FODとの戦い
著者注: 本記事は、一般に公開するため、作戦拠点(operating post, OP)の名称および搭乗員の名前を伏せています。本事案において再補給任務を実施した作戦拠点は、「ビッグアップル」と呼称することにします。そこは、高さ約4,000フィートの崖の上にありました。小規模な陸軍部隊が配置されていたその場所は、飛散しやすい物が散乱していることが問題になっていた場所でした。
その日の任務は、アフガニスタンのクナール渓谷において、夜間に行うスリングによる再補給任務でした。それは、我々チヌーク部隊にとって、週に3夜は行う典型的な任務のひとつでした。しかし、後ほど分かるように、そこで発生した事象は、典型的なものからほど遠いものでした。
我々の中隊長は、ビッグアップルに飛散しやすい物が存在することについて、飛行隊長に懸念を表明していました。しかし、任務を中断することなく状況を改善することは困難であり、「まだ起こっていない」ことへの対策は必要としない、と判断されてしまいました。それは、特に戦場での飛行任務においては誤った判断なのですが、搭乗員に注意喚起するだけで任務は継続されていました。事故発生の要因は、そこに潜んでいたのです。
経路の都合上、ビッグアップルへのスリングによる再補給は、その夜の飛行の最後に行うことになりました。それは、もうひとつの事故発生要因でした。機外搭載状態で狭い卸下地点(drop zone, DZ)に進入すると、砂塵やさまざまな異物が飛散するのが確認できました。搭乗員たちは、相互に注意を喚起し合いました。懸吊物を監視していた搭乗員は、卸下地点を確認すると、パイロットにゆっくりと前進するように指示しました。
作戦拠点の周りを囲む防護壁の上方を通過した瞬間、ドーンという大きな音が響き、機体全体が激しく揺れました。シートベルトを装着していなかった懸吊物監視要員は、キャビン内の側壁に打ち付けられました。機上整備員は、「撃たれた。下ろせ! 下ろせ!」と叫びました。しかし、崖の上に着陸するのは、簡単なことではありませんでした。
その時、操縦していたのは、機長でした。経験豊富な操縦士である機長は、この不測の事態に対し、適切に対応し、機体を180度旋回させながら降着地域に向かって横滑りさせました。その間に、副操縦士はAPUを始動し、エンジン緊急停止の準備を整えました。幸いなことに、航空機が緊急事態に陥ったことに気づいた地上部隊の兵士たちは、降着地域を開放してくれました。機体がドスンと着陸すると、直ちにエンジンを停止しました。
原因は、何だったのでしょうか? それは、地上の縛着されていなかった発電機の防水シートやその破片が機体のタンデム・ローター・システムに吸い込まれたのでした。搭乗員に危害が及ばなかったのは、奇跡的なことでした。幸運にもローター ブレードに損傷はなく、搭乗員たちは、機長の指示を受けた後、自力で機体から脱出することができました。
言うまでもなく、次の任務までの間に、当該地上部隊の管理下にあるビッグアップルなどの全作戦拠点から、飛散しやすい物が撤去されました。しかし、それはあまりにも遅すぎました。もっと早く対応できていれば、かねてから発生していたヒヤリハットが事故に発展して我々の部隊の信頼に影響を与えることを避けられたのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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