砕氷船
機長と私は、韓国のハンフリーズ基地の南20マイルにあるLZ(landing zone, 降着地域)エルボーでNVG(night vision goggle, 暗視眼鏡)を使用した超低空飛行訓練を行っていました。LZエルボーは、南側と西側が凍結した湖に接していました。また、その北側には、高さ約150フィートの送電線が東西に走っていました。しかし、超低空飛行訓練中に離着陸を演練できる場所は、このLZ以外になかったのです。
飛行間の気象は、視程3マイル、雲高3,000フィートのブロークン(とぎれとぎれ)と予報されていました。風は弱かったのですが、風向は一定ではありませんでした。LZの地面と凍結した湖面の上には約4〜5インチの雪が積もっていました。このため、最初のアプローチにおいては、高度3フィートでホバリング停止し、着陸時にホワイトアウト状態が生じないかどうかを確認しました。機長も私も、LZと湖面の境目を把握できているつもりでした。また、雪は湿っていて重く、ホワイトアウトが発生する恐れはありませんでした。
一旦離陸した後、2回目のアプローチでは接地することにしました。接地後、機長が徐々にスキッドに重量をかけると、機体の左側が急激に下がりました。左側を確認すると、スキッドが氷を突き破って水中に沈んでいるのが見えました。まだ操縦を続けていた機長は、出力を徐々に増加させ、3フィートのホバリングに復帰しました。基地に帰投した後、目視検査を行い、着陸装置への損傷の有無を確認しました。幸いなことに、どこにも損傷はありませんでした。
さて、何が問題だったのでしょうか?
LZの地形把握に自信を持ちすぎていた我々は、着陸時に南側に寄りすぎ、左側スキッドを凍った湖面の上に乗せてしまったのです。その夜、NVGを使っていた我々は、新雪に覆われたLZにまんまとだまされてしまったのでした。LZの境界は、氷に覆われた湖面と見分けがつかなくなっていました。
後から考えると、最初のアプローチではランディングライトを使用して、障害物の有無やLZエルボーの境界線をしっかりと確認すべきだったのです。2番目のアプローチにおいてダイナミックロールオーバーが発生せずにすんだのは、操縦していた機長が傾斜地に着陸するようなつもりで徐々に出力を減少させたため、直ちに出力を回復してホバリングに移行することができたからでした。
操縦課程やレディネス・レベル1を目指した練成訓練においては、「着陸は、常に傾斜地への着陸だと思って行え」とよく指導されたものです。今では、そのように指導されたからではなく、自らの経験からそれが正しいことだと信じています。その後も、超低空飛行訓練の際には、引き続きLZエルボーを使用しました。ただし、新雪が降った後、夜間に着陸する場合には、昼間のうちに詳細な事前偵察を行うようになりました。もちろん、すべての着陸を傾斜地への着陸のように慎重に行ったのは、言うまでもありません。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:1,368