教訓 – 予期せぬことが起きた時は、安全を最優先に
アメリカ東海岸の美しい春の日、私が所属する分遣隊は、司令官によるコネチカット州グロトンのグロトン AVCRAD(Aviation Classification Repair Activity Depot, 航空修理補給所)の現地視察を空輸することになりました。私たちの部隊は、ウェストバージニア州パーカーズバーグのミッドオハイオ・バレー地方空港を拠点としてC-12Y型機を運用していました。主体はVIP任務でしたが、他の国防総省機関のための州内での様々な飛行任務も割り当てられていました。私と副操縦士は、いつもどおりに飛行経路を計画し、飛行計画を提出し、気象ブリーフィングを受け、空港のNOTAMを確認し、リスク評価を完了し、ブリーフィングを行うと、機体の飛行前点検を開始しました。その任務のリスクは低いと判断され、天候はほとんどVFR(有視界飛行方式)であり、沿岸部に若干の低シーリングが予想されるものの、正午までには回復すると見込まれていました。私はこの飛行の全行程で機長を務め、副操縦士が左席に座ることになりました。彼女は教官パイロットであり、民間固定翼機のパイロットを務め、C-12での飛行時間が2,000時間以上の、私よりも豊富な経験を有するパイロットでした。私のC-12での飛行時間は350時間弱、総飛行時間は約1,000時間でした。
目的地までの飛行は、ニューヨーク市の北側でのルート変更を除いて、特に変わったことはありませんでした。コネチカット州への降下を開始すると、航空機衝突防止装置(TCAS)により、空港のトラフィック・パターンを飛行する機体が何機か確認できました。シーリングの回復が十分ではなかったため、雲層を抜けた後も目視進入ではなくRNAV(広域航法)進入を要求しました。進入管制官は、コースをインターセプトするように機首方位を指示し、管制塔に交信を切り替える前に最終許可を与えました。管制塔に無線を切り替えるとすぐに、小型セスナ機がトラフィックパターンのダウンウインドを飛行中なのが分かりました。管制塔は、私の機体との交信がを確立すると、最終進入フィックスで通報するように要求し、セスナ機との交信を始めました。最終進入フィックスを通過した私たちは、管制塔にその旨を通報し、降下を開始しました。管制塔は私たちに進入を続けるように指示した後も、セスナ機を先に着陸させようとしていました。この時点で、私たちは滑走路から約3マイル手前のファイナルにいました。セスナ機の進入速度は分かりませんでしたが、130から120ノットで飛行している私たちよりも遅いようでした。管制官がセスナ機に私たちよりも先に着陸する許可を出すと、そのセスナ機が私たちの飛行経路上に進入してきました。副操縦士と私はお互いに顔を見合わせ、ゴー・アラウンドを準備すべき状況であることを確認し合いました。セスナ機への接近速度が速すぎ、十分なセパレーションが確保できていないと感じた時、私よりも先に副操縦士の彼女がゴー・アラウンドを宣言しました。私たちは、直ちにゴー・アラウンド手順を開始しました。彼女は躊躇(ちゅうちょ)することなく出力を上げて上昇し、トラフィック・パターンに戻りました。
私たちはビジュアル・アプローチで無事に着陸しました。エンジンを停止した後に、何が起こったのかを話し合うと、なぜあのような展開になったのか、多くの疑問が湧いてきました。私にとって実際にゴー・アラウンドを行うのは始めてのことでした。私には、なぜ管制塔がセスナ機に着陸許可を出したのか理解できませんでした。私たちが話し合ったことの中には、この事案から学んだことや、同じ状況が再び生じた場合に行うべきことがいくつかありました。小さな空港のトラフィックは混雑しているのが常態です。最初からビジュアル・アプローチを選択していれば、トラフィック・パターンに入って順序よく進入できたかもしれません。ゴー・アラウンドの決断を躊躇せずに下すということも、私の意思決定プロセスに修正を加えるべき点の 1 つです。固定翼機の着陸経験が不十分だった私は、必要以上にそのまま何とかしようとした可能性がありました。少しでも疑問が生じた場合は、ゴー・アラウンドを行うべきです。ゴー・アラウンドの理由を説明するのは、セスナ機の後ろに衝突することに比べれば、はるかに簡単なことです。加えて、あらゆる不測の事態に備えることが重要だということです。私たちはすべての項目についてブリーフィングを行い、飛行中に想定される事象について話し合い、必要なすべての確認を事前に実施していました。
十分に準備を整え、事故を避けるために必要なすべての手順を踏んでいたとしても、時には手に負えない状況が生じる場合があります。 そのような場合でも、適切に行動し、搭乗者や搭乗員の安全を確保できるようにしておかなければなりません。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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