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陸軍航空の情報センター

ボルテックス・リング・ステートからの回復

匿名希望

UH-60ブラック・ホークは陸軍航空に不可欠な機体であり、様々な軍事作戦を支援し続けています。ただし、回転翼機特有の問題点がある点については他の機種と変わりがなく、安全確保のための着意を怠ることはできません。数年前、ブラック・ホークの搭乗員としてごく通常の訓練飛行を実施中に危機一髪の事態に遭遇しました。訓練からの帰投中にセットリング・ウィズ・パワーまたはボルテックス・リング・ステートと呼ばれる事象を経験したのです。この事象は、ヘリコプターが急激に降下しすぎ、ローター・ブレードの揚力を失った場合に発生します。

機長は、まだ資格を得たばかりでしたが、その日は2人の副操縦士に対し合計6時間の訓練を行っていました。2人目の副操縦士だった私は、3時間飛行したところで1人目のパイロットと交代しました。私は、飛行時間500時間ほどの機長が疲れてきていて、無線連絡を忘れたり、操作に遅れが生じたりしていることに気付いていましたが、危険な状態だとは思いませんでした。むしろ、わざとそのようにして私を試しているのだと思っていました。

訓練を終了し、FARP(Forward Arming and Refueling Point, 弾薬燃料再補給点)に着陸しようとしたとき、通常のVFR進入よりもはるかに急激に降下していることに気づきました。対地高度200フィートほどまで降下した時、進入の速度が速すぎ勾配が急すぎることを報告しましたが、機長は「分かった」と言って進入を続けました。機長が降下を止めようとしたとき、セットリング・ウィズ・パワーに陥り、機体が急激に降下するのが感じられました。状況は急速に悪化し、墜落の危険が生じているのが分かりました。

衝撃に備えて体を緊張させ始めたとき、機体が前方に傾き、十分な対気速度で自分自身のダウンウォッシュから抜け出すのが感じられました。機長は、疲労状態で危険な降下を行ってしまいましたが、墜落を避けるために適切な操作を行ってくれたのです。その後は、着陸復行を行い、ゆっくりとした安全なアプローチを行ってFARPに着陸しました。給油を終えると、駐機場に戻りました。その後のAARにおいて、この危機一髪の事態について話し合いました。中隊の技量評価操縦士にも、この不安全を報告しました。

技量評価・安全班は、同種事案の再発を防止するため、多くの措置を講じてくれました。セットリング・ウィズ・パワーの兆候やそれへの対応およびクルー・コーディネーションを維持するためのコミュニケーションについて、追加の訓練が行われました。私はセットリング・ウィズ・パワーに関する教育を担当することで、それへの理解をさらに深めました。そこでは、飛行中における適切な操作および効果的なコミュニケーションの重要性が再確認されました。

この不安全事例は、適切な操作手順を遵守することの重要性を改めて浮き彫りにしました。パワフルで複雑な機体であるUH-60の操縦には、搭乗員全員による細心の注意が求められます。同種事案の再発を防止するためには、飛行安全の確保を目的とした訓練を充実させる必要があります。

この不安全事例は、私がこれまで経験した中で最も危険なものであり、忘れることのできない教訓を与えてくれました。自分自身だけでなく、他のパイロットたちにも、このような操作を行わないことの重要性を伝えるようにしています。また、危険な状態であると感じた場合は、直ちに着陸復行を要求するようにもしています。それが行われない場合には、クルー・コーディネーションを適切にして、迅速な措置を講じます。

陸軍航空においては、コミュニケーション、調整および標準化された手順の順守の重要性が強調され続けています。セットリング・ウィズ・パワーによる危険状態を回避するために必要なのは、自らの迅速な状況判断と搭乗員間の適切なコミュニケーションです。この機体に課せられた重要な任務を遂行し続けるためには、この不安全事例の教訓に基づいた訓練を実施し、適切な手順を習得することが必要なのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2023年11月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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