整備手順を遵守せよ
毎日のように飛行任務を繰り返していると、自信過剰に陥りやすくなるものです。適切な整備手順を省略しようとする意図がなくとも、軽微な問題点や不具合の場合は、適切な工具、整備方法、人員、および記録を欠いた状態で修理を行ってしまいがちです。私自身も、そのようなことが行われるのを何度も目撃したことがありますが、幸いなことに事故や怪我につながったことはありません。しかし、それは正しいことではないのです。つい最近、昼間の訓練飛行を実施していた際に発生したのも、そういった事案でした。
搭乗員たちは、1000頃に離陸し、約1.5時間の飛行を行った後、燃料補給および昼食のため、ある飛行場に着陸しました。当該機には、2名のパイロットと1名のクルーチーフおよび1名の同乗者が搭乗していました。搭乗員たちは昼食から戻ると飛行間点検を実施しましたが、異状は発見されませんでした。
同乗者は、エンジン始動が完了するまで搭乗せずに待機していました。その同乗者が機体に向かったところ、No.1エンジンから液体が漏れていることに気付き、クルー・チーフに警告しました。クルー・チーフは(その臭いから)燃料であると判断し、パイロットにエンジン停止を指示しました。
エンジンが停止し、ローターの回転が止まると、搭乗員はエンジン・カウリングを開いて点検し、ドレイン・バルブの燃料配管のユニオンが緩んでいることを発見しました。しかし、クルー・チーフは機内に工具箱を搭載しておらず、また整備作業の完了を署名できる資格も有していませんでした。その時、機長が誰かマルチプライヤーを持っていないかと尋ねました。クルー・チーフがそれを持っていました。
機長は、工具箱や整備資格に関する状況を把握していたにもかかわらず、それを使ってユニオンを増し締めしてしまいました。搭乗員全員が、不具合が発見されたことや、そのような是正措置が行われたことを把握していましたが、手順が不適切であることを指摘する者はいませんでした。搭乗員たちは、漏れが止まったことを確認するため地上試運転を実施することにしました。機長は、エンジンのホット・スタートを回避するためにエンジン・ベントを実施した後、エンジン始動を問題なく完了しました。クルー・チーフは、漏れの発生していた部位の配管を目視検査し、漏れがないことを機長に報告しました。
機長がエンジンを停止すると、搭乗員たちは飛行前点検を再度実施し、飛行準備の完了を確認しました。搭乗員や同乗者の中に、工具、手順および記録が不適切だったことを問題視する者はいませんでした。搭乗員たちは、再度機体に乗り込むと、何事もなく所属駐屯地に帰投しました。
当該機が着陸すると、整備担当下士官にその出来事が報告されました。彼は、整備員に命じて不具合の発生した燃料配管を検査し、適切なトルクをかけさせました。(配管に漏れはありませんでしたが、不具合の発生は記録されないままでした。)当該整備員は、 配管に適切なトルクをかけた後、整備担当下士官に機体が飛行可能であることを報告しました。
数日後、その機体の副操縦士が指導パイロットとの何気ない会話の中でこの出来事に言及し、不具合を是正するために講じられた措置を説明しました。当然のことながら、搭乗員たちが行った手順はさまざまな理由から不適切であり、さらに詳しい調査が行われることになりました。この事案は関係者全員に周知され、その後の飛行運用において不具合が発生した場合には、定められた手順が確実かつ適切に実施されるようになりました。
このような事案は、思っている以上に頻繁に発生しているものです。搭乗員は、物事を簡単に済ませようとしたり、不必要に急いだり、過去に同じような経験があったりなどのさまざまな理由から、運用中に発生した不具合の重大性を過小に判断してしまいがちです。航空科隊員は、いかに軽微に思える不具合であっても、手順に従って処理しなければなりません。
航空機の整備手順全体(記録、訓練、人員、特技、工具)は、航空機が持つリスクを軽減するため、長年に渡って培われてきた教訓に基づいて案出され、訓練されてきた、実証済みのリスク対策なのです。いかなる理由があっても、不適切な手順で整備を行ってはなりません。それは、品質の低下を招き、人員や装備品を危険にさらすことになるのです。急ぐ必要はありません。時間に余裕を持って安全の確保に努めましょう!
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
個人的には、そもそもなぜ緩んだのか、のほうが重要な気がしますが...