ヘリコプターによる対IED戦闘
アフガニスタン南部における状況
南部アフガニスタンが米国中央軍の作戦地域の中でも最も危険な地域であることに、異論のある者はいないであろう。
南部アフガニスタンの人々は、アフガニスタン政府による秩序の維持及び公的サービスの提供に対する不満から、タリバンの反政府活動を支持する傾向にある。米国中央軍は、アフガニスタンの人々の支持をタリバンから取り戻すため、人々をタリバンの支配下から解放し、保護することに努力してきた。
ごく最近まで、アフガニスタン南部に配備されている国際治安支援部隊(ISAF, International Security and Assistance Force)の勢力は不十分であり、このことが反政府勢力の拡大を許してきた要因のひとつであったが、昨春から始まった米軍の増強により、この傾向に変化の兆しが見えてきた。国際治安支援部隊の増強に伴い、その作戦成功率も高くなってきたのである。しかしながら、この進展の背景には、米国及びその同盟国並びにアフガニスタンの人々の生命や財産という大きな犠牲があったことを忘れてはならない。
反政府勢力は、非常に凶暴な集団ではあるが、その指導者達は、ヘリコプター等の最新装備を有する多国籍軍に直接対決を挑んでも勝ち目がないことを理解している。このため、IED(improvised explosive device簡易爆発物)兵器を使用するようになり、これが多国籍軍の人員・装備及びアフガニスタンの人々に甚大な被害をもたらしてきた。
単純だが威力が大きいIEDは、典型的な「非対称の脅威(訳者注:国家体と非国家体の間に生じる脅威)」として、国際治安支援部隊の前に立ちはだかっている。国際治安支援部隊は、IEDによる死傷者が発生するたびに、ボディー・ブローを食らったような衝撃を受けてきたのである。
IED設置を阻止するための戦闘は、OH-58Dカイオワ・ウォーリア及びAH-64Dアパッチを用いて行われている。戦闘の実施にあたっては、TTP(Tactics, Techniques, Procedures, 戦術、手段及び手順)、反政府勢力のIED設置の傾向及び利用可能な情報源を継続的に見直し、敵の戦法の解明に努めてきた。
反政府勢力のIED設置組織は、指揮官、出資者、製造者、教育者及び設置者(IEDを仕掛ける者)により構成され、それぞれが複雑に連携している。国際治安支援部隊は、これらの構成要素すべてに対し、何らかの対応を行っているのであるが、本記事においては、IED設置者への対応に的を絞って述べることにする。
何が起こっているのか?
IED設置には、何らかの兆候が認められるのが一般的である。まず、IED設置グループ(通常1-8名で構成される)がIEDを設置しているところを「誰か」が「見る」場合がある。また、それよりも早い段階で、IEDを設置しようとしていることを「誰か」が「聞く」場合もある。さらに、IED設置者との交戦に際しての周辺地域の掃討や交戦後の戦果拡張により、IED組織の全容解明に役立つ情報が入手できる場合もある。ただし、本記事では、IED設置の兆候を「見る」又は「聞く」ために必要な事項についてのみ、簡潔に説明することとする。
IED設置者との交戦は、IEDによる損耗を防止するための最終手段である。交戦が始まると、設置者以外のIED組織の構成要素に関する情報を入手することは、著しく困難となる。しかしながら、IED設置者との交戦は、どうしても避けて通れない場合が多い。国際治安支援部隊及びアフガニスタンの人々の行動の自由を確保するためには、緊要な通信網及び道路網を敵に支配させるわけにはいかないのだ。
IED設置者に対する戦闘を積極的に実施することは、反政府勢力に「IEDの設置は、自らの壊滅をもたらす」ことを認識させることに役立っている。また、IED設置者をIED設置者から見えも聞こえもしない距離から攻撃し、撃破することは、絶大な心理的効果をもたらしており、反政府勢力に攻撃及び偵察ヘリコプターの威力を認識させることに役立っている。このため、IED設置者は、ヘリコプターの存在に気づいただけで、IED設置を中止し、逃亡する場合が多い。ヘリコプターの威力は、十分な信念のないままにタリバンに追従している反政府勢力に対し、IED設置を思いとどまらせる抑止力として機能しているのだ。
視覚による情報収集
M-TADS(Modernized-Target Acquisition Designation Sight, 改良型目標捕捉・指定照準装置)が装備されたAH-64Dアパッチヘリがイラクに配備されると、戦闘の様相が大きく変化した。敵の兵器とその活動を観測できる高解像度のセンサーを装備したアパッチは、視程距離外から敵情を偵察できるようになった。M-TADSがアパッチにもたらした「敵から発見されないうちに、敵を発見し、攻撃できる」という極めて単純な能力が、攻撃ヘリコプターの性能を劇的に向上させたのである。
ここアフガニスタンにも、M-TADSを装備したAH-64Dアパッチが配備され、大きな成果を収めている。しかしながら、アフガニスタン南部の戦場は、1個ARB(Attack Reconnaissance Battalion, 戦闘偵察大隊)のアパッチが担任するには、あまりにも広すぎる。
したがって、緊要な通信網に沿った偵察及び国際治安支援部隊車両縦隊の護衛といった軽易な任務の遂行には、30機のOH-58Dカイオワ・ウォーリアを用いてきた。カイオワ・ウォーリアのアフガニスタン南部への常駐は、国際治安支援部隊とアフガニスタンの人々を脅かし続ける反政府勢力から、武器の再補給やIEDの設置等の行動の自由を奪うことに大きく貢献している。
また、UH-60Lブラックホークも、緊要な通信網の偵察等を実施し、OH-58Dカイオワ・ウォーリアと同じ役割を果してきた。IED設置を防止するための航空偵察を繰り返し実施することが、国際治安支援部隊の目的達成に役立っている。
IEDによる国際治安支援部隊所属人員及びアフガニスタン人の死亡者数は、昨年よりも減少する傾向にある。しかしながら、反政府勢力も、ヘリコプターの威力に対応できる新たなTTPを模索する等、我々の戦法に対する順応を進めており、今後も引き続き警戒が必要である。OH-58Dカイオワ・ウォーリア等とM-TADSを装備したAH-64Dアパッチを相互に補填させあいながら運用することが、緊要な通信網等を反政府勢力から防護するために不可欠である。
アフガニスタンの人々には、誰もが自由に往来できる道路が必要であるが、ここアフガニスタン南部の町同士をつなぐ道路については、反政府勢力のIED設置により、アフガニスタンの人々による修理、管理及び新設のための努力が、なかなか実を結ばない状況にある。このため、国際治安支援部隊に新規あるいは既存のシステムを導入して戦闘・偵察ヘリコプターの性能向上を図り、より遠方から敵を偵察できる能力を付与することが急務となっている。
導入が可能なシステムには、各種のISR(Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance, 情報、監視及び偵察)機器、VUIT-2(Video from Unmanned Aircraft Systems for Interoperability Teaming – Level 2, レベル2の相互運用チーム用無人偵察機から得られる映像)及びAH-64DのV/NIR(Visible/Near Infrared, 可視光線及び近赤外線)偵察システムがある。
対反乱作戦(COIN, counterinsurgency)で用いられるヘリコプターの性能向上に係わる開発、調達及び技術の担当者には、新規システムを国際治安支援部隊の戦士達に供給するための業務を遅滞なく行うように要望しているところである。
航空科職種は、大成功を収めたM-TADSの考え方を踏襲した技術開発を継続すべきである。搭乗員達の状況認識を向上させるシステムに、無駄なものはひとつもないはずだ。
聴覚による情報収集
高性能なセンサーを用いれば、敵の台本をあらかじめ読むことが可能となる。敵の台本からは、有益な情報が得られることが多く、IED組織を完全に崩壊(または撲滅)できる可能性もある。また、シギント(SIGINT, signals intelligence, 信号情報)により、我に情報が漏れていることを知った敵が、そのC2(command and control, 指揮及び統制)を崩壊させてしまうという副次的な効果が得られる場合もある。
シギントの効果を向上するためには、地域の特性に適応したヘリコプター用センサーが不可欠である。国際治安支援部隊が南部アフガニスタンへの展開を開始した時点では、戦場全域に適応できるシギント能力が不足していた。実際のところ、ヘリコプターで利用可能なシステムは、無いに等しかったのである。第82CAB(Combat Aviation Brigade, 戦闘航空旅団)は、この問題を改善するため、第159CAB及び関連機関と協力し、新型のDF(direction finding, 方位探知)シギント・システムを調達した。
現在までに、1個シギント・システムの導入を完了し、さらに1個システムを導入中である。本システムの導入に際し、関連航空企業はすばらしい対応をしてくれた。今後も部隊の要求を予測し、先行的な業務を実施していただきたいと思っている。特にUH-60Lブラックホーク用のシギント装備の開発が加速すれば、対反乱作戦部隊の装備の近代化が一挙に前進すると考えている。
結 論
対IED戦闘の技術サイクルは、「ミサイル→ミサイル対抗手段→ミサイル」の技術サイクルと良く似ている。我々の敵は、我の対IED戦闘に対し、戦術的及び技術的に順応し、改善してゆく能力を有している。
「対IED戦闘の成功率100%」という目標に向かい、我々は常に「我々にとって必要なものは何なのか?」を自問し続けなければならない。さらに、それが「敵を見ることに役に立つのか?」、そして「敵を聞くことに役に立つのか?」と自問することも忘れてはならない。
これまでの技術的適用には、これらの問いに直接に答えるものではないが、間接的な効果をもたらしたものも多い。一例として、UH-60Lブラックホークに搭載されたM134ミニガンがある。これは、ブラックホークが武装援護支援において自らを防護するための一般的なシステムとして開発されたものである。このシステムを装備したブラックホークを活用することにより、南方地域コマンドにおけるAH-64Dアパッチ及びOH-58Dカイオワ・ウォーリアの出撃数が1日あたり9ソーティ削減され、その分の出撃数を対IED戦闘に振り向けることが可能となり、反政府勢力のIED設置者を撃退する機会を増加することができた。
ヘリコプター及びその搭乗員は、南部アフガニスタンにおいて、顕著かつ明確な成果を上げている。移動の自由の確保は、南部アフガニスタンにおける任務の遂行に際し、最も重視しなければならない要素である。反政府勢力のIED組織、中でも直接的危害をもたらしているIED設置者を撃退する能力の向上を図る唯一の方法は、本記事で述べた各分野について、国際治安支援部隊の戦士達に対する援助を継続することなのだ。
陸軍大佐ポール・W・ブリッカーは、タスク・フォース・ペガサスの第82戦闘航空旅団長であり、陸軍中佐ジョン・ニュージェントは、タスク・フォース・エクスペリメンタルのテスト・パイロットです。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2009年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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