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陸軍航空の情報センター

予期せぬブラウンアウト状態からの脱出

匿名希望

執筆者注:2021年5月、私の所属する州兵部隊は、バージニア州フォート・ピケットで年次演習を実施していた。私に与えられた役割は、NVG(night vision goggle, 暗視眼鏡)を使用する、UH-60Mによる夜間の編隊空中機動任務の計画および実施であった。その任務では、ブラックストーン陸軍飛行場から離陸し、ファームビル地方空港(ブラックストーン陸軍飛行場の西約30海マイル)で海兵隊員をピックアップし、フォート・ピケット演習場に戻ってから、LZ(降着地域)ランドルフに偽降着を行った後、当該LZを離陸して、LZブリックで海兵隊員を卸下することになっていた。LZブリックへの降着時刻(time-on-target landing)は、2230に指定された。

機長になったばかりの私が長機に搭乗し、2機編隊で飛行任務を遂行していたところ、予期していなかった悪視程環境(degraded visual environment, DVE)に遭遇した。双方の機体は、まったく突然にブラウンアウト状態に陥ってしまったが、全ての搭乗員の適切な行動により、結果的には機体の損傷や人員の負傷を生じさせることなく、危機を脱することができた。私がこの経験から得た教訓が、現在の、そして将来のパイロットたちに、少しでも役立つことを願ってやまない。

空中機動任務を完璧に計画し、ブリーフィングを完了した私は、任務開始時刻を迎えました。ブラックストーン陸軍飛行場から北西に向かって離陸すると、計画どおりの経路を前進しはじめました。操縦を有能な副操縦士に任せた私は、飛行の管理と航法に神経を集中していました。PZ(pickup zone, 搭載地域、陸自のLAに相当)に到着し、海兵隊員を搭乗させました。離陸すると、高度1,000フィートまで上昇し、住宅地を通り過ぎるまで、その高度を維持しました。

私は、飛行管理装置(flight management system, FMS)を使用し、指定された降着時刻に合わせるように対地速度を計算し続けました。飛行の当初の段階では、計画していた対気速度よりも遅い対地速度が指示されていました。このことから、追い風の中を飛行しているのが、明らかでした。集中式飛行計器(primary flight display , PFD)に表示されている風速の値も、同じ状態を示していました。超低空飛行に移行すると、指示された対地速度が計画していた対気速度と一致するようになりました。追い風がおさまったと考えられました。

偽降着のためLZランドルフに進入した時点では、予定よりわずかに早く進捗していました。その後、LZブリックに向かいました。すべてが順調でした。副操縦士も私も、LZの予定着陸地点を確実に視認できていました。着陸直前に時計に目をやると、副操縦士の完璧な進入により、2230ちょうどに着陸できることが確実でした。

接地点の約15〜20フィート上空に達した時、クルー・チーフから「後方にダスト発生!」という報告がありました。それに返答するいとまもないうちに、機体は巨大な砂塵の雲に巻き込まれ、完全なブラウンアウト状態になってしまいました。副操縦士は、視覚的補助目標を喪失したため、視点を計器に移すと発唱しました。全員がほぼ同時に「ゴー・アラウンド!」、「ゴー・アラウンド!」、「ゴー・アラウンド!」と発唱しました。私は、直ちに副操縦士と共に操縦に加わり、一緒になってコレクティブを引き上げました。

砂塵の雲の中に小さな穴が見えました。機体は、横滑りしながら右にバンクしようとしているのが分かりました。上昇しながら、機体が水平になるようにサイクリックを左に補正しました。視覚的補助目標が得られるようになると、副操縦士は、自分が操縦を継続することと、上昇を続けることを発唱し、ゆっくりと右旋回を行いました。私は、搭乗員や後席に搭乗している海兵隊員達に異状がないかを確認しました。

クルー・チーフは、2番機の状況を確認し、それが我々と一緒にゴー・アラウンドしたことを報告してくれました。私は操縦を交代し、当初の着陸予定地点と直角に交わる草地に着陸することを決心しました。2番機の編隊指揮官は、空中指揮系を使って、「これから、どうするんだ?」と冷静な声で質問してきました。私はすぐに「LZの隣の芝生に着陸します。追従してください」と答えました。編隊指揮官は、私の返答を了解してくれました。LZを一周する間、着陸しようとしていた地点には、まだ巨大な砂塵の雲が残っていました。芝生に向かって進入すると、今度は無事に着陸できました。双方の機体から海兵隊員が降機し、編隊はブラックストーン陸軍飛行場に帰投しました。

この不安全を発生させた責任は、私にあると感じています。高度1,000フィートに存在していた追い風は、おさまったと思っていましたが、超低空飛行に移行した後にLZブリックに着陸する際にも、まだ残っていたのです。この追い風が、ダスト・ランディングにより発生した砂塵による影響を増大させ、ブラウンアウトが極めて速く広がったのでした。さらに、フォート・ピケット演習場の運用規則に関しても、誤った認識を持っていました。多くのパイロットがそうだったのですが、夜間の演習場では常にランディング・ライトを点灯しなければならないと思い込んでいたのです。実際には、点灯する必要があるのは、設定された飛行回廊内を飛行する場合だけでした。ランディング・ライトを点灯していたため、ブラウンアウトによる視界への影響が増大してしまったのでした。

飛行計画に関しても、問題がありました。ダスト・ランディングに近い状態になることを誰も予測できていなかったのです。我々は、その週の初めにも3機編隊での日中の飛行を実施し、LZブリックへの着陸を行っていました。その時は、まったく砂塵が巻きあがりませんでした。そのため、その着陸帯は舗装されていると思い込んでいたのです。その週の初めまでは雨が降り続いていたため、埃が完全に固まっていたのだと推定されます。しかし、その後の夜間任務の際には、気温がより高くなり、かつ空気が乾燥していたため、砂塵がほぐれてしまっていたのです。

この任務を安全に遂行できたのは、全搭乗員が自らの役割を訓練されたとおり迅速かつ円滑に果たすことができたからに他なりません。どちらの機体においても、パニックに陥った者は誰もいませんでした。この任務から得られた教訓のひとつは、任務の単一の側面(私の場合は指定された降着時刻)に集中しすぎてはならないということです。その降着時刻に神経を集中しすぎていた私は、着陸進入時の風向など、飛行の他の側面についての配慮が欠けてしまっていたのです。もうひとつの教訓は、起こりうるすべての不測事態に備えることは不可能ですが、それでも不測事態の発生を予期する必要があるということです。本事案の場合、ダスト・ランディングになることは、予期できませんでした。ただし、あらゆる危険状態を回避するために必要なクルー・コーディネーションについては、搭乗員全員が確立できていたのです。

パイロットは、状況の変化に応じ、自発的に計画から逸脱できなければなりません。私の部隊は、AAR(after-action review,検討会 )を実施し、この任務について徹底的に議論しました。副操縦士と私は、冗談めかしてそれを「トラウマ訓練」と呼んだくらいです。AARが終了した後、ある先輩パイロットが私を脇に呼んで、多くの助言と指導をしてくれました。その先輩の言葉で私の話を締めくくりたいと思います。要約すると、パイロットは、任務をいかに適切に計画しようとも、与えられた状況に対し柔軟に適応できなければならないということです。「A plan is nothing more than to deviate from.(計画は未定にして決定にあらず)」

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年02月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    この記事の本題ではないのですが、編隊飛行の際の役割分担にも参考になるところがあると思いました。
    私は整備員でしたので詳しくはないのですが、陸上自衛隊では、空中機動などで編隊飛行を行う際、長機に編隊長(飛行隊長など)が搭乗し、その副操縦士が長機の操縦と飛行管理の両方の役割を担っていました。当時は、飛行管理装置なんてありませんでしたので、長機の副操縦士は、計器盤にストップウォッチを張り付けて、ずいぶん苦労されていました。(今は、違うかもしれません。)
    これに対し、米陸軍の記事を読むと、通常、編隊長は2番機に搭乗して任務全般を指揮し、長機の機長が編隊の飛行管理を行い、その副操縦士が操縦を担当するというのが一般的なようです。
    演習中、車両部隊の指揮官として、先頭車両の助手席に乗って、大失敗(道を間違ったり、必要な統制を怠ったり)したことがあります。米軍の編隊飛行の役割分担を知っていれば、失敗せずに済んだかもしれません。

  2. 管理人 より:

    「A plan is nothing more than to deviate from.→計画は未定にして決定にあらず」は、我ながら名訳だと思っています。