湖水効果雪との遭遇
多くのパイロットは、飛行中に天候の急変を経験したことがあるものです。その経験は、それが良いものか悪いものかに関わらず、あなたのその後の飛行に影響が生じる可能性があります。私自身も、操縦課程に入校中に視界ゼロ状態の雲の中に飛び込んでしまったことがあります。その時、隣の席にいた教官操縦士には、今でも感謝をしています。
また、イラクにおいても、視界不良の状況の中、患者後送任務を行ったことがあります。しかしながら、五大湖周辺の予報官や住民たちに「湖水効果雪(Lake-Effect Snow)」として知られる現象に対しては、何も備えができていなかったのです。
イラクへの派遣から8か月ぶりに帰国した我々は、ニューヨーク州フォート・ドラムへの航空機の管理替を1機ずつ行っていました。その日、我々は、フォート・ドラムへの最後の飛行を行っていました。前回カンサス州に戻る前には、そこで1日の休暇を過ごしていました。その時までの飛行は、極めて順調なものでした。素晴らしい天候の中、何の問題もなく任務を遂行できるものと考えていました。
しかし、状況は、変わりつつありました。
オンタリオ湖の南岸のフォート・ドラムまで約50キロメートルの地点を飛行していたとき、視程が悪化し始めたことに気が付きました。
視程15キロメートル程度の晴れやかな天候が、視程8キロメートルくらいまで急速に悪化したのです。フォート・ドラムに進入できない場合の予備の目的地として、ウォータータウン空港を考えていた我々は、そこの気象情報を確認し、この悪天候かどこからどこに動いているのかを把握しようとしました。ウォータータウンとフォート・ドラムからの気象情報が得られれば、天候の良い方向に向かって飛行を継続できるのではないかと期待していました。しかしながら、情報を入手すればするほど、我々はますます混乱してしまいました。約25キロメートルしか離れていない2つの飛行場は、それぞれが視程15キロメートルでノーシーリング(雲がない状態)だと言ってきたのです。
じ後の行動について議論している間にも、視程や雲高の状況は、ますます悪化し続けていました。我々は、減速し、VFR飛行を続けることを決心し、氷結とそれにより生じる機械的不具合を回避するため、雲の中に入らないように努めていました。
また、フォート・ドラムの管制塔と連絡を取り、状況を通知するとともに、気象予報の提供を要求しました。そこからの回答は、不可思議なものでした。管制官は、現地は視程5キロメートル、シーリング450メートルだと今度は言うのです。
恐ろしくて速度を上げることはできませんでした。視界が失われることが何回もありました。視界を確保しつつ飛行するためには、低空を低速で飛び続けるしかありませんでした。
幸運なことに、管制塔の協力が得ながら(当該空域に他の航空機が飛行していなかったことも幸いして)、3キロメートル手前で飛行場を視認し、異状なく着陸して任務を終えることができました。
教訓事項
着陸後、地元のパイロットたちや飛行場関係者たちから、湖水効果という気象現象についての話を聞くことができました。その内容は、その任務の前までそれについて説明を受けたことがなかった我々にとって、全く知らないことばかりでした。冬季間、冷たい風がオンタリオ湖の温かい水の上を通り抜けると、内陸部に雨を振らせたり、湖岸に沿って霧を発生させたりすることが分かりました。綿密に計画を立て、最新の気象情報や地域情報を収集していたとしても、予期しない悪天候に遭遇する可能性があります。加えて、地上の観測員からの情報は、操縦士が上空で身の毛のよだつような思いをしてい状況を正確に反映できていない可能性もあります。
天候の急速な悪化に遭遇したならば、SOP(標準対応手順)に従い、速度を減じ、搭乗員としてコミュニケーションの維持とリスクの管理を適切に行い、最善の行動方針を決定することが重要です。
あなたの判断に疑問を呈する者もいるかもしれないし、もっと良い方法があったと主張する者もいるかも知れません。しかしながら、地上でクォーターバックでいることは、上空で危険を目の当たりにしながらコックピットにいることに比べれば、はるかに容易なことなのです。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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