AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

送電線への異常接近

匿名希望

当時、上級准尉3であった私は、UH-60L空中機動中隊の試験飛行操縦士として、東ヨーロッパのある国に派遣されていました。その中隊は、航空無事故の状態で、派遣期間の半ばを超えていました。まあ、少なくともそれまでは、ということですが...

その日、夜遅くにNVG(night vision goggle, 暗視眼鏡)資格を維持するための飛行を予定していた私は、午後の後段からの勤務になっていました。運航指揮所で任務・整備状況掲示板を確認し、その夜の飛行に必要な考慮事項を把握しました。特に大きな問題は見当たらなかったので、任務計画の作成を始めました。他の搭乗員たちは、別の夜間任務を計画していました。

しばらくして、ひとりの機長が、その夜に2機編隊で実施する空中機動について話しかけてきました。自分が任務に参加できなくなった場合、私に代わりを務めて欲しいというのです。私は、対応できると答えました。その飛行も資格維持のために有効だし、ずっとマシな飛行任務だと思ったからです。その機長は、そのときは頼むと言いました。しかし、その後は何も言ってこなかったので、私は自分の飛行任務の計画を続けていました。

その機長から空中機動任務に参加するように告げられたのは、夜遅くになってからでした。離陸時間が迫っていたので、大慌てで準備をしなければなりません。飛行前ブリーフィングは、変更された搭乗割に基づいて行われました。しかし、より詳細な内容を含んだ搭乗員ブリーフィングは、もともと予定されていた機長によりすでに終わっていました。私には、任務の詳細を理解し、そのスピードに追いつく時間がなかったのです。私が搭乗する機体の副操縦士は、簡単な任務だし、長機についていけばよいだけだと言いました。そのとおりだと思った私は、この状況に流されてゆきました。これが最初の間違いでした。

飛行前点検は、問題なく終了しました。最初の問題が生じたのは、地上試運転中のことでした。NVGサーチライトが約45度までしか展開できないのです。左右への回転や、オン-オフを繰り返しましたが、完全に繰り出すことはできませんでした。しかし、陸軍規則95-1に規定されているサーチライトの「運用可能状態」の意味について話し合った私と副操縦士は、任務遂行に必要な条件は満たされていると判断しました。これが2番目の間違いでした。

残りの地上試運転、無線チェックおよび搭乗者の乗機には、問題がありませんでした。22名の歩兵隊員たちを山岳地帯のある稜線に卸下する飛行任務が始まり、操縦かんを握った私は、闇夜の空に向かって飛び立ちました。ただし、経路や目的地については、何も分かっていませんでした。これが3番目の間違いでした。

山岳地帯に至るまでの飛行間には、何も起こりませんでした。私が操縦し、副操縦士が全体の状況を監視していました。私は、まだサーチライトをいじり続けていました。もう一回スイッチを押せば、引っかかったライトが解放され、照明が使えるようになるかもしれないと思ったからです。残念ながら、ライトは30〜40度しか下がらず、機首の前方をわずかに照らすことしかできませんでした。私は、無意識のうちに長機よりも高い高度を維持していました。長機よりも上空を飛行することで、飛行経路上の送電線を見過ごしていても衝突しないで済むと思ったからです。これが4番目の間違いでした。機内には更新されたハザードマップがあり、危険を回避するためには別なルートを飛行すべきであることが示されていたのに、それに気づいていなかったのです。

編隊は峡谷の中へと入り、対気指示速度約100ノットで飛行しました。約100〜200フィート下の10ローター離れたところに峡谷に沿って山地を上っていくの長機がはっきりと見えていました。その経路は、IR(赤外線)サーチライトによって照らし出されていました。さて、ここからがお楽しみの始まりです。

理由は覚えていませんが、前方を見ようとして、IRサーチライトのスイッチをもう一度押しました。驚いたことに、そこに見えたのは、風防の真正面に張り巡らされた3本の送電線でした。ICS(Intercommunication system, 内部通話装置)を通じて「ワイヤー!」と叫ぶと、反射的に対応を開始しました。コレクティブをいっぱいに上げ、サイクリックを後方に引き、衝撃に備えました。エンジンがうなりを上げながら反応しました。ローター回転数は100%を維持していましたが、もう間に合わないそうにありませんでした。半分居眠りをしていたであろう後席の搭乗者のことが心配になりました。ICSから私の叫び声が聞こえただけで、何が起こったのか分かっていないはずです。

真正面からの衝突は避けられたとしても、機体の尾部または尾脚に送電線に引っかかるのは間違いないと思っていました。しかし、その恐怖の数秒間は、何事もなく過ぎました。副操縦士は、身を縮めるようにしながら、何が起こったのかを聞いてきました。彼には、送電線が見えていなかったのです。飛行を続けながら、直前に起こった状況について長機と話し合いました。長機は、送電線に気づかないまま、その下を通り抜けていました。送電線を避けるために長機の上を飛行していたことが、自分自身の機体を危険にさらしてしまったのでした。

深呼吸をしてから任務を継続し、指定された降着地域で搭乗者を異常なく卸下しました。基地に帰投してエンジンを停止すると、不安全が発生した地域の地図を取り出しました。改めて長機が送電線の下を飛行したことが確認できました。さらに、私の機体の副操縦士や長機のハザードマップには、その送電線が明確に記載されていました。自信過剰および規律の欠如が「事象の連鎖」を生み出し、あと一歩のところで大惨事を引き起こすところだったのです。

結果的には、この不安全は事故にならずにすみました。ただし、それは我々の計画が適切だったからではありません。単に運が良かっただけなのです。サイコロを振って、当たりが出たに過ぎないのです。なぜ、衝突の寸前にサーチライトのスイッチを入れたのかは、天空の神のみぞ知るところです。言うまでもありませんが、それからは同じ過ちを決して繰り返さないように心がけています。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年01月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    「night vision goggle (NVG) currency mission」を「NVG(night vision goggle, 暗視眼鏡)資格を維持するための飛行」と訳しました。
    何か他の言い方があった気がするのですが、思い出せません。
    ご存じの方がいれば、教えてください。