CH-47における編隊飛行中の機体制御不能
RC-Eastと呼ばれるアフガニスタン東部地域の気温は、夏には華氏120度(摂氏約49度)を超えます。この不安全が起こったのも、そんな暑い午後のことでした。私の部隊は、2機のCH-47Dチヌークでカブールからバグラム飛行場まで40名の人員を空輸するという任務を受領しました。誰もが、それを単純な任務だと考えていました。しかし、誰もが知っているように、そんなものはこの世に存在しないのです。
搭乗員の選定は、飛行時間に基づいて行われました。まだ飛行時間が400時間しかなかった私は、搭乗員の中で最も若いパイロットでした。私の機長であり、編隊指揮官であった少佐は、1500時間以上の飛行時間を経験していました。私の搭乗した2番機の搭乗員は、チヌークでの経験が豊富な者ばかりでした。1人は小隊陸曹兼FE(機上整備員)であり、もう1人は分隊長兼FEでしたし、ジャンプシートに座っていたのは大隊の救急救命士としての資格を持つ熟練した機付長でした。
1330の離陸に間に合わせるため、1230頃に機体へと向かい飛行前点検を開始しました。1325、1番機に離陸準備完了を無線連絡し、1番機が管制塔に離陸を要求しました。離陸から10分後、管制塔との無線周波数を変更すると、巡航チェック(巡航飛行中にチェックリストに基づいて行う計器などの確認)を行うことにした私は、他の搭乗員に視線を機内に移し、見張りを中断することを伝えました。飛行高度は対地約1000フィート、飛行速度は計器指示速度110ノットでした。
チェックを開始してから1分後、機体に異常な振動を感じました。視線を上げると、1番機の直後を少し低い高度で飛行していることに気づきました。パイロットであれば誰でも分かるとおり、これは、どんなヘリコプターであっても、編隊飛行中に絶対やってはならないことの1つです。私は、少佐と1番機を交互に2,3回見比べました。機長に、もう少し左か右、そして同じ高度かもう少し上を飛行するように言おうと思ったその時、機長が操縦かんを操作すると同時に、機体の後端が前方に大きく振られました。
私は、操縦かんに手を伸ばし、機体を制御しようとしました。その時、機体の後端が垂直に持ち上がり、天井部の窓から地面が見えるほどになりました。イナーシャ・リール(ショルダーハーネスのロック機構)が固定されてしまったため、AFCS(自動操縦系統)の制御スイッチには手が届きませんでした。機長と私は、操縦かんを必死で操作しました。それは、数分間も続いたように思われましたが、実際には15~20秒間のことだったようです。やっとのことで、機体の制御を取り戻した時、機体は目的地と反対方向に向かって進んでいました。1番機を呼び出し、操縦系統に不具合が発生した可能性があるため、基地に帰投することを連絡しました。
機体が制御できなくなった間に、ランプ(後部ドア)に位置していた機付長は、床に背中から投げ出されましたが、猿回し(落下防止用ハーネス)のおかげで体が止まりました。右側ドアに位置していたFEは、猿回しを付けていましたがシートベルトを装着していなかったため、ヒーター室に飛び込んでしまいました。左側のドアガン(機銃)に位置していたもう1人のFEは、シートベルトを装着していたため、座席から投げ出されずに済みました。この不安全において、最も残念だったことの1つは、1番機に搭乗していた隊員の1人が2番機をカメラで撮影していたのに、制御不能になる直前に電源を切ってしまっていたことでした。
飛行場に帰投した後、試験飛行操縦士により確認飛行を行いましたが、機体には何の異状も見つかりませんでした。負傷者はありませんでしたが、この不安全のため、救急救命士である機付長を含むすべての搭乗員は、当該派遣間、飛行を再開できませんでした。また、この不安全は、指揮系統を通じて報告されましたが、その時点では、その原因は、山岳地域に特有の風か、AFCSの不具合によるものであろうと推定されていました。
数週間の調査の後、ILCA(integrated lower control actuator)(縦方向の操縦を制御する自動操縦系統機器)に十分な電圧が供給されていなかったため、飛行制御が適切に行われなかった可能性があるという報告書が発出されました。ただし、自分としては、機体の1番機に対する相対位置がこの不安全に影響を与えたのではないかという疑念をぬぐい切れていません。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
FEや機付長は、飛行中、シートベルトを装着できない場合、必ず落下防止用ハーネスを着用すべきでしょう。
「There were no injuries, but because of this event, everyone onboard, including the flight surgeon, was done flying for the rotation.」という原文を「負傷者はありませんでしたが、この不安全の後、救急救命士である機付長を含むすべての搭乗員が再訓練を受けることになりました。」と訳していました。しかし、Risk Managementの編集者に確認したところ、この「flying for the rotation」は、「they didn’t fly anymore during that tour of duty」を意味するとの回答を得ました。よって、「負傷者はありませんでしたが、この不安全のため、救急救命士である機付長を含むすべての搭乗員は、当該派遣間、飛行を再開できませんでした。」へと訳文を変更しました。