HH-60Mを手動で操縦し続けていました。天候悪化が予想されたのですから、フライト・ディレクターにカップリングすべきだったのです。
着陸後、言うまでもなく、機長への昇格はありませんでしたが、気にはなりませんでした。無事に帰還できただけで嬉しかったのです。その飛行は、多くの貴重な経験を与えてくれました。機長になった今も、その経験を忘れず、自分の副操縦士たちにそれを伝えるようにしています。彼らが同じ過ちを犯さないことを願いながら。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2023年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:491