AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

斜面着陸訓練中のスタビレーター損傷

上級准尉2 ジャスティス・スミス
第1歩兵師団第1戦闘航空旅団第3攻撃ヘリコプター大隊1中隊
カンサス州フォート・ライリー

「ゴー・アラウンド!」「ゴー・アラウンド!」「ゴー・アラウンド!」スタビレーターが地面に接触する前に、この言葉が発せられていれば、この事故は防げたはずでした。幸運だったのは、機体に軽微な損傷が生じただけで、搭乗員には負傷者がなかったことでした。これから紹介するのは、この事故の発生状況とそこから得られた教訓事項の概要です。

その日は、フォート・ライリーのほふく飛行訓練場において、超低空飛行、戦闘機動飛行、傾斜地操作、敵の攻撃に対する行動、および不整地への滑走着陸を行うことになっていました。私は、副操縦士として、機長の指揮を受けて行動していました。その機長と一緒に飛行するのは初めてのことだったので、すこし緊張していました。

その日の機付長は、訓練教官でもあるベテランの整備員と課程を卒業したばかりの新人整備員の2名の組み合わせでした。搭乗員ブリーフィングを行ったのち、飛行前点検を実施して機体に異状のないことを確認しました。離陸して訓練場に向かい始めた時、閉鎖されたドアにカーゴ・ストラップが挟まってのを機付長が見つけました。機体を一旦着陸させた機長は、機付長にストラップを固定し直させました。私は、その着陸を行う機長の操作が荒いと思いましたが、そのことを口にすることはありませんでした。これが、その後に行われる不適切なクルーコーディネーションの最初の兆候でした。

再び離陸すると訓練飛行を再開し、傾斜地着陸および滑走着陸の演練を行いました。事故直前の進入までは、順調でした。そして、右側の降着装置を山側にした斜面着陸を開始しました。右席には私が座っており、操縦を行っている機長は左席に座っていました。機長は、着陸前チェックが完了しないうちに、進入を開始してしまいました。速度が高すぎ、かつ、降下角が大きすぎると思ったとたんに、「ドン」という音がしました。

その時、機付長が発したのは、定められた用語である「ゴーアラウンド」ではなく、「テール、テール、テール!」という言葉でした。スタビライザーの右端が、斜面の中腹に2回にわたって衝突しました。マスター・コーション・ライトをリセットすると、「スタビレーター・アンロック」の注意灯が点灯していました。機体を操縦していた機長は、適地を見つけて着陸し、エンジンを停止して損傷状況を確認しました。エンジン停止後、運航指揮所に連絡し、不測事態対処計画の発動を依頼しました。運航指揮所は事故の発生に適切に対応し、必要な人員の現地への派遣を速やかに指示してくれました。

教訓事項

事故発生時の着陸における操縦は、山側の右席に座っていた私が行うべきでした。そうすれば、障害物の確認がもっと容易だったと考えられます。また、私は、飛行の早い段階で、機長の操縦が荒いことについて何か言うべきでした。そうすれば、そのような急激な操作が不要であることを機長に理解してもらえたはずでした。さらに、不測事態対処計画の重要性を改めて認識するとともに、そのための予行をもっと増加する必要があると感じました。

クルー・コーディネーションは、陸軍航空に欠かせない重要な要素です。にもかかわらず、見過ごされてしまっている場合が多いと感じます。適切な用語の使用や、明確な報告の実施は、事故の発生を大きく左右します。今回の事故でも、「ゴーアラウンド」という言葉が聞こえていたならば、何をすべきかをもっと明確に把握できたかもしれません。その代わりに聞こえたのは、「テール」という言葉でした。その言葉は多くのことを連想させるものであり、機体の降着装置以外の部分が地面に接触しようとしていることを知らせるには不適当でした。

降着地域(landing zone, LZ)を事前に偵察し、斜面の状態を良く確認しておくことも、この事故の回避に効果があった可能性があります。低速でフライバイを行い、降着地域を事前に確認していれば、他のもっと適切な場所で訓練を行っていたかもしれません。訓練においては、わざわざ危険な場所を選ぶ必要などないのですから。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年02月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

アクセス回数:1,525

管理人 へ返信する コメントをキャンセル

  入力したコメントの修正・削除が必要な場合は、<お問い合わせ>フォームからご連絡ください。

3件のコメント

  1. 管理人 より:

    スタビレーターが折りたためるようになっているので、機種はUH-60Mですね。ちなみに、スタビレーターに空いている穴は、折り畳みの際に用いる取っ手のようです。

    https://www.sikorskyarchives.com

  2. 管理人 より:

    UH-60A/Lのスタビレーターには、UH-60Mのような直線翼ではなく、テーパー翼が使われています。斜面着陸においては、その方がクリアランスを確保できますね。

  3. 管理人 より:

    この事故の状況で機付長が「ゴーアラウンド」をかけるのは...難しいと思います。