AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

盲目状態での飛行

上級准尉4 ロジャー・ウィルソン
米陸軍飛行訓練分遣隊シルバーベル陸軍ヘリポート
アリゾナ州マラーナ

その不安全は、数年前、アリゾナ州マラーナのシルバーベル陸軍ヘリポートにある西部陸軍州兵航空訓練場でAH-64Aの教官パイロットをしていた時に起こりました。この不安全の経験を通じて、うまくいったことと、そうではなかったことがありました。

それは、夏のモンスーンの季節のことでした。私は、FLIR(forward looking infra red, 近距離監視装置)を使用した夜間飛行訓練の教官を務めていました。いつもどおりのブリーフィングが行われ、山岳地帯の近郊において、雷雨および風速20ノットの強風が予想されるという気象情報の提供を受けました。当該悪天候領域は、東から私たちに向かって移動していましたが、まだ30マイル離れていました。現時点では、オーバーキャスト、シーリング7,000フィートという、ごく通常の天候でした。

飛行前点検を異状なく終了し、私にとっての初めての学生と一緒に地上試運転を行い、離陸しました。当該学生は、TADS(Target Acquisition and Designation Sights, 目標捕捉・指示照準装置)を使用した飛行が初めてでした。その日の訓練では、訓練場内において、基本的なタスクを演練することになっていました。あい路を飛行して訓練上に向かい、他の機体に先立って訓練を開始しました。

ピカチョ訓練場の管制塔からは、風速5ノットでバリアブルという情報が提供されました。2回目の進入と着陸を行った後、学生から、FLIR画像が消失し、TADSの警告灯が点灯したという報告を受けました。私は、操縦を交代し、ダウンウインドから離脱して、飛行場への帰投を開始しました。飛行場の手前8マイルの地点で運航事務所に連絡したところ、気象情報が修正されたことを告げられました。塵雲および50ノット以上の風のため、飛行場の視程は4分の1マイルまで低下していました。

滑走路上で離陸準備中の別のAH-64からは、視程がゼロであるとの通報がありました。肉眼では飛行場の照明が見えなくなりましたが、FLIRでは塵雲の壁(ハブーブ)が近づいて来るのが見えました。私たちは、天候が良かったピカチョ訓練場まで戻ることにしました。私は、学生がGPSルートを反転させている間に、180度の方向転換を始めました。高度700 フィートを110ノットの速度で飛行していました。ハブーブに襲われたのは、その時でした。

私は、IMC(instrument meteorological condition, 計器気象状態)を宣言しました。まもなく、それまで経験したことのないようなタービュランス(乱気流)および下降気流に遭遇しました。前席に搭乗していた学生から、何をしたら良いかと聞かれた私は、最大上昇速度が得られるようにピッチ姿勢を調整し、最大利用可能トルクを引き出すので、対気速度および高度をコールアウトするように指示しました。機体は、信じられないほどの速度で降下し続けていました。ローター回転数が99%に低下するまでパワーを使っても、電波高度計は200フィート以下の注意領域まで下がりました。

対地高度110フィートまで降下したところでハブーブの上昇気流に遭遇し、数秒後には高度2,000 フィートの上空に到達しました。その後、ピカチョ訓練場に到着し、風が吹き始める直前に着陸することができました。風が弱まるまで30分間待機した後、エンジン停止手順を行いました。

私は、その前日に計器飛行の年次技量査定およびレディネス・チェックを受け、IIMC(予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)への対応を訓練したばかりでした。このことが、直ちに計器飛行に移行し、航空機の制御を維持できたことに役立ったのは間違いありません。この嵐により、州間高速道路10号線では300台の車両が玉突き事故を起こし、3人が死亡しました。

振り返ると、この経験からは、いくつかの教訓が得られたと思います。

うまくいかなかったこと

運航事務所が気象情報の修正を行ったのは、飛行場の気象状況がIMCになった後のことでした。この問題を是正するため、作戦規定の修正が行われました。支援担当の気象部隊は、気象警報を発令していませんでした。このため、運航事務所に嵐の接近を早期に通報できるように気象警報、監視および勧告の基準が変更されました。

うまくいったこと

搭乗員間の連携は良好でした。副操縦士は、飛行諸元のコールアウト、無線機器の操作、管制塔との通信を的確に実施してくれました。計器飛行条件下での飛行に関する検定を受検したばかりであったため、計器飛行へとすみやかに移行することができました。フード(視野制限装置)装着状態での技量査定飛行は、いつの日かあなたの命を救うことになるかもしれないのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2023年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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