AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

チェックリストを忘れるな

上級准尉4 カート・シューター
第169航空連隊第1大隊D中隊
コネチカット陸軍州兵、コネチカット州ウィンザー・ロックス

Dont-Forget-the-Checklist

その日、私は、まだ着任したばかりの訓練担当操縦士と一緒に、副操縦士として、C-12で飛行任務を遂行することになっていました。それは、傷痍退役軍人支援プロジェクト(Wounded Warrior Project, WWP)に対する支援の一環として、ルイジアナ州アレクサンドリアからテキサス州サンアントニオ空港まで退役軍人を空輸するという任務でした。それまで4年以上も、固定翼機の操縦から離れていた私は、C-12に再び慣れ始めてきたところでした。特段の問題はありませんでしたが、何か機械的に操縦しているように感じることが多くなっていました。

機体の飛行前点検では、何も不備事項がありませんでした。ところが、離陸しようとして地上滑走を始めた時に、異臭に気づきました。それは電気火災とは違った匂いのようだったため、乗客の誰かが、出発前に電子タバコを吸っていて、その匂いが残っているのではないかと考えました。離陸を始めた時には、もう匂いが消えていたので、その後は、このことを忘れてしまっていました。

飛行予定高度までの上昇や水平巡航飛行の間は、何も異常がありませんでした。その後、サンアントニオ空港への進入要領について確認し、降下・進入前点検を開始しました。ヘリコプターを長く操縦してきた私にとって、固定翼機の進入降下は、非常に忙しく感じられる操作です。このため、正確なコール(発唱確認)ができるように、事前の準備を欠かさないようにしていました。サンアントニオ空港に降下を要求したところ、進入管制官から、着陸優先順位の関係から、190ノット以上を維持して降下するように指示されました。

その後、13R滑走路に有視界着陸を許可され、進入の順番が回ってきたので、速度を落とすことになりました。進入のためのチェックリストの読み上げを開始した私は、「プロップ1900、フラップ・アプローチ、着陸前点検」と呼唱しました。訓練担当操縦士は、「プロップ19、フラップ…」と復唱しましたが、そこで止まってしまいました。フラップに故障が発生し、アプローチ(進入)・ポジションに切り替わらなかったのです。コックピット内を見回すと、フラップのサーキット・ブレーカーが飛び出していたので、押し込みました。しかし、訓練担当操縦士がアプローチ・ポジションに切り替えるとすぐに、また、サーキット・ブレーカーが飛び出してしまいました。その時、飛行を始めた時の匂いが何だったのかということと、フラップ・アップ状態のままで着陸しなければならない、ということが認識できました。

固定翼機の構造に詳しくない人のために説明すると、フラップとは、主翼後端の動く部分であり、それを伸ばすことにより、主翼の空力的形状を変化させ、より大きな揚力を発生させて、ゆっくりと飛ぶことができるようにするためのものです。C-12の場合、フラップ・アップのままだと、通常は100ノット(時速約185キロメートル)のところを約130ノット(時速約240キロメートル)で着陸しなければならなくなります。ただし、それは、滑走路の長さが十分であれば、それほど難しいことではありません。サンアントニオ空港の滑走路は、8,500フィート(約2590メートル)という十分な長さがありました。

レフト・ベース(滑走路を右に見ながら直交する進入経路)からファイナル(滑走路にまっすぐ進入する経路)に向かって、旋回し始めた時、私の頭の中では、そういった考えがぐるぐると回っていました。滑走路の方向に機首が向き始めると、速度を60ノット減じることに集中しました。パワー・レバーを一番手前まで引き、アイドルにしましたが、速度はまだ165ノットもありました。訓練担当操縦士は、もっと機速を落とす必要がある、と言いました。私の頭は、フル回転していました。すべてのパワーを切り、適切な迎え角を維持しているにもかかわらず、速度が落ちず、滑走路に向かって突っ込み続けていました。

その時、私と訓練担当操縦士は、ほぼ同時に気づきました。「降着装置が上がったままだ!」フラップが故障してから、チェックリストを確認するのを忘れてしまっていたのです。直ちにチェックリストの残りの項目を確認しました。その後は、フラップ・アップの音声警報がヘッドセットに鳴り響いていることを除き、通常どおりに着陸することができました。軽微な故障に気を取られたがために、「降着装置の出し忘れ」という固定翼機パイロットとしての大罪を犯してしまうところだったのです。

チェックリストは、機体状態の確認を怠らないためにあるのです。この経験から学んだことは、「通常どおりに進んでいない時こそ、チェックリストを活用することが重要である」ということです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    ありがちなことだと思います。