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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧-H-47パワー・マネジメントの不適切による事故

夜間の低照度環境下での緊急ヘリボンを実施中、操縦していた機長は、低トルクかつピッチ過大の地面効果外ホバリング状態に陥ってしまった。機体は急降下し、機首上げ姿勢で右に横転しながら地面に激突した。衝撃により、搭乗員が負傷し、機体に重大な損傷が生じた。

飛行の経緯

当該機は、特殊作戦部隊を2カ所の降着地域に投入する任務を与えられ、アフタニスタンのある地点から離陸した。2343、最初の部隊の投入を異状なく完了し、その後、2番目の部隊の投入も異状なく完了した。当該機は、燃料補給後、予定どおり0330に最初の部隊を回収すべく、準備を開始した。予定どおり発進点に到着したものの、航空援護部隊が攻撃開始時刻に間に合わなかったことから、計画に遅れが生じた。その後、AC-130の支援を受けることにより、問題は解消された。0358、回収機のうちの1機が搭載地域の約1マイル(約1.852キロメートル)手前の地点に墜落し、機体の右側面が損傷し、後部パイロンが破断した。搭乗員は、軽傷を負った。

搭乗員の練度

機長の総飛行時間は639時間、当該機種での飛行時間は555時間であった。副操縦士の総飛行時間は2,080時間、当該機種での飛行時間は1,989時間であった。

考 察

本事故の原因は、人的ミスであった。夜間の低照度環境下での緊急ヘリボンを実施中、2機編隊の僚機であった当該CH-47Fの搭乗員は、適切な見張りを継続できていなかった。空中部隊指揮官を兼務していた機長は、長機と搭載地域での作戦行動に意識を集中しすぎてしまった。このことは、搭乗員訓練マニュアルのタスク1058「有視界気象状態における進入」に記載されている事項に違反する状態であった。この結果、操縦していた機長は、機体を低トルクかつピッチ過大の地面効果外ホバリング状態に陥らせてしまった。機体は急降下し、機首上げ姿勢で右に横転しながら地面に激突した。衝撃により、搭乗員は軽傷を負い、機体の右側面が損傷し、後部パイロンが破断した。

この人的ミスは、操縦しているパイロットが、長機や搭載地域周辺での作戦行動に気を取られたことにより生じた。機長は、機体の出力と姿勢を正確に認識できなくなり、機体は急激に高度を失い、地面に激突してしまった。本事故の原因は、機長個人の人的ミスにあったのは間違いないが、クルー・コーディネーションの不適切も要因のひとつであったことを認識しなければならない。長期間にわたる派遣において、第4四半期の「暑い」月を乗り越えるためには(訳者注:米国の会計年度の開始は10月、終了は9月)、クルー・コーディネーションを適切にして、相互確認および注意喚起を行い、機体の状況と運用制限を正確に把握することが必要である。長期派遣がもたらす疲労は、すべての搭乗員に少なからず影響を及ぼしている。そのような環境の中、航空事故の発生を防止するためには、クルー・コーディネーションの強化が不可欠なのである。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年07月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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3件のコメント

  1. 管理人 より:

    添付されている写真が不鮮明なのは、本事故が作戦中に発生したものだからかもしれません。

  2. 管理人 より:

    「hasty air assault」を「緊急ヘリボン」と訳してみました。
    現役の頃、確かそんな風に呼んでいた記憶があります。

    ちなみに「ヘリボン」は英語(heliborne)ですが、アメリカ陸軍の兵士には、「air assault」と言わないと(少なくとも正確には)伝わりません。
    通じなくて、苦労したことがあります(相手は、航空科以外の若手将校でした)。

  3. 管理人 より:

    表題の「パワーマネジメント」には、原文の「Power Management」をそのまま使いました。
    本事故の原因が「パワーマネジメントだった」とは、本文中に明確には書かれていないので違和感がありまが、そのままにしてあります。