AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

シンチレーション(ビデオノイズ)の発生したNVGでのDVE飛行

匿名希望

任務

カリフォルニア州陸軍州兵のパイロットは、フォート・アーウィンのナショナル・トレーニング・センターで訓練中の部隊を支援することが少なくありません。ある年の訓練期間中にも、訓練中の特殊作戦部隊から航空支援の依頼を受けました。その支援は、演習場内の3つの場所に装備品、糧食および兵員を投入するという、一般的なものでした。支援先は特殊部隊グループだったので、その任務は、夜間に照明を最小限にして行い、行動を秘匿することが求められていました。

計画

任務が割り当てられた搭乗員たちは、飛行計画の作成を開始しました。必要とされる事前許可(prior permission required, PPR)の申請、地図の収集および更新、フォート・アーウィン航空運用規定(Aviation Procedures Guide)などの関連規定の確認、気象上情報の収集などを行い、計画を報告して承認を受けました。月の高さが地平線に近く、照度が11%しか得られないため、任務のリスクレベルは中程度と判断されました。低照度環境下での飛行がもたらす危険性について認識を統一し、必要に応じて照明を使用してリスクの軽減を図ることを申し合わせました。

実行

任務当日の夜、装備品および兵員を搭載した我々は、バーストウダゲット空港を離陸して、指定された降着地域(landing zones, LZ)に向かいました。フォート・アーウィンの空域に進入し、宿営地を通過すると、北東方向の最初のLZに進入を開始しました。照度が低いことは予想していましたが、月明かりがほとんどまたはまったくない状態での砂漠の暗さは予想以上でした。NVGのコントラストが低下し、シンチレーション(ビデオ・ノイズ)が増加しはじめ、照度が不足しているのが明らかでした。

最初のLZには、副操縦士が操縦して着陸する予定でした。その副操縦士は、まだ若いものの、自信にあふれた有能なパイロットであり、機長であった私は、一緒に任務を遂行することに何も不安をもっていませんでした。進入準備が完了すると、IRライトをオンにしました。しかし、IRサーチライトは、NVGのコントラストの改善やシンチレーションの低減にほとんど効果がありませんでした。副操縦士は、何も見えず、着陸に不安を感じると報告し、私に操縦を交代しました。一旦、着陸を復行した後、再度、着陸を試みました。今度は、未舗装の道路の上に着陸することにしました。シンチレーションやコントラストのため、大きな岩や凹凸などを回避できる自信がなかったからです。(高度約10フィートに到達するまで、地面は暗い点のかたまりにしか見えませんでした。)着陸に際しての砂塵の巻き上がりは、それほど多くありませんでした。

宿営地の近くにある2番めのLZは、比較的視界が良く、副操縦士が操縦して着陸しました。副操縦士は、次のLZへの飛行も問題ないと言いました。3番目のLZは、演習場の反対側のもっと暗い場所にありました。照度が不足するため、またもやシンチレーションが発生しはじめました。今度は、これまで私が経験したことのないレベルでした。(ちなみに、私はイラクでの飛行経験があります。)降下率および接近速度に問題はなく、着陸復行することも、最小限の速度で引き続き降下することも可能でした。

我々は、そのままの接近速度を維持しながら、着陸を継続しました。しかしながら、NVGのコントラストが不足し、シンチレーションが増加していたことに加えて、大量の砂塵が巻き上がったため、副操縦士は、コレクティブを過早に下げてしまいました。機体はやや激しく接地しました。それは、誰もが危険を感じるほどでした。装備品を卸下した我々は、基地に戻って念入りな飛行後点検を行い、無事に任務を完了しました。その後、我々はどうすべきだったのかを夜遅くまで話し合いました。

教訓

その夜の不安全の発生には、様々な原因がありましたが、最大の問題は、低照度下でのNVGの能力低下を把握できていなかったことでした。突然のコントラストの低下とシンチレーションの増加は、より高い照度が必要なことを示していました。また、低照度環境下での飛行に関する副操縦士の経験も、十分ではありませんでした。さらに、悪視程環境のため、すべての搭乗員は過度の緊張状態におかれていました。副操縦士は、コントラストが不足していたため、着陸に際し「機体を地上に着陸させること」しか考えられなくなっていた、と述べました。また、接近速度と対地高度が判断しづらくなっていた、とも述べました。

機長であった私には、すべての着陸を自分で行うという選択肢もありました。ただし、コントラストとシンチレーションの問題が生じていたのは、私も同じでした。もうひとつの(そしておそらく最良の)選択肢は、より照度の高い環境下に飛行できるように任務の実施時期を調整することでした。私は、砂塵や雪煙によるDVE環境下で飛行したことはありましたが、低照度環境下におけるNVGの能力低下によるDVEを経験したのは、その時が初めてでした。低照度環境においては、NVGの性能低下を予測し、DVEでの飛行に備える必要があります。他のDVEと同じく、あらかじめ必要な処置を講じておくことが重要なのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年09月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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3件のコメント

  1. 管理人 より:

    「scintillation」の訳語は、現役のころに聞いたことがある気がしたので、「シンチレーション」とそのままカタカナにしてみました。英語のサイトに「video noise」という説明があったので、付記しました。適切な訳語をご存じの方がいれば、教えて下さい。

    • Water より:

      いつも有用な資料の翻訳ありがとうございます。

      日本でのNVG実用上は「ノイズ」を使うことが多いです。または、「ちらつき」と表現する人もいるように思います。
      “Scintillation”は聞いたことがありませんでしたが、タイトルに使用されていることを鑑みると米陸軍では一般的な用語なのだと思いますので、無理に翻訳せず今回のように初出でビデオノイズと併記してカタカナを使用していただければ用語の理解にも繋がるかと思います。
      勉強になりました。

      • 管理人 より:

        コメントありがとうございました。
        「(前後関係で意味を推定することができない)タイトルに使用されている→米陸軍で一般的な用語」という考え方には、なるほどと思いました。
        タイトルにも(ビデオノイズ)を併記するようにしました。
        今後もアドバイスをよろしくお願いいたします。