AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

低酸素症の恐怖

高高度飛行による影響の蓄積

上級准尉3 マーク・S・ラウア
ボルテックス支隊第150航空連隊第1大隊C中隊
コソボ共和国 キャンプ・ボンドスチール

その任務は、落下傘救助員としての訓練および四角型パラシュートの評価を行う降下要員のため、「エレベーター」の役割を果たすというものでした。可能な限り多くの要員を機体に搭乗させ、1万3000フィートまで上昇し、飛び降ろさせるのです。その日のカリフォルニア州のハイデザートは、気温が低く、温度による出力の制約はありませんでした。それは、実に簡単な任務のはずでした。ある問題が生じるまでは...

飛行前ブリーフィングには、すべての降下要員と搭乗員が参加しました。ブリーフィングが終了し、降下要員がバスで降下地域に向かうと、機体の準備を開始しました。飛行前点検、エンジン始動および訓練地域への移動を問題なく実施し、現地において、最初の降下要員を搭乗させました。燃料が満タンに近く、キャビン一杯に人員を乗せていたため、上昇するのには時間がかかりました。その後の降下も同じように行うと、燃料が少なくなり、基地に戻らなければならなくなりました。燃料を補給し、食事をとった後、降下地点へと戻り、引き続き落下傘降下を支援しました。

同じ任務の繰り返しは、我々を退屈な気分にさせていました。降下要員を飛び降ろさせるため、水平飛行に移行しようとし、1万3000フィート到達を呼称した時、副操縦士が了解の返事をしながら、奇妙な笑い声をあげました。何がおかしいのかと思って副操縦士のほうを見ましたが、それは、決して面白いことではありませんでした。副操縦士は、唇を青くして、笑い顔を浮かべていました。低酸素症の症状であると思われました。そこで、自分の手袋を外して爪を確認してみると、こちらも青くなっていました。私が、この人員を降下させたら任務を一旦終了するぞ、と副操縦士に言うと、副操縦士は、笑いながら「なぜ?」と聞き返してきました。

降下要員が飛び降り終わると、私は操縦を交代して高度を下げ、地上勤務員に対し、飛行場に帰投して燃料の補給と搭乗員の交代を行うことを伝えました。それから、指揮所と連絡をとり、我々と交代する搭乗員を調整し、残りの2時間の飛行任務を実施してもらえるようにしました。着陸後、私は搭乗員たちとデブリーフィングを行い、全員に航空医官の診察を受けることを指示しました。

私は、航空医官に発生状況を説明し、診断を受けました。全員の健康状態に異常がないことが確認されると、部隊に戻りました。私は、指揮官および安全担当将校と高高度飛行における搭乗制限について話し合いました。そして、1日に高高度飛行に搭乗できるのは、2回の降下を伴う2時間半の飛行だけに限定されるべきであり、それ以上の飛行は別な搭乗員により行われるべきであると意見具申しました。

ほとんど技量を必要としない、単純な飛行に思えた任務が、致命的な結末を迎えるところでした。今回の事例で明らかなように、低酸素症の影響は蓄積するものなのです。機長は、すべての任務および飛行において、搭乗員に目を配ってその状況把握に努め、そこに潜む危険を把握しなければなりません。この飛行任務のリスク管理シートは、低リスクであることを示していました。高度1万フィート以上の飛行時間を最大30分以内に制限している限り、低酸素症のリスクはないと考えられていたのです。しかしながら、気温の低い日に、高高度における運用を繰り返したため、その影響が蓄積し、予想以上に高いリスクをもたらしたのでした。機体や搭乗員の犠牲を払うことなく、この教訓を学ぶことができたのは幸運でした。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年07月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

アクセス回数:2,717

コメント投稿フォーム

  入力したコメントの修正・削除が必要な場合は、<お問い合わせ>フォームからご連絡ください。

1件のコメント

  1. 管理人 より:

    低酸素症になった場合、気分障害により、笑ってしまう症状がでる場合もあるようです。https://www.skybrary.aero/index.php/Hypoxia_(OGHFA_BN)