AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

死角を埋める

上級准尉2 マーク・ヘス
第2-104全般支援航空大隊C中隊(航空医療後送中隊)
ウェスト・バージニア州陸軍州兵

状況把握と警戒を口が酸っぱくなるほど説くことはできますし、危険な状況に陥らないための手法を際限なく訓練することもできます。しかし、一人の人間がすべてを監視することはできません。航空の世界では、こうした死角を埋めるのに搭乗員全員の力を頼りにしています。隊員の教育においては、安全を単なる義務としてではなく、仲間の兵士を守ることの延長として捉えることが欠かせません。

先日の訓練飛行で、私たちは暗視眼鏡を装着して夜間にブラック・ホークを飛ばし、2機がようやく収まる広さの平坦な開けた場所に着陸しようとしていました。ヘリコプターを未舗装の降着地域に進入させる際には考慮すべき要素が山ほどあります。私はその一つ一つを頭の中で確認していました。機体を約10フィート(約3メートル)の高さまで降ろしたところで、右側の機付長が内部通話装置で大声を上げました。「着陸復行、着陸復行、着陸復行!」

私は即座に出力を上げ、機体を上昇させて前方の木々を飛び越えてから、何があったのかと機付長に尋ねました。機付長によると、ちょうど接地しようとした時に、右手の林から鹿が飛び出し、テール・ブームの真下を駆け抜けていったとのことでした。ブラック・ホークが頑丈な航空機であることは承知していますが、大型の哺乳動物をテール・ブームで押しつぶしたらどうなるかという実験に加わるつもりはありません。私たちはその夜の残りの時間も訓練を続け、任務を完遂しました。

帰投後、私たちは検討会を行いました。テール・ローターで危うく鹿肉のジャーキーを作るところだったと皆で大笑いしましたが、その裏にある現実には身の引き締まる思いがしました。搭乗員が全員で任務に当たり、刻々と変わる状況に即応できる態勢をとっていなければ、重大な事故につながる可能性があったのです。

教訓事項

航空部隊の安全を保つためには、構成員全員に、ためらわず声を上げる権限が与えられていることが必要です。指揮官から新しく着任したばかりの兵士までの誰もが、危険な状態に気づける者として信頼され、搭乗員全体のために声を上げる権限を与えられていなければなりません。このことが、任務を成功させ、事故なく運航できる気風を生み出します。軍事作戦に参加する者は誰しも、ある程度の避けられないリスクを負っています。しかし、機内の誰もが懸念を口にできるようにしておくことは、最善の予防策のひとつです。「人手が多ければ仕事は楽になる」(many hands make light work)とよく言われます。その手の一つ一つが互いを守ることに力を尽くし、そのための権限を与えることが、安全な任務の遂行につながるのです。

危機一髪だった出来事を進んで語り合うべき理由も、まさにこの、誰もが声を上げてよいという考え方にあります。航空部隊では、一度も話題にされず報告もされていない航空不安全が数多く起きていることを、私たちは確かに知っています。しかし、こうした事案こそ、航空事故とまったく同じ視点で検証することがきわめて重要です。ローターが止まってしまえば、危機一髪だった出来事を軽く受け流したくなるものですが、その経験を共有すれば、その不安全は生きた教材に変わります。語られずにきたこうした出来事を明るみに出すことが、搭乗員を強くし、技量を磨き、すべての兵士が無事に帰還して、また次の日も飛べるようにすることを確かなものとするのです。

訳者コメント:
筆者が所属する全般支援航空大隊は、戦闘航空旅団の隷下にあって、指揮統制用のUH-60を持つ中隊、CH-47を持つ中隊、医療後送を担う中隊、整備や補給を担う中隊などで構成される大隊です。筆者のC中隊は医療後送機を運用する航空医療後送中隊であり、夜間に狭い未舗装の場所へ降りることは、負傷者を収容する本来の任務そのものと言えます。
米陸軍の回転翼機で使われる暗視眼鏡の視野は約40度と、肉眼よりはるかに狭く、周囲を見るには頭を動かして見回さなければなりません。着陸の最終段階では、操縦士の注意は接地点と前方の障害物に集中します。本件で鹿に気づいたのが、機体右側の見張りを受け持っていた機付長だったのは、このためです。暗視眼鏡を着けた夜間の着陸では、操縦士だけで機体の周囲すべてを見ることはできません。題名の「死角」は、まさにこの状態を指しています。
筆者は機付長の「着陸復行」の声を聞くと、理由を尋ねる前にまず出力を上げ、前方の木々を越えて安全を確保してから、何があったのかを尋ねています。教訓事項で筆者が説く「誰もが声を上げられる」ことは、声を上げる側の勇気だけでなく、その声を受けた操縦士が疑わずに直ちに行動するという関係があって初めて安全につながります。
帰投後の検討会では「テール・ローターで鹿肉のジャーキーを作るところだった」と冗談が出ています。ブラック・ホークのテール・ローターは尾部の右側に取り付けられており、接地した状態でも回転面の下端は地上約6フィート8インチ(約2メートル)の高さにあります。しかし、驚いた鹿は跳び上がって逃げるものです。鹿は機体の右側から飛び出しており、テール・ローターに当たるおそれも十分にありました。
                               

出典:Filling the Blind Spots, RISK MANAGEMENT MAGAZINE, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年9月27日

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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