AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

自信過剰に起因するブレード接触事故

うぬぼれが技量を超えたとき

上級准尉5 ジェフ・ダッチャーム
第991航空部隊コマンド
ネバダ州リノ ステッド航空基地

When Ego Outflies Ability

パイロット、特にヘリコプターのパイロットは、自分たちがうぬぼれに陥りやすい人種であることを認識する必要があります。命に従い、危険かつ複雑な任務を完遂しなければならないパイロットにA型性格(競争的でいつも急いでおり、怒りやすく攻撃的で過剰に活動的な性格)の者が多いことは、周知の事実です。しかしながら、そのうぬぼれや、自分にはそんなことは起こらないという気持ちが原因が事故につながることもあるのです。

当時、1,000飛行時間を超えたばかりの上級准尉2の機長操縦士であった私は、2機編隊でジョージア州フォート・ベニングからアーカンソー州のフォート・チャフィーまで移動し、地上部隊の訓練を支援することになっていました。移動のための飛行を問題なく終了し、飛行場に着陸したのは、前日のことでした。次の日、現地の航空幕僚からブリーフィングを受け、地図を受領するとともに、SOP(standard operating procedure, 作戦規定)および飛行要領について説明を受けました。長機の機長として搭乗していた私は、離陸すると、現地の地形・地物に習熟するための偵察飛行を開始しました。

私と同じように若い上級准尉2であった副操縦士は、その前の年にもフォート・チャフィーに派遣され、同じ訓練を支援したことがありました。その時、戦車道に沿って飛行してる最中に、木製の電柱にブレードを接触させるという事故を発生させていたのです。私は、その副操縦士を気の毒だと思いました。立派な人物であり、優秀なパイロットである彼は、ただ単に運が悪かっただけだと考えていたからです。当時、私たちの部隊では、過去1年半の間に3件のブレード接触事故が発生していました。

そういった状況ではあったものの、その日の飛行は、すべてが順調に進んでいました。防御陣地の外周を周回飛行し、部隊の全般配置を確認すると、細部の偵察を開始しました。1時間半ほど飛行すると、私は飛行経路を指示するのに飽きてきました。自分で操縦したいと思った私は、副操縦士に地図を渡すと、自ら操縦桿を握りました。

森の中の戦車道の上空を飛行しながら、「熟練」したパイロットである私は、NOE(nap-of-the-earth, ほふく飛行)を始めました。陸軍は、私たちにどういう教育をしているでしょうか? 飛行はすべてを訓練だと思ってやれ!と教育していませんか? だから、私は、その時も、少しだけ無理な速度でNOEを行ったのです。試験飛行操縦士が機長を務める2番機は、私の後方を続行していましたが、賢明なその機長は、私と一緒にNOEを行うようなことはせず、私の後方を少し離れて続行していました。その試験飛行操縦士からは、無線で「おいおい、木にローターをぶつけるなよ」というようなことを言われました。(実際の言葉は、もう少し下品だったかも知れません。)

試験飛行操縦士とその会話を行った直後、副操縦士が、自分がブレード衝突事故を発生させたときと同じ経路を飛行していると思う、と教えてくれました。心配になったかって? とんでもない! 私は、自分が副操縦士よりも優秀なパイロットだと信じていたのです。

それがどんな結果を招いたか、すでにお分かりでしょう。丘を駆け上ると、戦車道が左にカーブしていました。当然、それに沿って左に旋回し始めました。その時、前の年に副操縦士が衝突したのと同じ木製の電柱に気づくのが遅れてしまいました。かなり速い速度で飛行していましたが、何とかポールを避けることができました。しかし、戦車道の両脇にあった森に近づきすぎてしまい、ローター・ディスクを左側の林の中に3フィートほど突っ込んでしまったのです。

ローター先端のチップ・キャップが吹っ飛んで、ローターのバランスが完全に外れた状態で飛行した経験がありますか? 幸運なことに、何とか機体を制御できた私は、着陸適地を探し始めました。残念ながら、十分な地積を有する場所は、約7キロメートル離れた飛行場しかありませんでした。2番機の試験飛行操縦士は、負傷者がいないことを確認すると、すぐ後方を続行しながら機体の状態を確認してくれました。

今まで経験したことないような激しい振動に襲われながら飛行し、着陸してエンジンを停止しました。駆け寄って来てくれた試験飛行操縦士は、一言も発しませんでした。想像していただけると思いますが、ただ、あきれた表情をしていました。私の心の中には、罪悪感、恥ずかしさ、当惑、恐怖などの様々な感情が渦巻いていました。中でも最悪だったのは、自分自身だけではなく、他の搭乗者も殺してしまうところだったという後悔の念にさいなまれたことでした。この事故の原因は、自分自身のうぬぼれ以外の何物でもなかったのです。

事故の発生を指揮官に伝えるための電話をすることは、自分の人生の中で最も恐ろしい経験でした。しかし、ありがたいことに、当時の指揮官は、自分がこれまで仕えた中で最も優れた人格者でした。もちろん、私は、吹き飛ばしてしまったチップ・キャップを試験飛行操縦士が交換するのを手伝わなければならなかっただけではなく、機長の資格を失い、中隊の訓練担当操縦士の厳しい査定を受けなければなりませんでした。プライドがズタズタになりましたが、長い目で見れば、それは自分にとっていいことだったのかも知れません。しかしながら、皆さんには、私の失敗を繰り返してほしくありません。うぬぼれが技量を超えるようなことがあってはならないのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年01月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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3件のコメント

  1. 管理人 より:

    「うぬぼれ」...自分も気を付けなければなりません。

  2. 次郎 より:

    自惚れは戒めるべきですが、それよりもっと大切な事は、命がけで危険を回避する訓練をしているかどうかです。ローターブレードの長さを周辺の物体との距離を自らの目でしっかり確認できる訓練です。昼夜運行をする人にとって、眼の能力には限界がありますが、訓練をして危険度を認識している人とソウでない人では大きな違いがあります。これは自惚れと言うことではなく、未熟なままの運用と言うことでしょう。かつては、ローターの先端に接触しても問題ない小さな木の枝などを使って、人間の眼を鍛えたものでした。そういうことをすると前時代的だという人もいますが、レーザー測距の能力も近すぎて無理です。人の眼に頼らざるを得ないのに、十分な訓練を行わせないことの方が問題なのです。軽易に自惚れ・傲慢という表現を使われたくない者の一人です。