トラブル発生時の対応
飛行には、常にある程度のリスクが伴うものであり、我々、プロのパイロットは、そのリスクを軽減するために最大限の努力をしています。しかし、不測の事態が発生することを完全に避けることはできません。
2015年5月、私は、アフガニスタンで勤務していました。アフガニスタンに派遣されるのは2回目でしたが、固定翼機のパイロットとしてバグラム飛行場に派遣されたのは初めてのことでした。タスクフォース・オーディンのGRCS(Guardrail Common Sensor, ガードレイル共通センサー、軍団レベルの空中通信情報収集システム)分隊に配置された私の任務は、航空偵察を行うことでした。私の分隊に常勤しているパイロットは8名しかいなかったので、お互いの習慣は、良いことも悪いこともよくわかり合っていたつもりでした。
ある朝、副操縦士と私は、いつものように飛行前ブリーフィングを終え、気象情報を入手してから航空機に向かい、飛行前点検を始めました。機長になったばかりだった私は、細部まで自分で指示しながら点検を行いました。飛行前点検が終わると、チェックリストに基づき、エンジン始動を開始しました。IEW(inteligence and electric warfare, 情報及び電子戦)部署との通信チェックを行い、問題がないことを確認すると地上滑走の準備が整いました。バグラム・グランドに通報したのち、副操縦士に地上滑走を行わせながら、離陸前チェックを行いました。何も問題がなかったので、周波数をタワーに切り換え、離陸を要求しました。バグラム・タワーは、離陸を許可しました。
副操縦士が操縦し、私はいつも通りのコールアウトを行いました。「ノーマル」「V1、ローテート」 副操縦士が操縦桿を引き始めると、機首が上がりはじめ、機体は上昇しはじめました。引き続きコールアウトを行いながら、特に問題なく500フィートを通過しました。
ところが、私が上昇チェックリストを読み始めた途端、副操縦士が「ウワッ!ギャー」と叫んだのです。私は、すぐにチェックリストを下に置き、マスター・ワーニング・パネルを見ながら「どうした!?」と聞きました。点灯している注意灯は、コーション・アドバイザリ表示パネルの「キャビン・ドア」だけでした。
上昇を続けながら、機体に不具合が発生したため、1万フィート以下で現在位置をホールドすることをバグラム・アプローチに要求しました。バグラム・アプローチの対応は迅速で、非常事態宣言の必要性を確認してきました。私は、その必要はないと答えました。それを決心するには、少し時間が必要でした。
バグラム・アプローチとの連絡を終えた後、副操縦士に、もうあんな風に驚かさないように指導しました。離陸したとたんに「ウワッ!ギャー」なんて叫び声を聞いたら、誰だって何か大変なことが起こったと思ってしまいます。離陸直後に「キャビン・ドア」の注意灯が点灯するのは、パニックになるような状況ではないのです。
「キャビン・ドア」の注意灯は、しばらくの間、点滅を繰り返していたので、飛行場に戻って整備員に点検させることにしました。離陸してから着陸するまでの飛行時間は、20分位でした。駐機場にタクシー・バックさせると整備員が乗り込んできて、キャビン・ドアのマイクロ・スイッチを点検してくれました。再離陸に必要な時間を節約するため、エンジンは、シャット・ダウンしませんでした。
整備が完了し、再び離陸して、飛行を再開すると、我々は、さっき起こった状況について話し合っていました。すると、話の途中に部隊周波数で隊長が割り込んできました。着陸時の残燃料量について質問されたのです。私たちは、「やってしまった」という気持ちに打ちのめされながら、すぐに計算を始めました。得られた数値は、わずかに最大着陸重量を下回っていました。隊長に報告すると、安心したようではあったものの、帰投後に整備員に通報するように指示されました。着陸後、整備員によるハード・ランディング時の点検が行われました。幸いなことに、航空機には何の問題もありませんでした。
その点検は、それほど時間のかかるものではありませんでしたが、やらなくて済んだ作業でした。それからは、中隊の離陸前ブリーフィング時に「緊急事態以外の理由で離陸後飛行場に引き返す場合の燃料の消費」に関する注意喚起が行われるようになりました。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:4,051
コメント投稿フォーム
2件のコメント
良くありがちなことだと思います。
写真(原文の写真をそのまま使用しています)にはUH-60が使われていますが、内容は固定翼機での事象です。