AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

とんでもない時にとんでもないスイッチを

機体のスイッチ操作に習熟しよう

シェーン・ブーチャー

海外派遣から帰った兵士からは、もう少しで死ぬところだったり、目前で仲間が死んだりした体験を聞くことが多くあります。多くの問題が発生する戦場においては、高度な状況判断を継続して行う必要があります。この状態が長く続くと、心身に慢性的な疲労が蓄積します。この疲労は、敵や環境がもたらす危険と相まって、思わぬ惨事を引き起こす可能性があるのです。

私の所属していた飛行隊は、12ヶ月の派遣期間の4ヶ月目を迎えており、非常に忙しい日々を送っていました。搭乗員の飛行時間が定められた最大許容飛行時間に達することも、珍しいことではありませんでした。昼間に飛行を開始し、夜間まで続く場合も多くありました。夜間のNVG飛行では、夜間飛行システムに特有の視界の制約や錯覚のため、高いレベルの警戒意識を継続しなければなりませんでした。

これから紹介するのは、イラクの奥深くで起こった忘れがたい出来事です。我々は、丸1日かかったその日の飛行を終えようとしており、所属する前方運用基地に戻る前の最後の降着地域に向かっていました。その降着地域は、夜間、暗くて埃が発生しやすいことで有名でした。管制塔から着陸許可が得られると、降着地域と思われる場所に向かって進入を開始しました。月の照度がゼロであったため、着陸点をNVGで確認することに集中していました。

地上約20フィートで埃が周囲に舞い上がり始め、進入していた降着地域を見失ってしましました。操縦していた機長は、機内通話装置でゴーアラウンドを宣言し、パワーレバーを引いて、埃の圏外に向けて上昇し始めました。上昇して埃雲から脱出すると、クルーチーフから、我々が進入しようとしていたのは、降着地域に並行して設置されている無人航空機システム用の滑走路であったという報告がありました。無人航空機用の降着地域は、ヘリコプターの重量に耐えられるような構造になっていません。もし、損傷させてしまったら、無人航空機が使用できない状態になった可能性がありました。

もう一度、場周経路に入った我々は、管制塔に再進入の許可を求めました。再進入を許可され、降下を開始しました。ショート・ファイナルにおいて、機長からヒーターをOFFにするように指示されました。状況が緊迫し、疲労や環境条件の影響もあって、コックピットは、非常に暑く、不快な状態になっていました。

ヒーター・スイッチは、二人のパイロットの間の頭上にある、アッパー・コンソールにあります。一度、着陸を復行していることから、機外への注意をそらさないようにしながら、ヒーター・スイッチだと思ったスイッチに手を伸ばし、OFFにしました。何も起こりませんでした。ヒーターは、作動を続けていました。間違ってヒーター・スイッチの隣りにあるベント・ブロワーのスイッチをOFFにしてしまったと思った私は、さっきOFFにしたスイッチの隣りにあるスイッチをOFFにしました。すると、コックピットがブラックアウトになってしまったのです!

機体は振動し始め、ヘルメットの中にはビープ音が響き渡りました。機長は、機体を安全に着陸させました。幸運なことに、私が間違ってメイン・ジェネレーターのスイッチを両方ともOFFにした時、機体は既に降着地域の10フィート上空に到達していたのです。

最初にOFFにしたスイッチは、No.1ジェネレーターのスイッチだったのです。そのときには、もう一方のジェネレーターが負荷を受け持つので、何も起こりませんでした。2番目にOFFにしたスイッチは、No.2ジェネレーターのスイッチでした。そのため、すべての灯火が消え、コックピットがブラックアウトになったのです。ビープ音は、電力が喪失し、無線機が作動しなくなったことを知らせるものでした。ジェネレーター・スイッチは、ヒーターおよびベント・ブロワー・スイッチから数インチ離れたところにありますが、形状や大きさは同じです。

死の一歩手前の経験をした我々は、地上に着陸した後も、今にも心臓が飛び出しそうでした。機長は、両方のジェネレーター・スイッチに手を伸ばしてONに戻し、機体の電力を回復させました。そして、落ち着きを保ちながら、NVG飛行中は、どんなスイッチをONにしたりOFFにする場合でも、よく確認する必要があると注意してくれました。

それから数年たった今、機長になった私は、この経験を若いパイロットの指導に活かしています。どんなに疲れていても、高い緊張が必要な状況では、落ち着きを保つことが重要なのです。たとえ暗闇でも、自分の機体を操作できるように訓練しておくことが重要です。若いパイロットたちが、私の過ちから学ぶことで、私と同じ失敗を繰り返さないですむことを願っています。

                               

出典:Risk Managemen, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

アクセス回数:2,201

コメント投稿フォーム

  入力したコメントの修正・削除が必要な場合は、<お問い合わせ>フォームからご連絡ください。