アメリカ陸軍のヘリにインディアンの名前が付けられている理由
良く知られているとおり、アパッチ、ブラックホーク、チヌークなど、アメリカ陸軍のヘリコプターには、その名前の付け方に決まりがある。その主要なものには、すべて、インディアンの部族または人物にちなんだ名前が付けられている。
それがなぜなのか、考えたことがあるだろうか?
アメリカ軍とインディアンとの関りには、長い歴史がある。両者は、ヨーロッパ人がアメリカに定住し始めた頃から20世紀の初頭まで、インディアン戦争と呼ばれる戦いを断続的に続けていた。その一方で、インディアンたちは、200年以上にわたって、アメリカ軍で最も勇敢な兵士として活躍している。その間にアメリカで最高の勲章である名誉勲章を受賞したインディアンは、32名にのぼる。
ヘリコプターにインディアンにちなんだ名前を付けるという慣習は、かつては、正式な規則に定められていた。そして、それが廃止された以降も、そのまま引き継がれてきたのであった。
良く知られている陸軍ヘリの名称には、次のようなものがある。
- アパッチ:攻撃ヘリコプターAH-64D/E
ブラックホーク:多用途ヘリコプターUH/HH-60
シャイアン:攻撃ヘリコプターAH-56
コマンチ:偵察攻撃ヘリコプターRAH-66
ラコタ:軽多用途ヘリコプターUH-72A
アメリカ陸軍のヘリコプターが、インディアンにちなんで名付けられるようになったのは、なぜであろうか?
ある陸軍博物館の関係者によると、この命名規則の歴史は、陸軍から空軍が独立し、ハミルトン・ハウズ陸軍大将が陸軍航空での勤務を開始した1947年までさかのぼる。ハウズ大将は、陸軍機の運用に必要な教義や、地上部隊を支援する手法を検討し、それらを確立しようとしていた。
そんな中、ハウズ大将は、陸軍最初の量産ヘリが「ホバーフライ(ハナアブ)」や「ドラゴンフライ(トンボ)」と呼ばれていることを適切に思わなかった。このため、通達を発簡して、ヘリコプターにその能力にちなんだ名称を付けるように指示したのである。「高速かつ機敏なヘリコプターは、インディアン戦争中、インディアンの部族がグレートプレーンズで見せた戦い方と同じように、敵の側面を攻撃し、直ちに離脱することができる兵器なのである」とハウズ大将は述べた。
その後導入された3種類目の量産ヘリは、1970年代のアメリカ映画「M★A★S★H マッシュ」で一躍有名になったH-13であった。ハウズ大将は、ブラックヒルズ戦争で陸軍兵士たちと戦い、リトルビッグホーンの戦いで第7騎兵連隊を打ち破ったインディアンの部族にちなみ、その機体に「スー」という名前を与えた。このことが、1969年に陸軍規則70-28が制定されるきっかけになったと考えられる。
陸軍規則70-28には、主要な装備品の命名に関する基準が次のとおり規定されていた。
装備品の命名にあたっては、次の事項に着意するものとされた。
- 品位を損なわない範囲で、機知に富んた名称であること
当該装備品の性能を積極的にアピールするものであること
機動性、敏捷性、柔軟性、火力特性、耐久性など、当該装備品の特性を反映したものであること
製造元や製造方法ではなく、戦術的特性に基づいたものであること
人名を用いる場合は、以上述べた基準を満たしたものであること
また、陸軍の航空機に関しては、「インディアンの用語、またはインディアンの部族・酋長の名前」を含めることとし、その名前の候補は、インディアン事務局から提案を受けるものとされた。
さらに、航空機以外の装備品については、次のように定められた。
- 戦車は、ウィリアム・テカムセ・シャーマン将軍のようなアメリカの将軍にちなんで命名する。
- 歩兵兵器は、ダニエル・ブーンやデイヴィッド・クロケットのような著名なアメリカ開拓者の名前をもって命名する。
- 強襲兵器は、コブラやサソリのような恐ろしい爬虫類や昆虫の名前をもって命名する。
この陸軍規則70-28は、その後廃止され、具体的な基準を含まない方針的事項に取って代わられたものの、そこに示されていた基準は、慣習として現在まで受け継がれている。例えば、2012年に陸軍に練習ヘリとして導入されたUH-72Aは、ノースダコタ州とサウスダコタ州にまたがる「偉大なるスーの国」を構成したラコタ族にちなんで「ラコタ」と名付けられた。
2012年6月10日、サウス・ダコタ陸軍州兵に配備された2機の新しいUH-72Aラコタは、ノース・ダコタ州のスタンディング・ロック・インディアン保留地で行われた伝統的な式典において、ラコタの長老たちからの祝福を受けた。このような儀式は、過去数十年の間、たびたび行われてきている。
アメリカ陸軍のヘリコプターの名前には、インディアンの精神や自信、機動力、忍耐力、そして戦闘力にちなんだ思いが込められているのである。
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3件のコメント
日本も国産の装備品にアイヌに関わる名前を付けるのは、どうでしょうか?
アイヌの歴史に詳しくないので、適切かどうか分かりませんが、「シャクシャイン」とか、「コシャマイン」とか...
カッコいいし、「ウポポイ」と同じように、「アイヌ文化の復興・創造・発展」に一役買えるのではないかと思います。
アイヌ運動の後方には半島系の団体や左翼系が関わって、本当のアイヌの歴史が歪められているので要注意です
コメントありがとうございます。
そうなんですね。