リペリングにおけるクルー・コーディネーションの重要性
UH-60ブラックホークのリペリング、斥候潜入/離脱システム(special patrol infiltration/exfiltration system, SPIES)およびファスト・ロープ潜入/離脱システム(fast rope insertion/extraction system, FRIES)を用いた作戦は、着陸が困難な地域で任務を遂行する地上部隊に大きな戦術的利点をもたらしている。しかしながら、これらの作戦は、危険を伴うものでもある。ここでは、その中のタスク2056「リペリング」に関し、そこに潜む危険性と、それを低減するために必要なクルー・コーディネーションについて考えてみたい。
航空機が潜入地点に接地できない状況においても、地上要員の投入を可能にするタスク2056「リペリング」が、そのような状況におけるいくつかの選択肢の中でも、最も頻度の高いものであることに異論はないであろう。このリペリングという手法は、ホバリングするヘリコプターから降下する隊員にとってだけではなく、搭乗員たちにとっても危険なものなのである。その理由は、カーゴ・ドアを開け放した状態で器材を使用しなければならないリペリングは、FOD(foreign object damege, 異物損傷)の可能性が高いからである。最大の脅威は、おそらく、リペリング・ロープそのものであろう。
UH-60の搭乗員訓練マニュアルによれば、降下員たちが安全に潜入ポイントに降り立ち、ロープの切り離しまたは機内への回収が完了したならば、搭乗整備員は、「ロープ・クリア」と発唱することになっている。潜入完了後の航空機の安全を確保するためには、ロープの固定と発唱が欠かせない。リペリング・ロープが機体からぶら下がったままの状態で飛行が再開されると、ロープが風にあおられ、メインローターやテール・ローターに巻き付いたり、エンジンに吸い込まれたりする危険性がある。これらは、いずれも致命的な事故につながる。
陸軍機の安全運航のためには、搭乗員間の連携が非常に重要である。それがなければ、必ず失敗すると言ってもよい。意思の疎通が不十分な場合は、悲惨な結果を生む可能性がある。経験上、このような事態は、リペリング・ロープの使用に際しても、十分に起こり得る。降下要員がまだ機体からぶら下がっているのに、クルー・チーフが「ロープ・クリア」と発唱してしまったら、どうなるであろうか? 操縦しているパイロットが「ロープ・クリア」の発唱を待たず、ロープが機内に確実に回収される前に飛行を再開してしまったら、どうなるであろうか? 重大事故の発生を防止するためには、我々搭乗員が、適時かつ適切に意思を疎通し合い、機体および任務の状況に関する情報を共有しなければならないのである。
航空科隊員が行うことは、本質的に危険なことばかりである。安全管理を適切にすることにより、事故発生につながる潜在的危険を軽減しなければならない。リペリングにおいては、それを可能な限り安全に行うための実行管理が重要である。それを実施している間の安全を確保するためには、クルー・コーディネーションを確立し、リペリング・ロープの状況および機体との位置関係に関する情報を共有することが欠かせないのである。陸軍機の任務遂行と安全運航を確実にするためには、あらゆる飛行において、効果的なクルー・コーディネーションの確保に努めなければならない。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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