テクニカルトーク:新型の航空機用サーキットブレーカ
現在のメカニカル・サーキット・ブレーカーは、数十年も前から使用され続けてきた。ごく最近まで、その代替品はほとんど存在しなかった。
しかしながら、半導体技術の進歩に伴い高速スイッチング動作に対する要求が増大し、成熟した効率的な高速スイッチング半導体技術を利用したソリッドステート・サーキット・ブレーカーの開発に拍車がかかった。
メカニカル・サーキット・ブレーカ (MCB) は、 2つのトリップ機構を有している。1つは短絡時に電磁石が磁場を生成し、アーマチュアをトリップさせる電磁機構であり、もう1つは過負荷電流発生時にバイメタル・ストリップが加熱して曲がり、サーキット・ブレーカの接点を開くバイメタル機構である。この方式は、ブレーカーがトリップした際に、接点間に電圧アークが発生してイオン化ガスと金属が気化し、接点が融合して短絡する恐れがあるという欠点があった。
一方、ソリッドステート・サーキット・ブレーカ (SSCB) は、可動部品のない半導体ベースのデバイスとなっている。SSCBは、主として、パワー半導体およびそれと並列に配置された電圧クランプ回路、ゲート・ドライバ、ならびに障害検出回路で構成されている。アイドル状態のパワー半導体は、オン状態であり、障害が発生するまで導通状態を維持する (一部の半導体タイプにおいては、アイドル状態でオフ状態になっているものもある)。障害検出回路は、パワー半導体を通過する電流を継続的に監視する。障害が発生すると、パワー半導体はゲート・ドライバを介してオフ状態に切り替えられる。電圧クランプ回路は、システムのインダクタンスに蓄えられたエネルギーによってパワー半導体に蓄積した電圧が許容電圧制限を超えた場合に作動し、電圧を公称値にクランプする。
SSCBは、可動部品が存在しないため、応答および作動時間がMCBの何倍も速く、応答時間が数十マイクロ秒から数十ナノ秒へと短縮される。半導体デバイスは、オフ状態に切り替わるために比較的小さい電気信号しか必要とせず、数十ナノ秒からマイクロ秒で切り替えが行われる。また、SSCBのトリップ時間は、MCBの100分の1以上に短縮される。
SSCBは、MCBの優れた代替品のように見えるが、MCBとSSCBの双方が混在する場合には、問題を生じさせる可能性がある。重大な問題の1つは、「セレクティブ・コーディネーション(選択的な調整)」である。セレクティブ・コーディネーションとは、配電システムに障害が発生した場合に、障害の下流にあるセクションへの電源を遮断し、分離するプロセスである。そうすることによって、上流のサーキット・ブレーカーの不要なトリップを回避し、障害の影響を受けていないセクションへの電力供給を継続できる。SSCBがMCBの下流にある配電システムでは、セレクティブ・コーディネーションに問題は生じない。しかし、SSCBが「メイン」となり、他のMCBの上流にある場合には、問題が発生する可能性がある。過去10年間の研究により、すでに解決策が示されている。その1つは、障害が発生した場合にSSCB内の半導体デバイスがオンとオフを繰り返し切り替えることによって、障害電流の二乗平均平方根 (RMS) 値を下げ、発生するパルス電流をヒステリシス・ループで調整するものである。この調整により、障害電流のRMS値を、SSCBが早期にトリップするのを防ぐ程度に低く、かつ、適切な下流のMCB がトリップして障害を分離できる程度に高く維持することができる。
ジダン・M・ヘシャムは、アラバマ州レッドストーン工廠に所在するシステム・レディネス部エレクトリカル・アンド・エンバイロンメント部門に所属する電気エンジニアです。
SSCM(ソリッドステート・サーキット・ブレーカ)の一例(訳者追加)
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2023年01月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:1,099