AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

天候の急変

上級准尉3 ロ バート・キーズ
カンザス州陸軍州兵
カンザス州トピカ

飛行中に天候の急激な変化を経験したことのないパイロットは、ほとんどいないでしょう。その経験は、良くも悪くも、その後の飛行に何らかの影響を与えているはずです。私の場合は操縦課程において、視界ゼロの雲中飛行を経験しましたが、その時ほど隣の席の教官パイロットに感謝したことはありません。イラクで視界不良状態の中、患者構想任務を遂行したこともありました。しかし、五大湖周辺の気象予報官やパイロットたちにはよく知られている「湖水効果雪」という現象については、何も知りませんでした。

イラクから帰国して8か月が過ぎた頃、私の部隊は機体を1機ずつニューヨーク州のフォート・ドラムに移送していました。その日は、フォート・ドラムへの最終移送を行っており、そこではカンザス州に戻る前に1日間の休養日がもらえる予定でした。そこまでは何事もない順調な飛行でした。天候はすばらし く、不具合も発生せず、何のトラブルもなく任務を終了できると思っていました。

しかし、状況は大きく変化しようとしていました。

フォート・ドラムまで30マイルほどのオンタリオ湖南岸域を飛行中、視程が低下しはじめたことに気付 きました。それまで10マイル近か った視程が、あっという間に5マイルに縮まりました。フォート・ドラムの代替飛行場として計画していたウォータータウン空港の気象情報をチェックし、その悪天候がどこから来てどこへ向かっているのかを把握しようとしました。ウォータータウン空港とフォート・ドラム飛行場の両方から気象情報を入手し、悪天候域を回避しながら飛行を継続するつもりでした。しかし、情報が多ければ多いほど、私たちは混乱してしまいました。15マイルほどしか離れていない2つの飛行場のいずれからも、視程10マイルでノー・シーリングという情報がありました。

じ後の行動方針について話し合っている間に、視界とシーリングはますます悪化しました。速度を落とし、着氷しやすい環境を避けて機体に不具合が発生した場合の対応を容易にするためVFR(visual flight rule, 有 視界飛行方式)で雲の下を飛行し続けることに決心しました。フォート・ドラムのタワーと連絡をとり、現在の状況を通報し、最新の気象情報を確認しました。その回答は不可解なものでした。管制官は視界3マイル、シーリング1,500フィートだと言うのです。速度を上げると、何度も視界を失いそうになるという恐ろしい結果になりました。視界を保ち、航法を適切に行うためには、低高度をゆっくりと飛行するほかありませんでした。幸いなことに、タワーとの適切な連携(周囲に他のトラフィックもなかった)により、あと2マイルのところで飛行場を確認し、安全に着陸して無事に任務を完了することができました。

教訓事項

着陸後、地元のパイロットや飛行場勤務員との話から、湖の影響による気象現象について知ることができました。任務開始前に誰からもそれを説明してもらえなかった私たちは、何も知らないままそれに捕まってしまったのです。聞いたところによると、冬季間にオンタリオ湖の暖かい水面上を冷たい風が吹き抜けると、海岸線の一部に雨や霧が生じるとのことでした。事前に十分に計画を立て、最新の気象情報や現地情報を把握していたとしても、予期せぬ悪天候に見舞われる場合があります。さらに、地上観測員から提供される情報は上空の状況を正確に反映できてい ない場合があり、飛行を危険にさらす可能性があります。

予想外に急速に悪化する気象状況に遭遇した場合について、私がアドバイスできるのは、SOP(standard operating procedures, 作 戦規定)に従い、速度を落とし、適切なクルー・コーディネーションと危険見積を継続しつつ最善の行動方針を決定するということです。自分が下した決心に疑問を抱く人がいるかもしれません。別の方針もあったはずだと主張する人もいるかもしれません。しかし、地上で肘掛け椅子に腰掛けているのは、空中で危険に直面しながらコックピットに座っているよりもはるかに気楽なのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2023年10月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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